第13話 この茶番って…そろそろ終わります?
「うぅ……」
依然として涙を流しているセシリア。
「セシリアは私のために悲しんでいるのです!皇太子殿下!ジュリエットを叱ってください!!」
あ、あとよくわからない主張しかしないバカ。
いい加減にしろよ、こいつ
私はというと、イラつきはするものの笑顔を崩さずにいた。
『この問題を大きくすればこのまま婚約破棄いけるんじゃ!?』と思ったからだ。
周りの令息や令嬢はというと、ヒソヒソ話しながら結末の行方を見守っている。
みんなドラマとかを観てる感覚なんだろーなぁー
私だってあっち側だったら楽しんで見てるもん、きっと。
本来の当事者であればドキドキするんだろうが、レナードへの愛情など欠片もない私は「めんどくせぇ」以外なにも感情が湧いてこなかった。
だからこそ「異世界もののお決まり」と言える婚約者VS恋人の構図にもワクワクしてこない。
「早く終われ」という思いが漏れ出てないか心配するくらいこの状況に興味を持てないのだ。
しかし私は気づいた。
前世でも人気だった『悪役令嬢もの』なら人気が出るものが書けるのではないかと。
婚約者である令息に愛情をもっていない悪役令嬢がいて、そんな彼女たちにスカッとさせてもらっていたことを思い出した。
あの「悪役令嬢」たちと同じ状況なのでは!?
ってことは……ワンチャンいけるんじゃ!?
そんなことを思っているとため息をついた皇太子が言い放つ。
「いい加減にしろ。まずカーソン男爵令嬢、いつまでも泣くな。泣いていればなんとかなることなんてこの世にはない。あるとすればお前の要求を呑む能無しが相手のときだけだ。
次にビルエッド伯爵令息、いつまでもよく分からんことを言うな。イライラしてくる。お前たちはこの場を乱した責任をとって退場しろ。
あとスチュワート子爵令嬢、お前には聞きたいことがあるから残れ。あとで俺のところに来い」
「「っ!?」」
「っ皇太子殿下! あんまりではありませんか!私とセシリアは罰を受けるのに、なぜジュリエットには何もないのですか!?」
レナードとセシリアは、自分たちが責任をとり、退場させられるのに、私にはなんのお咎めもなく、会場に残れることが許せないようだ。
すると皇太子はフンッと鼻を鳴らしながら言った。
「当たり前だろ!お前たちは俺の問いに対して泣いたり喚いたりするだけで、なにも説明できてなかった。
だが、状況を端的に説明し、不要なパフォーマンスもしなかったスチュワート子爵令嬢からさらなる話を聞こうとするに決まってんだろ!」
皇太子の言い分に何も言い返せないレナードとセシリアは、私の方を睨んできた。
まぁそんなもの効くわけないんですけど。
特に気にする様子もみせず、貴族令嬢らしい立ち姿をしていると、皇太子が衛兵に声をかける。
「おい衛兵!この2人を連れ出せ」
その掛け声とともに衛兵が動き出し、レナードとセシリアを取り囲んで動き出す。
「は、はなせ!一人で歩ける!……!セシリア?!セシリアは無事か!?」
「レナードさまぁ!…ちょ、ちょっと!触らないでくださいませ!一人で歩けますわ!」
なにやら揉めつつも二人は会場から退場したのだった。
嵐が去ったあと、パーティー会場は徐々に平常を取り戻していった。
私の周りを除いて。
「先ほどの対応は本当に素晴らしかったですわ!」
「ホントですわ~!きっとビルエッド伯爵令息も見直したに決まってますわ!」
さっきのやり取りに感動したと話しかけてくる人やレナードの件を慰めてくる人もいた。
感動したと言ってくるのはいいけど、慰められんのはなぁ~
別に嬉しくないんだよなぁ……
それに……香水の匂いがキツすぎて……しんどい……
昔から香水苦手だったんだよなぁ
気持ち悪くなってきたし……
まだまだ途切れない人の列を前に、作っている笑顔が引きつり始めていた。
「申し訳ございません、皆様。少し風に当たりたくて…失礼いたしますね」
そう言い残し、笑顔が崩れる前にそそくさとその場を去ったのだった。
「スチュワート子爵令嬢!?」と呼ばれている声を無視して。
メイン会場から出ると、私は人気のないほうへと進んでいった。
さすが帝城。広い。
早く一人になりたくて歩き続けるとメイン会場から少し離れたところでテラスを発見する。
周囲に誰もいないことを確認し、ガラス扉からテラスへと出た。
今まで室内にいたからか、通り抜ける風がとても気持ちいい。
かすかに花の香りもする。
そのリラックス効果を受けーー
「はぁーー!疲れたぁーー!」
身体を伸ばしながら声を出して叫んでしまった。
メイン会場付近ではオーケストラの生演奏で聞こえないはずだから大丈夫だろう!
そんな楽観的な考えに陥っていた。
「声かけてくれるのはいいんだけどさぁ、匂いがねぇ~。みーんな香水つけてるから合わさった匂いがマジで無理。あれ、法律でどーにかしてくんないかなぁー」
疲れた脳では、ちゃんとした判断が下せなかったのだ。
だってすぐ近くに人がいたのだから。
「クックック……ほんとにお前はおもしろいな」
その声に猫が驚いた時のようにビクッとしてから振り向くと、そこには皇太子がいたのだ。
それはそれは楽しそうに笑いながら。
「ふ、フラミューニ帝国の若き太陽にジュリエット・スチュワートがご挨拶申し上げます」
カーテシーをしながら改めて挨拶をした。
え!?
さっきドアの周り見たときはいなかったじゃーん!
なんでなわけ!?
ってか、疲れてるんだから一人にしてほしいんですけど?
そんなことを思っていると皇太子は笑いながら言った。
「挨拶やめていいぞ?『結構ツラい』んだもんなぁ?」
「!」
私が言ったセリフ…!
こいつ……
疲れがピークに来ていることもあり、イライラが再びわき上がってくる。
しかし残った理性が自分自身をとめる。
相手は皇族!
さすがにキレたらお父様にも迷惑かかるし……
我慢だ、私!我慢!!
こんなの作家が約束してた締切を破った挙句、他社の仕事優先して、そのあとにゲーム配信とかやってたから仕事できてないとか言われるより全然マシでしょ!
耐えるのよ、私!!!
「皇太子殿下もお人が悪いですわ~」
がんばって笑顔をつくり、受け流す発言をした。
大人な対応だったと思う。
さすがに自分自身を褒めてあげたいと思いましたよ。
そんな私の様子に皇太子は笑いながら話す。
「本当にお前は見てて飽きんな。クックック」
『お前』?
私がイラッとすると同時に、皇太子から声をかけられる。
「おい、ここじゃなんだし、ついてこい。さっき言ってた話を聞く」
今度は『おい』??
このガキ、いくらなんでも失礼すぎじゃない?
もやもやしながら皇太子のあとをついて行くのだった。




