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閑話 皇太子は楽しくて仕方ない

「それでは、私はこちらで失礼いたします。おやすみなさいませ、皆様よい夢を」


そう言い残してジュリエットは去っていった。


バタン


「あ~あ、もっとジュリエットと話したかったなぁー」


ドアが閉まり彼女の気配がなくなるやいなや、妹・オリヴィエは残念そうに口をとがらせていた。


弟のリュカも続く。


「僕も…もっとお話したかったなぁ…」


オリヴィエが誰かに興味をもつのは日常茶飯事だが、今回は珍しくリュカも彼女を気に入ったようだった。


…まぁ無理もない。

本来、彼女はここにいてもおかしくない人物だからな。



我が国・フラミューニ帝国は貴族階級がある。

階級のトップには俺たち皇族、そして次に力を持つのが5つの公爵家だ。

だが、わが国の5つの公爵家には秘密がある。


約20年前、公爵家の一つ『ローゼンベルク公爵家』の当時の次期当主候補だったルードヴィッヒ・ローゼンベルクから「セレスティア王国の王女・ソフィア様を嫁に迎え入れたいので、許可をください。そのためにはこの地位も、いただいた名誉もいりません」と父上(皇帝)やほかの公爵の前で言い放ったそうだ。


ルードヴィッヒは当主となる前からその能力を買われ、官僚としてもかなりの地位にいて、さらにはローゼンベルク家の当主の仕事も難なくこなすほど有能だったらしい。

そんな男を野放しにするわけにはいかないし、ソフィアと別れさせようと画策しても計画の段階で潰されるし、終いには「こんなことが続くなら私はセレスティア王国への亡命も検討します」と逆に脅したんだとか。


政略結婚が当たり前の貴族社会で『恋愛結婚ができないなら亡命までする』と言ってのけたルードヴィッヒの行動は異端だとされ、今では誰も口にしない。

まぁほかの貴族連中からみれば、自分たちの息子や娘に恋愛結婚なんてされて、格下貴族や平民の血が入る可能性を潰しておきたかったんだろーな。


しかし国の中枢にいた人物を国外に出すわけにもいかず、本人の貴族としての自覚不足と当時の当主へ監督不行届の意味も込めてローゼンベルク公爵家への継承は認めず、ルードヴィッヒの母の実家にあたるスチュワート子爵家の当主となることを命令したのだ。


だが、子爵になったルードヴィッヒの役割は今も変わっていない。

国の中枢で政務の一端を担い、さらには5つの公爵家と肩を並べるほどの権力を持ち合わせている。

なんならローゼンベルク公爵家よりもよほど強い発言権があるようにみえる。

まぁもちろん国家機密扱いになっていて皇族と公爵家の一部の人間しか知らないがな。


あれだけイレギュラーで妻を愛し抜いた男だ。

その妻との娘を愛していないわけがない。

娘がひとこと「婚約破棄したい」と言えば、俺が進言なんかしなくても、あの父親が即時に許可を出すように親父(皇帝)に迫るんだろうなぁ。

その光景を思うと笑いが止まらねぇわ。

ククッ。


それに…あのジュリエットがこんなにも変わるとは思わなかったしな。



ーー10年ほど前、建国130年の記念パーティーが開かれた。

そこには各家の令息や令嬢も多く参加していたが、そこで一際目立っていたのがジュリエットだった。


風に揺れる長くて美しい銀色の髪、長いまつ毛から見えるのはブルーサファイアのように輝く大きな瞳、さらに透き通るほど白い肌。

初めてパーティーに姿を見せたジュリエットは、その美しさで多くの人の目を奪っていた。


令息たちは我先に声をかけようとしたが、駆け寄ってきたレナードに牽制されていた。

「俺の婚約者のジュリエットだ!」と紹介しながら。

レナードとジュリエットが俺たち皇族に挨拶に来た時もほとんどレナードが喋り、ジュリエットが声を発することはほぼなかった。


さらにそのパーティー以降数年、彼女を見かけることがなかった。

だからあのときの『何も言わずにただレナードについて回る女』という印象しかなかったのに、冒険者ギルドで彼女を見たときは驚いた。

髪と瞳の色が違っていたが、あの美しさ、所作、そして放つオーラで彼女だと分かった。

何の依頼をしたのか聞けば、未だに薬草などの採取しかしていないらしい。

銀髪でありながらなぜ魔術を使う依頼を受けないのかがわからなくて思わず


「その髪色でまだ採取とかやってんのか?なぜ討伐依頼受けない?」


と聞いてしまった。


すると彼女は笑顔を浮かべて


「私がどんな依頼を受けようとあなたに関係ないですよね?私急いでいるので、失礼します」


と言って去っていった。

後ろ姿にはしっかりと怒りが滲んでいたがな。


冒険者をしてたことも驚きだったが、あんなに感情をだしていることにも驚いた。


そしてダメ押しに今日の夜会だ。

あんなに黙ってついていってたレナードにハッキリと意見を言い、ましてや婚約破棄をしたいだなんて。

面白くて仕方ない。


俺は上がった口角を隠しきれずにいた。


「殿下は、なにやら楽しそうですわね?」


エレノアから鋭い発言を受け、思わず席を立ってごまかす。


「まぁ…いろいろな」


その言葉に疑問をもつ妹弟と意味を理解している友人たち。


これ以上は悟られまいとしながら、ジュリエットの『おねがい』は何になるのか、俺はその日が来るのを楽しみに待つのだった。

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