第12話 皇太子登場!女の涙は強い武器?
「これはどういう状況だ?」
その凛とした声に、場が静まり返る。
声の主を辿ると、そこには白い軍服のような服を纏った男性がいた。
少し長めの金色の髪は無造作にセットされていて、ハラリと目元に落ちた前髪の隙間から、鋭くて赤い瞳が覗いている。
その男性は、この国の王となる人物ならではの品位を醸し出していた。
皇太子のいる螺旋階段の上の方を見れば、皇太子のほかに第二皇子のリュカ様に、第一皇女のオリヴィエ様、さらにはグレイフォード公爵令息やヴァイオレット公爵令嬢までいた。
私を含めた階段の下にいた彼らよりも階級の低い者は一様に佇まいを正し、頭を下げる。
「「フラミューニ帝国の若き太陽にご挨拶申し上げます」」
「……俺の言ったことが聞こえなかったのか?どういう状況なのか、説明しろ」
そう言いながら皇太子たちは階段を下ってくる。
どこまで話せばいいのかと考えつつ、誰も説明しないでいると階段を降りきった皇太子からレナードが指名を受けた。
「ビルエッド伯爵令息、説明しろ」
話をするため、レナードだけが顔を上げる。
「は、はい…皇太子殿下。じ、実はですね、そんなに大きなことではなくて、ですね、私の婚約者が、勘違いをして、セシリアを泣かせていたので咎めていたところで……」
レナードのオドオドとしながらも『私だけが悪い』という内容に呆れ返っていると、皇太子からも呆れた声が聞こえた。
「ビルエッド伯爵令息、婚約者がいながら、婚約者でもない女性の名前を呼び捨てで呼ぶんだな?随分仲がいいとみえるが?」
「そ、そんなことは!!こ、言葉の綾というやつですよ…!それ、それにセシリア嬢とはそんな関係では……!」
皇太子の言葉に焦ったレナードはもう何が言いたいのか分からん状態になっていた。
弁明するならちゃんと弁明しろよ、このポンコツ!
こっちはずっとカーテシーしててツライんですけど?!
イライラしながらカーテシーを続けていると、皇太子から声をかけられる。
「スチュワート子爵令嬢。お前はちゃんとした説明ができるか?」
……『お前』?
こいつ皇太子だからって失礼すぎない??
私はカーテシーをやめながら淡々と話はじめる。
「……はい、皇太子殿下。まず、先ほどの騒動につきまして、夜会の雰囲気を著しく損ない、お詫びの言葉もございません。大変申し訳ございませんでした」
私は頭を下げる。
皇太子はいきなりの謝罪に驚いたようだった。
下の者が頭を下げたら上の者はそれを受けるよりほかなくなる。
『退路は断つべし!』これは前世で学んだことのひとつだ。
「あ…あぁ…この件について責任は問わないものとする。……で、詳細は?」
皇太子から言質を取ったことで、ついでにと思った私は先に済ませておくことの確認をとる。
「ありがとうございます、皇太子殿下。大変無礼を承知でお願いがございます。こちらにいる皆様の姿勢を戻させていただけますでしょうか?カーテシーってツラいんですよ、実は。皆様ヒールを履いておりますし、だいぶおツラいはずです」
「ほぉ……わかった。全員体勢を戻していいぞ。気づかなくて悪かったな」
皇太子から許可が出ると、周囲が一瞬にしてホッとしたのがわかる。
やはりつらかったのだろう。
涙目になってこちらを見ている者までいたくらいだから。
「で、何があった?」
早く詳細を聞きたいようで、皇太子は急かしてきた。
気になることを早く聞きたいその様子が、なんというか年齢相応に見えてしまい面白かった。
「では、事の顛末をお話させていただきます。
まず、レナード・ビルエッド伯爵令息と私は婚約者にございます。そのうえで、今回の夜会にご招待いただきましたためパートナーとして参加しております。
こちらの会場に入室後、そちらのセシリア・カーソン男爵令嬢がご挨拶にいらっしゃったので、我々もご挨拶せねばと思い、パートナーをお伺いしたところレナードさまが怒りだし、セシリアさまが泣きだした、というところでございます。
なぜ怒り、泣きだしたのかまでは当人ではございませんため、分かりかねます」
にっこりとした笑顔で締めくくると、クスッと笑ったうえで皇太子がレナードに問う。
「ビルエッド伯爵令息、スチュワート子爵令嬢の言ってることに違いはないか?」
レナードは、焦った様子を隠せずに答える。
「ま、間違ってはいませんが!こいつはセシリアに失礼なことを言ったので、私が叱ったまでです!」
焦ってまた『セシリア』って言ってますよ~?
ホントに学ばないねぇ、この男は。
アホすぎる。
「その『失礼なこと』とはどんなことなんだ?」
皇太子の単純な質問にさらにタジタジになるレナード。
「えっと、その…あの……、」
「早く言え」
皇太子が答えを急かすもなかなか答えられないでいると、セシリアが声を上げた。
「皇太子殿下!そのことにつきましてはワタクシ、セシリア・カーソン男爵令嬢が証言させていただきたいですわ!」
フンッと意気込んでいるセシリア。
しかし両手を胸の高さでグーにし、少し前かがみになった体勢で言うところがなんともあざとい。
セシリアが自分の魅せ方をわかっている様子がおかしくて仕方がないのか、皇太子は「話せ」とだけ言って肩を震わせていた。
「ジュリエットさまはヒドイんです!!婚約者であるレナードさまに全然寄り添ってあげていないんです!
人付き合いが苦手ということを盾に夜会にもお茶会にも参加せず毎回レナード様を困らせていたのです!だからワタクシがレナードさまを助けてあげていたのです!
それなのに、パートナーの代理を務めたワタクシに嫉妬してヒドいことを言ってくるのです!!」
「だからぁ、その『ヒドいこと』って何を言われたのか聞いてんだよ」
「そ、それは!ワタクシのパートナーが誰かと聞いてきたのです!」
「それのどこが『ヒドいこと』なんだ?」
「だってだって……あんなにレナード様のパートナーを務めてたのに……うぅ……」
「泣かなくていいから、説明しろ」
「う…うぅ……」
皇太子が味方になってくれないからなのか、セシリアは涙を流していた。
だいたいの男は涙を見せたら味方になったんだろうなぁ~
たぶんアレだな『悲劇のヒロイン症候群』ってやつだな
まぁ皇太子には効いてないみたいだけど。
なんてゆーか………どんまい!




