第6話 ギルドに戻っただけなのに、またまた騒がしくなりました。
ギィィ…
重たい木のドアを開くと出ていった時と同様にビールやつまみの匂いがする。
コカトリスの焼けた匂いが前世の焼き鳥を彷彿とさせ、お腹が空いてきた。
懐かしい匂いを感じたからか今日初めて来たはずなのに、なぜかホームに帰ってきたような安心感があった。
でも……
しーーーん
ヒソヒソ
じーーー
キャッキャッ
私がギルドに入ると、またしても時が止まったように静まり返った。
え?またぁ?!
なんで私が入るだけでみんな動きをとめるの!?
私って時を止める魔術使えるんだっけ?
そんなことを思いながらも表情を変えずに受付へと向かうと、私に喧嘩を売ったチェルシーがいた。
わざわざ避ける必要性を感じなかった私はまっすぐ彼女のもとへ向かった。
チェルシーは一瞬驚いたものの、気を取り直したようにトゲトゲしい態度をみせてきた。
「……なんの用ですか?私も暇じゃないんですけど」
……さすがにそれはどうなん?
そう思った矢先、空気が一瞬にして冷たいものに変わり、冷ややかな声が聞こえてきた。
「チェルシー?」
その声に猫が毛を逆立てる時のようにビクッとしたチェルシーは、人形がギギギと音を立てて首を動かすように後ろを向いた。
すると笑みを浮かべたヴィエラがいて、言葉を続ける。
「さっき言ったばかりなのに、私が言ったことが理解できなかったんですか?」
ヴィエラの言葉に恐怖を浮かべるチェルシーは半泣きになりながら受付業務をやり始める。
「そんなことありません!完ぺきにやります!!ジュンさん、さきほどは申し訳ございませんでした!!」
嫌いな私に謝罪するなんて……
ヴィエラさん相当怖いんだろうなぁ
私もミザリーがいるからなんか共感するわ~
「あのー、チェルシーさん?私こそさっきは失礼な態度とってすみませんでした。おあいこってことにしませんか?私はほかの方と同じように対応していただければ問題ないわけですし」
そもそもまだ社会にでて間もない子を、社畜アラフォーのおばさんが嫌味を言ったわけだから、私のほうが悪いんだと思うんだけど。
ここでは一応10代の美女だから、やりすぎはよくないよね
私の言葉に少しだけ表情を明るくしたチェルシーは私に用件を聞いてきた。
「わかりました。ではそのようにさせていただきます。で、今回のご用件は?」
「あ、さっき受けたピポッタ草の採取の依頼、完了したので持ってきたんですけど……」
ざわっ
その言葉にギルド中がざわついた。
「??」
その様子に何が何だか分かっていない私にチェルシーが声をかける。
「もう終わったんですか!?だってピポッタ草の採取でしたよね?!」
「はい…そうですけど……?」
「採取が指定されている3つ以上ないと依頼成功にはならないんですよ!?」
「はい、わかってます」
んーー???
なんでそんなに言われるの??
疑われてる??
何度も確認され、もう見せたほうが早いだろうと思った私は採取してきたものを出すことにした。
「これです」
心配で少し多めにとってきたピポッタ草を受付の机の上にのせると、またしても周囲がざわめいた。
ざわっざわっ
まじー?
偽物じゃない…?だって早すぎるし……
驚きの中に疑いをかけてくる者まで出てきたのだ。
はー!?
ちゃんと本物ですよ!
ちゃんとフローラに聞いたし、図鑑とも一緒だったもん!!!
遠くから見てるくせに文句言うなし!
失礼な!!!
