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雨の日の記憶1

 岬から戻って数日経ったある日、私はラズリに呼び止められた。


「ディア様、少しご相談してもよろしいでしょうか」


 廊下の端でそう言ったラズリは、どこかそわそわしていた。両手を胸の前で重ねて視線を上げ下げして、頬にはほんのり赤みが差している。


 これは何かある。

 私は即座に淑女の微笑みを浮かべた。もちろん、内心では身を乗り出している。


「ええ、もちろんよ。どうしたの?」

「あの、今度のお休みに、ホメロスと街へ行くことになって」

「まあ」


 街へ行く。

 うら若き男女が、休みの日に。


(それは、一般的にデートと呼ばれる行為では……!?)


 突然の推しカプ燃料投下に、その場で崩れ落ちそうになるのをぐっと堪える。舞踏会に続くホメラズイベント。神様、本日もありがとうございますと心の中で天を仰いだ。


「それで、何を着ていけばいいのかと思って……あまり華やかすぎても変でしょうか。でも、いつもの制服では味気ない気もして」

「味気ない、と思うのね」

「そ、れは……」


 ラズリの頬がさらに赤くなる。


「ホメロスは、きっと何を着ても変わらないって言うと思うんです。でも、少しは、その……可愛いと思ってもらえたら嬉しくて」


 ……致死量の愛らしさに、心臓が破裂するかと思った。

 どうして私は今この瞬間を映像として保存できないんだろう。千恋製作陣はラズリ着せ替え機能を実装すべきだった。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。


「ラズリ」


 私は彼女の両手をそっと取った。


「その反応がもう可愛いわ」

「ディア様?」

「いえ、独り言よ。そうね、街へ行くなら動きやすい服がいいでしょう。この前のドレスは黄色だったから、淡い空色はどうかしら。膝丈のワンピース、クローゼットにかか……持っていたわよね」

「ディア様……」

「それだけだと少し首元が寂しいから、幅の広い白のリボンを結んで……そうそう、ちょうどいいブローチがあるからぜひ使ってちょうだい。髪は少し結って、小さな髪飾りを添えるくらいでいいわね。軽くお化粧もしましょう」

「お化粧、ですか?」

「軽くね。ホメロスは口には出さないかもしれないけれど、きっと見惚れるわ」


 不器用なホメロスでも「今日のラズリ、なんかきらきらしてんな」くらいは言う。その言葉にラズリは幸せそうに笑って、思い出を宝物にするのだろう。想像だけで目頭が熱くなる。


 興奮のあまり普段の倍近く早口になってしまった私に、ラズリは澄んだ紅茶色の瞳を丸くしていたけれど、やがて花がほころぶように笑った。


「ありがとうございます、ディア様が私のことをたくさん考えてくださって、すごく嬉しいです」

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