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プロローグ2

 朝の光を浴びて、金の縦ロールが輝く。


 皺一つない制服に身を包み、しずしずと学園へと続く道を歩く私を、すれ違う生徒たちが敬意と羨望の瞳で見つめる。

 うっとりしたため息をついたり、胸を押さえてよろけたり。「素敵」「女神様みたい」なんて囁きまで聞こえてくる。


 当然だ。

 この世界における私は王国有数の名門アルドラ家の令嬢、黄金の薔薇とも呼ばれる完全無欠のお嬢様・ディアなのだから。


(……本当に、魔法の知識とか礼儀作法とか勝手に身についてて良かったな……)


 安堵の息をつく姿すら優雅な学園のスターの中身がただの乙女ゲームオタクだなんて、みんな夢にも思わないだろう。

 私だってこの三ヶ月間、朝起きるたびに鏡に映る姿を見て驚いている。


「ディア様、おはようございます!」


 弾むような声に呼びかけられて足を止める。胸を高鳴らせながら振り返ると、そこに立っていたのは『千恋』のヒロイン、ラズリだった。

 柔らかく波打つ栗色の髪と、深いアンバーの瞳。頬を桃色に染めてはにかむ姿に口元が緩みそうになるのをこらえて、私は上品に微笑みを返した。


「おはようラズリ、今日も早起きね」

「はっ、はい、この時間ならディア様に会えるかと思って」


 ……可愛い。可愛すぎる。


 公式のラズリのキャッチフレーズは心優しき天涯孤独の少女だけど、私なら世界が守るべき天使にしている。純真無垢で、頑張り屋で、誰に対しても分け隔てないラズリを私はゲーム発売当初から溺愛していた。


 『千恋』は、ラズリが王立アストルム学園で運命の恋に出会う学園乙女ゲーム。そして同学年のディアは悪役令嬢……ではなく、お人好しで面倒見の良い人柄でラズリに慕われている。

 つまり、ラズリを近くで見守りたい、あわよくば推しといい雰囲気になる姿を拝みたい私にとっては夢のような立ち位置だった。


 しかもラズリは今、幼馴染のホメロスと学園で再会して少しずつ距離を縮めていっている。口は悪いけど根は優しくて、ラズリを大切に思っているホメロスは私の最推しでもある。

 このまま進めば次の舞踏会イベントで踊る相手はほぼ間違いなくホメロスになるはずだ。推しカプの見せ場の上、平民出身の二人にディアが立ち居振る舞いを教えるという役得要素まである。


 あまりにも順風満帆、全てが理想的だった。

 ――足元の落とし穴に気づかないほど。


「実は、来月の舞踏会のことで相談があるのですが……」

「ああ、作法に自信がないのね。大丈夫よ、まだ練習する時間はあるから」

「すごい、ディア様は何でもわかってしまうんですね」


 ミモザみたいな黄色のドレスを着たラズリに思いを馳せるあまり、つい展開を先取りしてしまった私に、ラズリが嬉しそうに微笑む。

 長いまつげに縁取られた瞼が伏せられて「それと」とためらいがちに言葉が続いた。


「もうひとつ気になることがあるのですが……イルドゥン家というのは、どのようなお家なのですか?」

「イ……」


 イルドゥン家……え、イルドゥン家??


 予想外の言葉に目を見開く。それは二周目以降、クラトルートが解放されてから追加される台詞だった。


 舞踏会が行われる式典にイルドゥン家の人間が呼ばれるという噂を聞いたラズリが、ディアから次期当主であるクラトの話を聞く。そこで本来のディアは、扇を広げてこう言うのだ。


『――あの家には近づかない方がよろしくてよ、呪われているから』


 ……これ、言った方がいいのかな。

 あんまり言いたくないんだけど。


 そう思ったのは突然生えてきたフラグに警戒したからでなく、ゲーム内でクラトを取り巻く噂がすべて根も葉もない話だからだ。


 私はクラトが好きではない。全然好きではないけれど、だからといって濡れ衣だと知っている悪評を堂々と伝えたくはない。


 しかもイルドゥン家の噂の真相はクラトルートでのみ明かされる。つまり、ラズリがホメロスルートに進んでいる今、ここで私が悪評を吹き込んでもただの悪口にしかならない。


「……イルドゥン家は、昔、王家との間にいざこざがあった家よ」


 だから、できるだけ言葉を選んで説明することにした。自己満足だとは思うけど、近づかない方がいいとも怪しいとも言わなかった。


「いざこざ、ですか?」

「ええ。でも噂は噂よ。人のことは自分の目で見てから判断なさい」


 ディアの振る舞いとしては少し早口に言い切って、他の話題を探そうとしたとき、不意に背後から影が差した。


「――アルドラ家の令嬢が、ずいぶん寛大なことをおっしゃる」

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