第7話 ギルマス登場!私、フツーの新人冒険者ですよ?
別視点が入ると長くなりがちです……。
「今日は話を全部聞き終わるまで帰れると思わないでくださいね」
にっこり笑うヴィエラだが、その笑顔に恐怖を感じる。
私が何したってゆーの!?
昨日、薬の効果が切れて元の姿に戻る前に帰った私。
そんなに大したことしてないし、群生地を聞きたいんだろうなくらいに思いながらギルドの扉を開けた。
朝だからかビールではなくコーヒーの匂いがして、徹夜した時に飲んだなぁとしみじみ前世を思い出しながら中へと進んだ。
まぁ私は紅茶派だったから本当に目覚まし代わりに飲んでたんだけど。
しーーん
ヒソヒソ
……私いつの間にか時を止められるようになったんだなぁ~
このギルド限定だけどね!!
心の中で嫌味を言いながら相変わらず表情を変えずに依頼が貼ってある掲示板へと向かう。
掲示板は大きな木の板のようなもので、ランクごとに分かれている。
依頼はそれぞれ紙に内容が書いてあって、受けたいものを剥がして受付に持っていくのだ。
Fランクの依頼は……
ゴブリン3匹の討伐か、下水道の掃除か、ライマットの実の採取か、リドーナ草の採取かぁ…
まだ魔術使えないから討伐の依頼は受けられないし、掃除は好きじゃないし……
そうなると採取かぁ
どっちにしようーーー
私はライマットの実かリドーナ草のどちらにするか悩んでいると、声をかけられた。
「ジュンさま!!!」
「は、はい!!」
驚き思わず返事をして声の発生源を見ると、そこにはヴィエラと少し後ろにチェルシーがいた。
「ヴィエラさん、チェルシーさん、おはようございまーー」
「おはようございます、ジュンさま。いらっしゃった早々で大変申し訳ないのですが、昨日のお話を聞きたいのでこちらに来ていただけますか?」
挨拶の途中でヴィエラが割り込んできたと思ったら、受付の右隣にある部屋へと促される。
なんとなく逃げられないような気がした私は「……はい」と力ない返事をし、おとなしくついていくことにした。
案内された部屋に入ると、そこにはソファーと机しかなく、応接室のようだった。
ヴィエラに促され、ソファーに座るが、ヴィエラは向かい側のソファーの後ろに立っていた。
そのことに疑問を抱いていると、彼女は笑顔を浮かべながら恐ろしい言葉を口にする。
「今日は話を全部聞き終わるまで帰れると思わないでくださいね」
私が何したってゆーの!?
意味が分かっていない私は援軍が欲しくてチェルシーに助けを求めようとする。
しかし部屋に入る前まで一緒にいたチェルシーの姿がないことに気づいた。
キョロキョロと探していると、ノックが聞こえてくる。
ドアの方を向くと探していたチェルシーがいて、大男を案内したあと部屋を出ていった。
案内を受けて入室してきたその男は、赤茶の髪の毛と同じ色のヒゲを生やしていて、顔一周が毛で覆われていた。
さらに左眉の上には古傷があり、眼光も鋭かった。
体にはしっかりとした筋肉がついていて、まさに熊って感じだった。
誰……??
いきなり現れた大男に対し疑問を持っていると、その男が私の向かいに座りながら答えた。
「こんなところに来てもらって悪いな。言いたいことがあったんだ。…まずはオレはバロム、ギルドマスターをやってる者だ。よろしくな」
ギ、ギルドマスター?!?!!!!
はぁ~?!!!?
なんでそんな大物が昨日登録したばっかの新人に挨拶来てるの!?
漫画でもそんなの見たことなかったけど!?
え?そーゆーものなの?!通過儀礼とか?!?!
いきなりの大物の登場に理由がわからずパニックになっていると、さらに言葉が続いた。
「ほぉ~驚かねぇか!肝が据わってんなぁ!ガハハハ!」
「アハハハ……」
いや!驚いてるよ!
顔に出してないだけね!?
すぐ顔に出たら編集者なんて務まりませんわ。
作家を宥めるのに嘘つかなきゃいけなかったりして、顔には出せないし、苦労してたんだから!
それにワタクシ、一応子爵令嬢ですから?
感情がすぐ顔に出ないよう躾けられてるんですよ!
まぁ躾けられたのは、『本物のジュリエットが』だけどね!
