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第15話 よし、婚約破棄しよ。

「皇太子殿下、夜会会場で申し上げたものとは別に、もう一つお願いを聞いていただきたいのです」


私の発言に皇太子は静かに口を開いた。


「オリヴィエ、少し静かにしろ……いいだろう、言ってみろ」


オリヴィエ様を軽く注意してくれたが、オリヴィエ様はあまり懲りていないようで、黙りはするものの、ほっぺたを膨らませてプリプリしていた。

皇太子はというと、なぜかまだ不機嫌そうだ。

しかしとっとと済ませたい私は、気にせず笑顔を浮かべて続ける。


「はい。残りのお願いは、ビルエッド伯爵令息と一刻も早く婚約破棄したいので、皇帝陛下にすぐ許可を出していただけるようご進言をお願いしたいのです」


貴族の結婚は親同士が決めている。

家同士の繋がりができるからだ。

だからこのフラミューニ帝国では、婚約するにも破棄するにも皇帝の許可印が必要となる。

婚約関係を解消するためには双方の家が了承したうえで、資料を揃え、皇帝が許可を出すことで正式に婚約関係が解消されるのだ。


しかし数百とあるただの子爵家の婚姻に関する申請など、急ぎの案件とはならない。

つまり、皇帝陛下が許可を出すまであと数年はあのクソ野郎と婚約関係でいなければいけなくなる。


そんなの耐えられるわけない!

ジュリエットがかわいそうすぎる!!

あんなクソ野郎の婚約者でいることがすでに可哀想なのに!!!


だからとっとと婚約破棄したい私は、皇太子に働きかけを頼み、すぐにでも許可が出るようにしたいと思っていたのだ。



私の願いを聞いた皇太子は、ニヤッと笑いながら尋ねてきた。


「今までお前はアイツ(ビルエッド伯爵令息)のやることになんも言わなかったよな?それを今回の件だけで急に婚約破棄なんて……なんの心境の変化なんだ?」


皇太子がそう思うのも無理はない。

私が転生する前のジュリエットは、文句など言うような娘ではなかった。


『自分が我慢すればいい』

『ワガママを言ってはいけない』

『お父様に迷惑をかけてはいけない』

『家名を傷つけてはいけない』


そんなことを思っている娘だった。

ジュリエットの心は限界だと思う。

私にも……そーゆー経験があるからわかる。


まだ新人編集者だったとき、大物作家の連載のスケジュールが奇跡的にとれたのだ。

教育係の先輩からも編集長からも『期待してる!』と言われ喜んでもらった。

でも蓋をあけてみれば、かなり気難しい人で、スケジュールは無茶苦茶、さらに要求まで無茶苦茶。

よくわからんキャラのグッズを買いに行かされたこともあったよなぁ~。

しかもこっち持ちで。

でも大物作家だったから、文句なんて言えなくて。

誰に何を相談すればいいのか、当時の私にはわからなかった。

でもわかってたこともあった。

それは作家に気分よく仕事してもらうために気を使うということ。

私が作家の機嫌を損ねれば仕事に影響が出てくる。

そうすると編集部に迷惑かかるし、育ててくれた先輩の面子を潰すことになっちゃう。

だから私なりにどんな要求にも一生懸命対応した。


でも急に『あんたのこと気に入らないから書くの止める』ってメールが届いて、それ以降連絡取れなくなったんだよねぇ~。

あんときは、ほんとーーーにしんどかった。

なんか頑張ったことを全て否定された気がして。

で、悟った。


『自分だけでなんとかするのが無理なこともある』

『できそうな人に頼る』


大事なことよね、そーゆー割り切りも。


ジュリエットはそれが分かる前に私が転生してきちゃったから、せめて私がジュリエットを守らないとね!



「……たしかに皇太子殿下のおっしゃる通り、私は今までビルエッド伯爵令息のことを止めることをしませんでした。一度止めようとして怒られたことがあったからです。私がビルエッド伯爵令息を怒らせたらスチュワート家に、父に迷惑がかかると思ったからです」


「………」


皇太子だけでなく、先ほど荒ぶっていたオリヴィエ様たちもおとなしく話を聞いていた。


「しかし分かったのです。私が黙っていることは家名を舐められていることで、それこそが迷惑をかける行為だと。だからこそ婚約破棄したいのです」


皇太子は私の決意した表情に驚きつつも、質問をしてきた。


「……お前は、あの男に好意があるんじゃないのか?」


「……………は?」


混乱のあまり思わず声が出てしまった。


「いやいやいやいや!あるわけなくない!?アイツ、婚約者がいるのに別の女とイチャコラするようなクソ野郎だよ!?!?しかも人前であることも気にせず!!頭おかしいでしょ!!そんなヤツ、好きになる要素ある!?逆にセシリアに聞きたいレベルだけど?!勘弁してよね!!……………あ。」



空気が止まった気がした。

まぁ『気』じゃないんだけど……




「…ぷっ……ククッ、おもしろいな、お前」


皇太子が笑いながら満足そうに言ってきた。

それを皮切りにみんなが声を出し始める。

最初はやはりと言ってもいいけど、オリヴィエ様だった。


「そうよ、そうよ!スチュワート子爵令嬢、いえ、ジュリエット!!!あんなクズ、さっさと捨ててしまうほうがいいわ!」


その言葉にリュカ様は私の方を向いて「うんうん!」と言って首を一生懸命縦に振ってきた。

両手を胸の高さでグーにしているところまでがセットで可愛すぎる…!!!!


「でも婚約破棄されるなら、ちゃんと取れるものは取らないとですわよ?スチュワート子爵令嬢?」


エレノア様が妖艶な笑みを浮かべながら言ってきた。


「当然ですわ、ヴァイオレット公爵令嬢。慰謝料をどこまで引き上げられるか考えているところですわ~」


私も笑みを浮かべながら答えると、エレノア様は笑みを崩さず言う。


「クスッ。あなた面白いわぁ~。ワタクシも気に入りましたわ。ぜひ今度ワタクシのお茶会に招待させてくださいね」


「ありがとうございます、ぜひお伺いさせていただきます」


ホントは色々と忙しいので遠慮したいですが……


そんなことを思いつつ公爵令嬢であるエレノア様の申し出を断るわけにもいかず、返答するとさらに困る展開に……。


「ずるいわ!私のお茶会にもきてよね、ジュリエット!」


プンプンと効果音が出そうなくらい頬を膨らませたオリヴィエ様からもお茶会に誘われてしまった。


「はい、もちろんです。楽しみにしております、皇女殿下」


心にもないけど、そう言わないといけない気がしている。

日本の社会で揉まれていた元社畜の勘がそう言ってる……。


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