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森での出来事2

 帳の森は、名前の通り、昼でも薄暗い森だった。

 学園の裏手に広がるそこは、古くから学園の敷地の一部とされている。けれど鬱蒼と枝葉が重なり合い、晴れた日でさえ木漏れ日ひとつ落ちてこないせいで、好んで近づく生徒は少ない。

 ゲーム内では静かなBGMも相まって神秘的な印象だったけど、こうして足を踏み入れてみると神秘というより普通に怖い場所だった。


(そもそも、インドアオタクに森歩きはきついって……!)


 制服の袖に細い枝が引っかかる。靴の底で湿った土が沈む。どこかで鳥が羽ばたく音がして、そのたびに心臓が跳ね上がりそうになる。許されるなら今すぐ帰ってベッドに潜りこみたい。


 でもラズリは、この森を静かで好きだと言っていた。木の葉の音だけが聞こえるのが落ち着くのだと、少し照れたように笑っていた。

 その顔を思い出すと、足を止めるわけにはいかなかった。


「ラズリ……?」


 声を抑えて呼びかけても返事はない。


 呪いがあらわれる東屋は、森の奥にある。かつて森の魔女が星を読んだという古い東屋。ゲームの背景を思い出しながら、私は木々の間を縫うように進んだ。


 足を踏み出すにたびに空気が重くなっていく。

 最初は、森の湿気のせいかと思った。けれど違う。息を吸うたび、目に見えない煙が肺の奥に溜まっていくような重さがある。喉の奥がひりついて、胸の中に冷たい石でも沈められたようだった。


 ゲームのテキストでは、ただ「禍々しい気配」と書かれていた。でも、現実ではこんなにも気持ち悪い。体の奥を自分のものではない何かに触れられているような、不快な感覚。


(これが……呪い)


 そう理解した瞬間、どこかで空気が弾けるような音がした。


 乾いた枝が折れる音ではない。もっと重く、鈍い。見えない壁が軋んで、砕けたような音だった。


「ラズリ!」


 今度は声を抑えられなかった。

 私は枝に制服を引っかけるのも構わず、音のした方へ駆け出した。足元の根に躓きかけ、片手で木の幹を掴んで体勢を立て直す。優雅な黄金の薔薇も何もあったものじゃない。


 木々の隙間から、開けた場所が見えた。

 古びた東屋。

 苔むした石畳。

 そのそばに、倒れている少女。


 絹のような栗色の髪が、湿った草の上に広がっている。


 駆け寄ろうとして、足が止まった。


 そこにいたのは、ラズリだけじゃなかった。

 黒い靄のようなものが、東屋の周囲に絡みついている。生き物のように蠢き、倒れたラズリへと手を伸ばそうとしているそれを、誰かが遮っていた。


 夜みたいに黒い髪。

 痩せた背中。

 式典用のローブの裾が、風に煽られてはためいている。


 立っていたのはクラトだった。

 

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