第1話 元アラフォー社畜編集者、異世界で小説家になる
カリカリ…カリ…カ……リ……
「ーーーなんかちがーーう!チープすぎるー!」
私は叫びながら書いていた原稿用紙を丸めて投げ捨てた。
「一体作家さん達はどうやってあんなに面白いものをつくってたわけ?マジでわからん……」
ぐぬぬと頭をかきむしっているとコンコンとドアをノックする音が部屋に響き渡る。
「ジュリエットお嬢様、失礼しまー……またですか?
はぁー、小説がうまくいかないからといって物に当たらないでください。片付けるのは私なんですよ?」
メイド服を着た茶髪の前下がりボブの侍女・ミザリーが文句を言いながら入ってきた。
「……すみません……」
また怒られた……
……ん?私主人だよね??
恨めしそうにミザリーを見つめていると「なにか?」と笑顔で問いかけてくるミザリーの背後に般若が見えた私は「ナンデモナイデス。。。」と視線をずらした。
「そういえば出版社にたくさんのお手紙が届いていたとリリアさんから預かっていますので、こちらに置いておきます」
「マジ!?嬉しー!今読むからこっちにちょーだい!!」
「お嬢様、またそのような口調で……」
はぁーとため息をつきながらもミザリーはファンレターを手渡してくれた。
ファンレターと一緒にリリアのメッセージが入っていた。
『今週もたくさん届いてました!また重版したいタイトルが出たのでご相談させてください。リリア』
リリアはもともと小さな出版社で営業みたいなことをしていたいわゆる平民の女の子。
女だからって理由で雑用しかさせてもらえなかったらしいからヘッドハンティングして私の小説を出す出版社の代表になってもらってる。
ちゃんとファンレターまとめてくれたり色々な装丁の相談もしてくれるし、ありがたいよね、ほんとに。
重版という言葉にルンルンな私は、浮かれながら手紙を開けた。そこにはいつものように熱烈な感想ばかりが届いていた。
『先生の書く小説大好きです!』
『婚約者がいても愛される主人公が素敵でした』
『舞踏会で皇太子からダンスに誘われるシーンに憧れます』
やっぱりこっちの世界でも王道展開は人気よねー
もう何作か書いてるけど反応いいんだよなぁ
私、ジュリエットは前世の記憶を持っている。
前世の私はアラフォーに差し掛かっていた元漫画の編集者だった。
社畜すぎて結婚はおろか恋人すらいなくて、日々の楽しみはおいしいご飯と漫画だけ。
ホントは推しもいたけど、みんな結婚しちゃうしだんだん推す気力がなくなっていっちゃったんだよね。
中堅なのになかなかヒット作も出せず、自分が編集者として向いてないから転職を考えていたんだ。
転職サイトを見てもやりたいことがなくてどーしようかなぁって考えながら眠りについたはずが、目を覚ましたらなぜかジュリエットになってた。
自分のベッドで寝てたはずなのに。
ジュリエットとして過ごすことになって早数ヶ月、ジュリエットの記憶がなんとなーくはあるから生活には困らなかった。
でも混乱しなかったのは、異世界転生系の漫画を読んでたおかげだと思う。
ありがとう、作者様たち!!
普通は戻る方法とか考えるけど、どーせ帰れないのがセオリーだから、めんどくさいしそのままこっちの世界を楽しむことにした。
令嬢なだけあって生活は豊かだし、ご飯はおいしいし、なによりジュリエットは前世の私より全然可愛いし若いしね。
だってきれいなブルーの瞳に銀髪の色白美女よ?
ゆるふわな感じのウェーブで、めっちゃ綺麗な髪してるし、肌は10代らしくピチピチ、
そりゃ転生前と比べたら月とすっぽん、薔薇と雑草くらい違うんだから!
そーいえばこっちの世界は結構みんな派手な髪の毛の色してるんだよね。
漫画に出てくるようなピンク髪とか緑髪とかまーじで多い。
その中でもジュリエットは銀髪。
結構珍しいんだよね、これが。
お父様は青ってゆーか紺色みたいな色だし。
この銀髪はお母様ゆずりらしいんだけど、ジュリエットが小さい時に亡くなってて、見たことないから実際ジュリエット以外でいないんじゃないかー??
