第5話 「名前をつけて」って……テンプレのあれじゃないよね?!
「ピポッタ草はこっちよ」
ふわふわと宙に浮きながら進む方向を示してくれる妖精らしきもの。
「ありがとー!なんか地図がよくわかんなくて、困ってたんだよね~」
お礼をしてくれるという彼女に、迷子になっていた私は採取しにきた薬草であるピポッタ草の場所を聞いた。
すると案内するといって歩き(?)始めたのだった。
まぁなんてゆーか、戻ってます。
えぇ、全然違う方向でした。
気配につられて!とゆーには戻りすぎくらい戻ってるので、もう認めます
そうです、ほぼ初手から間違ってましたー!
……今度からちゃんと目印とか聞いてから出かけよう……
「助けてもらったんだもの、こんなことくらい全然平気よ」
にっこり笑いながら話す彼女はやっぱり可愛かった~
アニメとかにでてきたら絶対グッズが売れるよ~!!
それで転売ヤーに狙われるんだ…!!
買いたい人が買えない状態になって…高値で……
憎き転売ヤー!!(怒)
「?どうしたの?大丈夫??」
いきなり黙り込み、そのうえ勝手に怒ってる私に妖精らしきものは声をかけてきた。
「アハハハ、ごめんごめん!ちょっと考え事してたんだ…!
えっと、この先だよね~?」
妖精らしきものは、クスクス笑いながら「そう、こっちに群生地があるのよ」と言っていた。
そしてさらにこう続ける。
「そういえば、あなたお名前は?」
「名前?名前はジュリエットよ」
「ジュリエットね、覚えたわ」
「……………………あ。」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
なに『ジュリエット』って名乗ってんの私ー!!!!!
「あぁぁぁぁぁ」と言いながら悶えてる私に彼女が心配そうに声をかけてきた。
「だ、大丈夫?」
「お願い!私がジュリエットってゆーことは黙っててほしいの!!実は私いま見た目を変える薬を飲んでて、このオレンジ髪のときは『ジュン』って名前で通してるの。だから私と2人きりのときはジュリエットでもいいんだけど、ほかの人がいるときはジュンって呼んでほしくて……」
うるうるとした目で懇願する私の様子を見た妖精らしきものは
「……わかったわ」と言ってくれた。
よかったー!!!とホッとしたのも束の間、
「でも条件があるの」と笑顔で伝えてきた。
せっかく慣れた冒険者生活を守りたかった私は
「……私にできることなら…」と言って、条件を聞くことにしたのだ。
妖精らしきものは、ふわふわとあっちこっちに動きながら言った。
「ふふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。とても簡単なことだから」
ニコッと笑いながらそういう彼女はやっぱり可愛かった。
かわいいは正義とはこーゆーところから来てるんだなぁって再確認しました。ハイ。
彼女の条件を早く聞きたくて促すような目線を送ると、彼女は小首をかしげながら言った。
「私に名前をつけてほしいの」
「名前?」
「そう、私もあなたみたいに名前で呼ばれてみたいのよ」
キラキラとした目で名前を欲しがる妖精らしきもの。
うーーーーーん…。
正直名前をつけるのは別にいいんだけど、転生ものの漫画とかアニメで『名付けとは契約である』みたいなのを見てるから怖いんだよなぁ。。
責任持って面倒見れるわけでもないし…。
なんかそれこそ何に巻き込まれるか分かんないし…
それに……この子可愛いだけじゃない気がするし……
私がすぐに承諾しないことに、妖精らしきものは
「私なんかが名前をほしがるなんて、身分不相応よね…」
と言ってシュンとしてしまった。
私は焦ったように返答する。
「あぁぁぁ!そんなことない!そんなことないから!!どんな名前がいいかなぁって考えてただけ!!」
その言葉に喜んだ妖精らしきものは、ぱぁっと表情を明るくさせた。
もう後戻りはできない。
そう感じた私は彼女の名前を何にするか真剣に考え始める。
「まずはさぁ、あなたのこと何にも知らないから教えてほしいんだよね。あなたは妖精……であってる?」
ああ言っちゃったからにはしっかりと考えないとね。
「そうよ、私は……草の妖精よ」
「草の妖精なんだぁ~!なんか全然みえないなー!どっちかとゆーと『草の妖精』ってゆーより『花の妖精』って感じ!」
「!!!!」
でもアイリスが花の妖精は伝説って言ってたし、こんなところにいるわけないよね~
草の妖精ってたしかあんまり強くないんだよねぇ?
誰かにやられて逃げてきたんかな?
でも妖精を傷つけられる存在って少なかったんじゃなかったっけ…?
それこそ人間はおろか普通の魔獣は無理で、妖精同士かフェンリルとかドラゴンとかやばい系の魔獣だけだったような……
ちがったっけ??
あーーだめだ。
まだまだこの世界のことわかってないわ
改めて勉強しないと
そんなことを考えている私は、妖精が一瞬だけした険しい表情を見逃してしまっていたのだ。
「んーー……じゃぁ『フローラ』は?ある神話にでてくる花と春、豊穣を司る女神さまの名前なんだけど、よく華やかな香りのときに使われる言葉なの。
あなた『草の妖精』って言ってたけど、見た目もお花っぽいし、ピッタリかなと思ったんだけど!」
「フローラ…フローラ。素敵!私は今日からフローラよ。改めてよろしくね、ジュリー」
「ふふ、よろしくね、フローラ!」
名前をつけたからか懐かれたように愛称で呼ばれました。
でも可愛いのでオッケーです!!!!