「もちろん驚いてますよ。顔に出ないだけですわ。……それで、ギルドマスターさまが私に何のご用ですか?」
作った笑顔をキープしたまま聞いてみる。
だって本当に理由が知りたかったから。
するとバロムは意味深な笑みを浮かべながら話し始めた。
「『さま』なんてやめてくれや。ギルドマスターかギルマスって呼んでくれればいい。で、俺がここに来たのはほかでもねぇ。お前さんに聞きたいことがあるからだ。まず1つ目はピポッタ草の群生地についてだ。
知らねぇ奴も多いがピポッタ草は上級ポーションをつくるのに欠かせねぇものなんだ。中級ポーションの材料にピポッタ草を加えれば上級ポーションができるってわけだ。
Cランク冒険者の依頼くらいまでなら中級ポーションがあれば十分だから、すぐに必要になるなんてことはあんまりねぇし、新人の冒険者に取ってこさせる依頼を常駐させて最初の依頼として勧めてるんだよ、ウチでは。
上級ポーションが必要そうな依頼を受けるパーティにはだいたいヒーラー(治癒士)がいるからな」
「……はぁ」
バロムの説明を聞き、疑問を抱いていると
「『じゃあなんでそんなに聞きたがるんだ?』って思ってんだろ?」
言い当てられてしまった。
図星な私にバロムはガハハハと笑ったあと、先ほどよりも鋭い視線を私に向けながら続ける。
「ピポッタ草が珍しいとされてる理由は、群生地が見つからねぇことだ。1束、運が良ければ2束くらいはまとめて見つかる。
だがそれ以上が近くにあるとも限らんし、ないとも限らん。
ピポッタ草はその性能がわかっているだけで、その実、栽培条件も群生地もわからねぇ植物なんだよ。
すぐに見つかるかどうかはその時の運ってこった。
つまりそんな珍しいピポッタ草を数時間で採取したうえ、群生地まで見つけたとなりゃぁ、話を聞かれるに決まってんだろ」
なるほど、そんなに貴重な薬草だったとは……
驚きが隠せないでいる私にバロムは続きを話し始める。
「で、2つ目だが……お前さん、草の妖精に会ったと言ったらしいが……本当か?」
探るように聞いてくるバロムに、先ほどからずっと疑われているように感じた私は、少しムッとしながら答えた。
「はい、会いました。彼女にピポッタ草の群生地を聞いたんです」
言い切る私にバロムは少し頭を抱え「おい、マジかよ……」と言いながら、はぁーと大きなため息をついた。
なんだか歓迎されていない感じがして嫌な気持ちになっていた私にバロムは口を開いた。
「……お前さんが色々と規格外なことはわかった。群生地も妖精も嘘じゃなさそうだな」
その言葉にヴィエラが驚いたような混乱するような反応を見せた。
なぜそんな反応になるのか頭に???が浮かぶ私。
そんな様子にバロムが説明してくれる。
「はぁ~……お前さんが会ったと言う『妖精さま』は、ここ数百年姿を見せてないんだ」
「へ?」
「草の妖精はそこまで強くないらしいが、薬草なんかをどこでも生やせるらしい」
「へ??」
「そりゃあ群生地も知ってんだろ、って話だ」
………。
はーー?!
数百年姿を見せてない!?
全然普通にいたやーーーん!!!
え!?
またしても『転生チート』ってやつですか?!
もっと他のことでチートつけてくださいよ!カミサマ!!!
ってか、数百年も姿みせてないってことは……
名前をつけたこととか言わないほうがいいよね…?
漫画とかで名付けのこと言うと驚かれるし、なんか狙われる系になるもんね
私は漫画の人たちと違ってフローラが近くにいるわけじゃないし、言わないでおこう、絶対。
絶対!!!!
ひそかに心に決めていると、バロムから質問を受ける。
「お前さん、本当は元A級魔道士だったとかないよな?」
「ないです!ないです!!!!そんなことあるわけなくないですか?そんだけすごい人だったら、最初からそれで入るに決まってるじゃないですか!なんか特権があるかもしれないんだし!」
焦った私は思わず素のままマシンガントークで返答していた。
「……ガハハハ!!!!!」
バロムの豪快な笑いが部屋に響いた。
その瞬間、私は自分がたった今『黒歴史』を作ったんだと悟り、顔が真っ赤になったのを感じた。
「はぁ~!お前さん、おもしろいな!ジュンと言ったな!これからも期待してるから頑張ってくれや!ガハハハ!」
マジで笑わないで……心がえぐれるから~涙
バロムの笑い声のおかげで我に返ったヴィエラが声をかけてきた。
「ジュンさま、お時間をいただきありがとうございました。あとは大丈夫ですので…」
私は「その言葉を待ってました!」と言わんばかりに席を立ちドアへと向かった。
「失礼します!」
そう言い残し、部屋だけではなくギルドからも出ていくのだった。
ジュリエットが退出した部屋では、沈黙が続いていた。
一呼吸置いた後、バロムが口を開く。
「ヴィエラ、今日ここで聞いた話は他言無用だ」
「……はい……でも…ジュンさまを疑うわけではないですが…信じられません……。妖精の出現なんて……」
未だにジュリエットの話に半信半疑のヴィエラ。
そんな彼女の気持ちもわかるバロムは続ける。
「嘘かどうかなんて今判断することはできねぇだろ。これからアイツがどんなことをしでかすのか見てから判断しても遅くはねぇ。ヴィエラ、アイツのことについては逐一報告しろ。何かあったときに俺が直接動けるようにな」
バロムは元B級冒険者だ。
左眉の上にある傷を受けた際に視力が悪くなり、剣士として能力が落ちてしまったため引退したのだ。
しかし今も鍛錬は続けており、力は衰えていない。
それがここ・アルカディアのギルドマスターが務まる所以だ。
そんな彼が対処してくれると言っている。
ヴィエラは頭を下げながら返答をした。
「……承知いたしました」