ちなみに金髪は王族の人だけなんだって。
なんか秘密とか理由とかあるのかなぁ…
作家心がうずくー!
まぁ子爵令嬢に王族と話す機会なんてあるわけないけどね(笑)
まぁそんなこんなで金持ちの美女に転生したし、こっちの世界に不満なんてない!
………といいたいところだけどそんなことはない!!
こっちの世界、娯楽少なすぎる!!
ゲームも漫画もないだけじゃなくて令嬢の娯楽のメインはお茶会ってマジ?
あんなんただの悪口と噂話の報告会やん
令嬢やることなさすぎやろ!(失礼)
やっとの思いでみつけた小説は、あっさりした恋愛小説しかなくて読む気が失せたよね、さすがに。
ありえん……
小説でもいいからおもしろいやつが読みたい……うぅ、、涙
……だれも用意してくれないなら、もしかして自分で作るほうがはやい?
いや、私に作れるのか……?
編集者してたとはいえヒット作出したことないし……
でも娯楽がないのは耐えられない……
まぁ失敗しても死ぬわけじゃないし、やってみるか!
ってことで始めた作家業。
ホントは漫画にしたかったんだけどね。
小説なんて書いたことないし、読んだのもほぼ仕事でだけだったし。
でも致命的な問題があって、前世から絵が壊滅的だったんだよねぇ。
作家さんに相談する時も大変でしたよ、それはそれは。
転生したらワンチャン!って思ったけど、やっぱりダメでした。残念…
それでもこれだけうまくいくのは、やっぱり娯楽に飢えてるんだよね、みんな。
……でも
『いつも同じ展開に感じてしまい、さすがにちょっと…。ナディアさまの作品は展開も豊富なので楽しく感じておりますわ。私が小説を好きになったのは、ナッツ先生のおかげですので、もっとがんばっていただきたいですわ』
最近「展開がワンパターンでつまらん」という内容の手紙が何通か届いている。
あ、『ナッツ先生』は私のことで、ペンネーム
前世で実家で飼ってた犬の名前を借りてるんだ。
愛着も出てくるしね。
それにしても言いたいことはわかるけど、ちゃんと傷つくからね?
親切心かもだけど失礼だからね??
そーゆーところはあっちの世界と感覚が違うんかなぁー?
言われてることが前世と同じすぎてもはやギャグか?
『はぁ~…この作品で売りたいポイントってどこ?ほかの作品との差別化は?王道は外れないけど、当てるの大変なのはわかってるんだよね?ヒット作にしたいなら今のままじゃダメってことはわかってるよね?』
うっ……今思い出しても心が痛みますわ……
まぁでもそろそろちゃんと考えなきゃだよね
作家さんに「キャラ性みせたいですね」とか相談してたくせにいざ自分がやると全然できてないんだな
マジでどの口が言ってる問題ですよ。
でもなぁー前世は非モテで、一に仕事、二に仕事な社畜生活だったからなぁ
恋愛って漫画の中で起こるだけじゃないんですか?状態の干物女代表だったし
転生したらしたで、貴族の義務とかゆーやつで婚約者から恋愛するわけにもいかんし
まぁできるとも思わんけど
結局婚約者やほかの令嬢たちとお茶会とか舞踏会をして、それ以外は礼儀作法の勉強するってほかにやることないんか?(失礼)
だいたい男を影で支えるだけってことがあり得なくない?
女だって総理になってたぞ?
もっと色々できるんだからすればいいのに、こっちの世界ときたらーー……ん?
!!そうじゃん!!
リアルを知ってこそ小説が活きるわけよ!!
せっかく転生したんだもん!
のんびり令嬢の娯楽だけで楽しんでるんじゃもったいない!
「ミザリー!出かけたいから支度して!」
私のその言葉にため息をつきながらミザリーは支度を始めるのだった。