その後、フローラが言った通りピポッタ草の群生地にたどり着き、無事に採取することができた。
やったー!!!
これで初依頼完了じゃーん!
薬の効果時間もあるし、そろそろ帰るか。
「フローラ、私そろそろ帰るね。今日は案内してくれてありがと~!」
「こちらこそ素敵な名前をありがとう!とってもうれしいわ!」
「そんな喜んでもらえるなんて、よかった~!じゃあまたね~」
「えぇ、『また』ね」
なんか意味深なような気もしたけど、また薬を飲むことは避けたい私は、その違和感を無視して帰路についたのだった。
「~~♪」
名前をつけてもらったフローラはそれはそれは上機嫌だった。
「花さま、お探ししました!こんなところにいらっしゃったんですね!?」
そんなことを言いつつ焦ったようにやってきたのは、フローラの従者的ポジションにいる5人のうちの一人・風の妖精だった。
「私にそんな口がきけるなんて偉くなったものねぇ、風の?」
その冷ややかな表情はさっきまでジュリエットに見せていた顔とは180度違うと言っても過言ではないくらいだった。
その表情にくわえ、下位精霊であれば瞬時に消し飛んでしまうほどの威圧を受け、風の妖精は怯えていた。
しかし、その威圧はすぐに消えた。
普段ならあり得ないことだ。
困惑している風の妖精にフローラは自慢げに話をしはじめる。
「今日の私はとても機嫌がいいの。面白い人間を見つけただけでなく、その人間から名前をもらったのよ」
風の妖精はその言葉に驚かずにはいられなかった。
「!?名前ですか!?我々妖精の頂点、精霊王であらせられる花の妖精のあなた様に名付けをした者がいるのですか!?」
フローラは風の妖精の焦り具合をみて満足そうに答える。
「そうよ、ジュリーという人間よ。ブラックドラゴン(黒龍)に痛めつけられた傷を治してくれたから一つだけ願いを叶えて去ろうと思ってたんだけど、なにやら面白いカラダをしててねぇ。もうちょっと一緒にいたくなって名前をもらったのよ」
フローラの話に風の妖精はだんだん混乱し始めた。
だってあり得ない話だからだ。
「ブラックドラゴンって…ドラゴンの頂点であるエンシェントドラゴン(古代龍)の次に強いと言われているドラゴンじゃないですか!
なんでブラックドラゴンに痛めつけられているのですか?!
もしかして…またちょっかいかけに行ったんですか?!
あれほどおやめくださいと言っているのに……。
それに人間ごときがブラックドラゴンの傷を癒せると…?そんなこと……!」
「あり得ないって言いたいんでしょ?でも現実で起こったことなの。だって私はブラックドラゴンに痛めつけられ、動けなくなっていたもの。
魔力も使い果たしていたから、あなたにも誰にも見つけてもらえなかった。…あぁ、あなたたちが無能と言ってるわけではないのよ?だって私の魔力は底をついていたから。
でもジュリーだけは私の魔力を感じ取ってくれただけでなく、さらに助けてくれたの」
恍惚とした表情で話すフローラに風の妖精は、恐る恐る尋ねた。
「…その人間は……どうやって花さまの傷を癒やしたのですか…?」
その質問にフローラは得意げに答えた。
「聖水よ」
「聖水!?」
「まぁ正確に言えば、聖水のようなものよ。ただの水にジュリーの魔力が込められ、聖水のようなものへと変化したの。それを浴びたのよ」
「まさか…人間がそんなことできるとは……」
驚きの連続で呆然とする風の妖精をよそにフローラは笑いながら続けた。
「ジュリーはまだ自分の力をよくわかっていないみたい。おかしいわよね、あんなに魔力が溢れてるのに。まぁそれを見抜けない周りの人間たちもどうかと思うけど」
伝説の存在であるフローラにとっては、人間など、そのへんの石と変わらない存在だ。誰が何をしようとも興味もないし、自分には関係のないことだった。
だが、ジュリエットに助けられたことで彼女自身に強い興味を持った。
なにしろ体と心の持ち主が違うのだから。
それだけでも面白いのに、上位妖精である風の妖精でも探し出せないほど魔力がなくなった自分を探し出せるほどの人物だというのだから惹かれないはずがないのだ。
自分がこんなにも興味を持つ稀有な存在がすぐ目の前にいるというのに、誰一人としてその価値に気づけない人間たち。そんな石ころたちを、フローラは心底おかしいと嘲笑っていた。
「とにかく私はジュリーを気に入って名前をもらったの。だからあなたも他のもの達も私のことは『フローラ』と呼ぶように」
「しょ、承知いたしました、フローラ様」
「あ!」といってかわいい表情を見せたと思いきや
「ジュリーは『この私』がみつけたお気に入りの人間なの。だから勝手に手出ししようとしたり、ちょっかいなんてかけないようにしっかり全員に『教育』しておいてね?」
満面の笑みで『ジュリーは私のもの』宣言をすると、風の妖精は先ほどの威圧よりも強い恐怖を感じ、返事をする。
「も、もちろんでございます!私の命に代えても…!」
風の妖精の返答に気分を良くしたフローラは、またルンルンな様子で次にしたいことの計画を練り始めるのだった。
「~~♪さぁ~て、じゃあ次は~♪私を痛めつけてくれたブラックドラゴンを、どうやって殺すか考えないと~♪謝っても許さないし~♪簡単に楽にしてあげないんだから~♪」




