第21話 【悲報】正論パンチの痛みを知る
ヴェロニカ様のお茶会の翌日、私の机は昨日と変わらず釣書とお茶会への招待状で溢れていた。
2日目にもなると、さすがに慣れてきましたよ。
ただ、昨日よりもお茶会への招待状が減っているように思う。
半分とまではいかないけど、三分の一くらい減ったかも?
おそらく昨日の態度が気に入らなかった『誰か様』が圧力でもかけたのかな?
あ、取り巻きのほうか。
まぁどーせお茶会なんて必要最低限しか行かないし、どーでもいーんだけどね!
私はいそいそと準備を始め、ミザリーに「出版社で小説書いてくる」と言い残して家を出た。
しかし私がやってきたのはもちろん出版社ではない。
そう、冒険者ギルドだ。
重たいドアを開けると、ビールやつまみの匂いがしてくる。
何週間か来なかっただけなのに、もはや懐かしい気持ちになってきた。
依頼ボードを見に行った私は、久々ということもあってリドーナ草の採取の依頼を受けようと、依頼書に手を伸ばすとライムのような爽やかなコロンの香りがした。
「まだ採取なんかしてるのか?クックッ…本当におもしろいな、お前は」という笑い声とともに。
この笑い声の対象が私なのは確かなので、文句を言ってやろうと声がしたほうに向くと、いつぞやのフードをかぶった男がいた。
こいつまた…お前に関係ないって何度言ったらわかるんですかねぇ?!
ハッキリと言ってやろうとフードの中を覗くと……
「!?!?!こ、皇太子でん……」
「チッ!ちょっとこっち来い!」
全部言い切る前に口を押さえられ、そのままギルドの外へ連れて行かれた。
ギルドから少し離れた裏路地に着くと、やっと口を開放された。
「っぱぁ!はぁ…はぁ…苦しかった………じゃなくて!皇太子殿下!なぜこのようなところに!?」
挨拶も忘れ思わず質問をぶつけてしまうと、皇太子はしれっとした様子で答える。
「下町の調査に決まってんだろ?あとはまぁー…腕の立つやつがいたら騎士団か俺の密偵にスカウトしよーと思ってな」
軽く笑いながら答えてくるけど、これ、絶対本気のやつじゃないよね?
でもこの様子だときっとはぐらかしてくるはず……
そう思った私は実はギルドから皇太子と共にフードの男その2として同行していた人物に声をかける。
「……本当ですかねぇ〜グレイフォード公爵令息?」
ニッコリしながら問いかけると、ギルバート様は少し沈黙した後フードをとりながら、観念したように答え始めた。
「……はぁ〜…まぁ間違いではない。その目的も兼ねてるのも事実は事実ですから。しかし一番の目的は殿下の気晴らしです。公務に勉強、夜会…あとは手応えのない訓練…それらに飽き飽きしているので、解消のためにたまにお忍びで来てるんですよ。私は武闘派ではないのでただの付き添いになりますが」
「手応えのない訓練…??」
思わず口に出してしまうと皇太子はため息をつきながら教えてくれる。
「はぁー…『皇太子に傷なんてつけたら』とか『皇太子に勝ちを譲らないと』なんていらねぇ気を使われててな、稽古にも訓練にもならねぇ訓練を受けなきゃいけないんだよ。そんなんじゃ戦や魔物退治に出た時が危ねぇとは思わないんかねぇ」
呆れたように話す皇太子はどこか寂しそうに感じるのは気の所為なのだろうか…。
そんなことを思っていると、ニカッと笑った皇太子から
「で?お前はここで何してるんだ?スチュワート子爵令嬢」
と質問を受ける立場に逆転していた。
「え、えっとぉー……い、色んなことやってみたいなー、なんて、思ったりして…ア、アハハハ…!」
その回答に皇太子だけでなくギルバート様まで無表情になった。
「そんな『嘘ですー!』みたいな分かりやすいことあるか?」
「ここまで嘘だと分かると理由を知りたくなるのが普通の人の反応だと思いますよ、スチュワート子爵令嬢」
正論パンチって痛いんですね……
心が痛いんですけど!?
完全に嘘だと分かっていてもバレるわけにもいかないので、嘘を突き通す私。
「な、何言ってるんですか?ほ、本当に決まってるじゃないですか!」
背中の汗がヤバそうになる私に、皇太子とギルバート様の追求は止まらない。
「いやいや、どーみても嘘だろ。な?ギルバート」
「はい、殿下。これが嘘じゃなかったらお詫びとして僕の個人資産を全てスチュワート子爵令嬢に渡してもいいくらいです」
そこまで言う!?
前世からそーだけど、突発的に嘘つかなきゃいけないってなるとなぜか絶対にバレるんだよなぁ……
心の中でぐぬぬと思いながらチラッと2人を見上げると、また疑いのまなざしをこちらに向けていた。
逃げきれないと思った私は洗いざらい事情を話すことに…。
「まさかスチュワート子爵令嬢が『あの』ナッツ大先生だったとは思いませんでした」
驚きを隠せない様子のギルバート様。
さらに少し興奮したように話を続ける。
「ナッツ先生の作品、オリヴィエ様が大好きで勧めていただいたものを何作品か読みました。僕はそのウォーカー子爵令嬢の作品を読んだことがないのでなんともですが、その感想の言わんとすること分からないではないと思った記憶です…って申し訳ない…!」
頭を下げてくるギルバート様。
そんな彼に私は瞬時に手のひらを向け伝える。
「謝らないでください!……逆にツラくなるので…!!」
…やはり読者の声は偉大ですな
私には人間描写が足りないようです……
トホホ…と思っていると皇太子から声をかけられる。
「しかしなんで冒険者なんだ?そのナントカ令嬢と同じように夜会やお茶会で済む話だろ?」
「何言ってるんですか、皇太子殿下!!家に決められた結婚をした人で恋愛をしているほうがレアなんですよ?!皆、結婚をほぼ契約とか義務としか思ってないのです!だからこそ私は生の、生きた恋愛事情を知りたいのです!!!」
熱弁してしまい、思わず皇太子の近くに寄っていたことも、上目遣いになっていることも、まーったく気づいていなかった。
「お、お前、近いぞ」
皇太子は一瞬顔を背けた後、コホンッと咳払いをし、別の質問をぶつけてきた。
「で?なんで未だに採取なんかやってるんだ?『取材』とやらをするには他の冒険者と一緒に行動しないと意味ないだろ?」
グサッとくる質問に、いつもの笑顔を浮かべることもできずにいると、
「そもそもその銀髪で薬草採取なのが意味わかんねぇ。魔術で魔物退治した方が早くランクも上がるだろうに」
その言葉にまたグサリと私を刺した気がした。
そして蚊のなくような声で事実を述べる。
「……魔術使えないんです、私………」
その言葉に時が止まる。
「「………は?」」
皇太子だけでなくギルバート様も驚いていた。
「魔術が…使えない!?その銀髪で!?」
考え込むような皇太子の横で、ギルバート様は信じられないとでも言うような顔だった。
そんなに驚く?
そりゃあアイリスから『銀髪は魔力が王族並みにある』とは聞いたけど……。
「……魔力はある『らしい』ってことまでは分かってるんですけど……。そもそも魔力を感じることもできないし、どーやったら使えるのかも全然わかんなくて……」
苦笑しながら自分の状況を話す。
『ナッツ』のことも言っちゃったし、もーかくしても意味ないしね。
ただ、自分が『出来損ない』と話しているようで心が少し重くなった。
そんな様子を感じているのか、少し考えた皇太子からまさかの提案をされる。
「魔術、教えてやろーか?」




