第20話 売られた喧嘩は買う主義ですよ?
チュンチュン…
鳥のさえずり、窓から入る風、そして爽やかな初夏の香り……
なんて素晴らしい日なの~!!
婚約破棄できた私はそれはそれは幸せな朝を迎えた……はずだった。
「……ベン?なに?これ……」
ルンルン気分で執筆を始めようとした矢先、色んなもので机が埋め尽くされていたのだ。
老執事のベンは、笑顔で答える。
「お嬢様宛のお茶会のお誘いのお手紙と、婚約破棄を知った方々から釣書でございます。こちらはほんの一部でこの机に置ききれないほど届いておりますよ」
「はぁ!?婚約破棄したのって昨日だよねぇ?!なんでもう広まってるの!?」
噂が回る速さが意味わからなすぎて混乱していると、ベンが真相を話し始める。
「どうやら旦那様が手続きを行っている時に見かけた貴族の方がいらっしゃったようで、昨日の段階で『レナード様とジュリエット様が婚約を解消するらしい』という話が一気に広まってしまったんだとか。ジュリエット様に婚約者がいなくなるなら…と多くの令息の方から釣書が我がスチュワート子爵家に送られてきた、ということのようです。さすがジュリエット様でございます」
のんびり褒めてくるベンに
「いやいや!『さすがです』じゃないよ!そーゆー問題でもないし!!夜会であんなことがあった可哀想なジュリエットをしばらく放っておいてあげよう、とかないわけ!?」
思わず愚痴ってしまうが、
「それは難しいことかと……」
と希望のない返事をもらってしまうのだった…。
私は『スローライフな子爵令嬢、時々作家も冒険者もしちゃうよ☆生活』ができればそれでいいのにーー!!!
私の心の願いはもちろん叶うことなく、今日も今日とてお茶会に参加していた。
今日のお茶会の主宰は、ヴェロニカ・シルヴァ侯爵令嬢。
この前参加した皇女・オリヴィエ様のお茶会参加者の一人で、さすがに爵位的に断るわけにもいかず、参加しているけど……居心地はよくない。
「男性は移り気な生き物だって聞きますし、お気になさらないほうがいいですわよ」
ヴェロニカ様は薄紫のハーフアップにした髪の毛を右手で触りつつ、口角が上がっているであろう口元を扇子で隠しながら話しかけてくる。
一見慰めているように見えるけど…
「そうですわぁ~、まぁヴェロニカ様くらい教養もあってお美しいならそんなことないと思いますけど…」
「本当ですわ!婚約者のクロード様からとても愛されてますものね!」
「秘訣をお伺いしたいですわ~!」
取り巻きのよいしょにまんざらでもないようなヴェロニカ様は
「皆様、そんなぁ~愛されてるなんて……婚約解消『された』スチュワート子爵令嬢に悪いですわ~」
などと言ってきた。
取り巻きの令嬢と揃って、フツーにディスってきてない?
え?喧嘩売られてます??
さすがに爵位的に喧嘩を買うわけにもいかず……
「ア、アハハハ……私もお伺いしたいですわ~(棒)」
そう返すのが精一杯だった。
ヴェロニカ様のお茶会からとっとと帰りたいと思っていると、私の隣に座っていた赤茶色の髪の毛を高めの位置でツインテールにしているナディア・ウォーカー子爵令嬢に話しかけられる。
「あの!ジュリエット様は小説とか読まれますか?ワタクシ、実は作家をしておりますの!」
そう、彼女は私と同じように小説を書く作家なのだ。
実体験をもとに書いていると公言していて、貴族令嬢の間では読む人が増えているらしい。
「ワタクシたちは全員読んでるんですよ、スチュワート子爵令嬢」
「そうですわ。私は特にヴェロニカ様を主人公にされた作品が好きでしたわ~!」
「わかりますわ~!ヴェロニカ様のお美しさと愛されている秘訣が存分に書かれてましたわよね~。ワタクシいろんな方に勧めてしまいましたもの~」
ヴェロニカ様をモデルにしたものは取り巻きによってばら撒かれてるらしい。
なんとゆーか……おつかれ。
「あぁ~…お噂はかねがね…私は不勉強で『ナッツ先生(=私)』くらいしか読んだことなくて……」
本当は内容かぶりとか、勉強として読んだことあるけど………
なんてゆーか………貴族特有のドロドロした部分だったり、『なんでそうなった?!』みたいな展開が多すぎて私には合わなかったんだよねぇ~
平民には想像してた貴族世界を知るチャンスだったりするだろうし、モデルになった貴族令嬢はみんなに見てほしくて広めるんだろうけど、元の世界で面白い作品に触れていた元編集者としては、調整したい気持ちが強くなったからなぁー
そーいえば前に『ナディア様のほうが面白い』って書いた手紙も届いたことあったっけ……
そんなことを思っていると
「そうなんですか!?残念ですわ………でも!ジュリエット様は面白そうですし、今度書く新作の主人公になってほしいですわ!」
シュンとしたかと思えば、とんでもない提案をしてきた。
「い、いやぁ~…私なんて面白みないですし、他の方のほうがいいんじゃないですか?」
やんわりお断りしたけど、ナディア様は止まらない。
「そんなこと言わないでくださいませ!
『婚約者に浮気されて婚約破棄された令嬢』なんてジュリエット様しかいませんわ!きっと超大作になりますわ~!
ナッツ先生みたいに『ただ幸せになる』みたいなワンパターンにはなりませんし。
ワタクシがジュリエット様に新しい楽しみを教えて差し上げますわ!!」
………………。
笑顔で言ってるけど、ジュリエットにもナッツにも失礼なことしか言ってないですけど?
もしかして…喧嘩売られてます?
「……ありがとうございます、ナディア様。でも本当に結構ですわ。
思い出したんですけど1作品だけナディア様の作品読ませていただいたことがあったんです。
でも………なんか辻褄も合わない部分が多いし、見どころが貴族の貶し合いといいますか、少し醜聞になりえる部分になってしまっているようで私には合わなかったんですよねぇ。
それを求めてる方には面白い作品なんだと思うんですが、私は小説には夢や楽しさを求めてますからナディア様の作品を面白いとは思えなかったんです。
だから私を主人公にしていただけるって仰ってましたけど、そんなドロドロとした世界に入りたいわけでもないので遠慮させていただきますわ。
あ!こちらにいる皆様が読まれてるようですから、皆様を主人公にされる方が良いのではないですか?
そちらが出来て読めそうだったら読みますわ。
もし読んだら感想をお伝えしますね」
ニコッと笑みを浮かべ思ったことを述べると空気が固まった。
まぁそうですよね。
でもこんなところにいたくもないので
「まだお茶会の途中なのに申し訳ないのですが、私はそろそろ失礼させていただきます。ヴェロニカ様、皆様、失礼いたしますわ」
そう挨拶して誰の返事も聞かないまま、お茶会を後にしたのだった。
ヴェロニカ様が扇子を折りそうなくらい超絶不機嫌な様子だったことにも気づかずに…。
前世から『売られた喧嘩は買う主義』で生きてきてるから、しっかり買っちゃったんだけど……もしかして…やりすぎた……??