そんなことを思っていると、チェルシーが「か、確認させていただきます」といい、私が出したピポッタ草を取り、机の隣にあったはかりのようなものに乗せ、鑑定を始めた。
1分もせず鑑定が終わり、はかりの下にある板に文字が浮かび上がってくる。
そこには『ピポッタ草』とでており、私が正しかったことが証明された。
ほら~!と自身が嘘をついていないことに少しだけ焦っていた私は、ホッとしつつ信じてくれなかった人に非難の気持ちを向けた。
「……副ギルドマスター!」
チェルシーはその鑑定結果が信じられず、ヴィエラに助けを求めた。
すると後ろにいたヴィエラも鑑定をはじめる。
ヴィエラははかりを使わず、私が持ってきた植物をじーっと見つめた。すると、彼女の紫の瞳は妖しく輝き、一瞬金色のような色に変化した。
ヴィエラは一瞬だけ顔をしかめ、瞳の色を戻した。
そして「これは本物のピポッタ草です。間違いありません」と言い放った。
そのヴィエラの発言にギルド内はさらにざわつく。
ざわざわ……
いろんな人がいろいろなことを言っていたが、私の耳に聞こえたのは「鑑定士・ヴィエラが言うなら間違いないんだろう……」という言葉だった。
つまりさきほどヴィエラの目の色が変わったのは、『鑑定』をするためだったのだ。
私はふと思った。
『鑑定』はどうやったらできるのだろうかと。
いいなぁ…私もアレほしい……
そんなことを思っているとヴィエラから話しかけられた。
「ジュンさま、このピポッタ草はどこから採取されたのですか?」
「え……森からですけど……。群生地を教えてもらって……」
「ぐ、群生地があるのですか!?一体どこに…!それに『教えてもらった』とは…?」
??
質問攻めにあってしまった。
質問したいのはこっちなんだけどなぁ。。。
「えっと……群生地はありました。教えてくれたのは、森の中で出会った草の妖精です。なんか倒れてたのを助けたら教えてくれました」
あったことを嘘偽りなく話したけれど、全員ポカーンとしていた。なんでだ??
誰も何も言ってこないので、私も気になっていることを聞くことにした。
「あのぉ、聞きたいんですけど、なんでそんなに驚いてるんですか?オススメされた依頼を受けて、完了しただけですよね?」
私の質問で我に返ったヴィエラは、答えた。
「たしかにそれは私がオススメした依頼です。その依頼は、ピポッタ草を見つけるため、森の中を何日かかけて探し出すことが必要となるんです。森のなかでの過ごし方や地図の見方などいろいろ学ぶために新人冒険者におすすめしています。それなのにたった数時間で、しかもこんなにたくさんのピポッタ草を持ってきたので大騒ぎとなったのです」
なるほど~チュートリアル的なやつね
はいはい
よくゲームとかであるやつだ!
ホントにあるんだなぁ~
でもそんなに優しい森じゃなかったよ、あの森
ムムムと訪れた森のことを思い出しているとヴィエラから聞かれる。
「ジュンさま、お聞きしたいことが2つあります。まず、森とはどちらの森ですか?」
「え、このギルドを出て大通りを左に曲がって少ししたら見えてくる森です」
「…なるほど…。」
私の発言に少し頭を抱えたようなヴィエラをみて、疑問に思っていると
「私がお渡ししたのはこのギルドを出て大通りを『右に』曲がった森です」
「へ……?」
「地図、役に立ちました…?」
「………いえ、全然………」
なるほど、違う森に行ってたんだ
そりゃぁ迷子になりますわな
ここでも前世の方向音痴が露見したようだった。
恥ずかしさで穴に入りたくなる気持ちでいっぱいになり、顔を真っ赤にしていると「そして2つ目ですが……」とヴィエラは質問を続ける。
「……草の妖精に会ったというのは本当ですか?」
その言葉にまたしてもギルド内が静まりかえる。
賑やかになったり静かになったり
忙しいギルドだなぁと思いながら答えた。
「あ、はい。森の中で……」
その回答にまたしてもギルド内がざわつき始めた。
ざわ…
ひそひそ……
「妖精だって……」
「ホントに……??」
なに?
マジでなんなの??
……ってか時間!そろそろ薬きれるんじゃないか!?
バレたらヤバいし、今日はもう飲みたくないから一旦帰るか!
「あの、私これから少し用事があるので今日はこれで失礼しますね。また明日来ると思うので今日の続きはまたで!では失礼します!!」
その言葉を言い残し、私は颯爽と帰っていった。
「え!?ジュンさま?!待ってくださー………」




