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第81話 追うだけじゃない

三組すべてが終わって、


決勝進出の八校が出そろった。


白城学院。


県立潮見。


東陵大附属。


ほか五校。


白城学院は別組トップ通過だった。


御影がアンカーでまとめて抜き切ったらしい。


電光掲示板の一番上に、静かにその名前がある。


戻りの通路で、黒瀬が壁にもたれていた。


汗は引きかけている。


でも、目はまだ熱い。


蓮が通りかかる。


視線だけがぶつかる。


黒瀬が先に口を開いた。


「個人も、予選も。今日はそっちだな」


短い声だった。


蓮も止まる。


「今日は、な」


黒瀬が少しだけ笑う。


悔しさを隠さない笑いだった。


「そうだな」


それだけで十分だった。


長い因縁に、


派手な言葉はいらない。


追うだけだった側が前に出た。


その事実だけで、


宿敵の形は変わる。


もう見上げる相手じゃない。


並んで、ぶつかって、追い越す相手だ。


黒瀬が視線を前へ戻す。


「でも、上はまだいる」


口にしなくてもわかる。


白城学院。


御影。


蓮も前を見た。


「知ってる」


通路の先、


夕方の光が少し赤い。


シーザーズとの決着はついた。


でも、物語はまだ終わらない。


本当に欲しい場所が、


まだ前に残っているからだった。


ベンチへ戻ると、一年マネ三人が先に騒いでいた。


「東陵より前です!」


「宿敵決着って感じです!」


「井坂先輩、さっきの何ですか!? かっこよすぎなんですけど!」


「うるせー、落ち着け」


「でもほんとにかっこよかったですー!」


「今いらねえ、そういうの」


「照れてるー」


「照れてねえ、バカヤロー」


西野が笑う。


「いいですね。ちゃんと勝ったあとみたいです」


高梨が決勝リストを見ながら言う。


「でも、明日はもっときついです」


遥も静かにうなずく。


「八校全部が決勝仕様になる」


蓮はその紙を受け取って、


白城学院の名前のところで視線を止めた。


御影。


個人では届かなかった。


明日はリレーでぶつかる。


サブトラックへ少しだけ出て、


足をゆるめる。


その横に井坂が来た。


「白城、速いっすね」


「うん」


「でも、ここまで来たら、残るだけじゃ意味ないですよね」


蓮は前を見たまま、静かに言う。


「最後は、先頭で終わる」


井坂は聞き返さなかった。


それが明日の全国マイル決勝を指していると、


わかったからだ。


四人でつないで、


四人で戦って、


最後のゴールだけは先頭で終わる。


その意味だった。


西野が少し遅れてやってくる。


「いいですね、その顔」


「どの顔だよ」


「勝つ顔です」


井坂が笑う。


「ざっくりしてんなあ」


「ざっくりで十分です」


遥も記録板を持って歩いてくる。


「明日、蓮は受けたあと、最初から全部出さないで」


「わかってる」


「井坂がどこまで持ってくるかで変わる」


井坂が鼻を鳴らす。


「持ってきますよ」


高梨がそこに重ねる。


「倒れないでくださいよ、ほんとに」


「縁起でもねえこと言うな」


牧田がすかさず笑う。


「でも先輩、明日ぜったい見せ場ありますよね」


白石も続く。


「また黄色い声出しちゃいます」


篠原が手を振る。


「井坂先輩ー、明日もかっこいいとこお願いしますー」


「うるせえ!」


「きゃーこわーい」


「だから棒読みなんだよ!」


少しだけ空気がほどける。


その輪の外で、小宮山が静かに言った。


「……明日、終わる」


誰もすぐには返さなかった。


終わる。


この全国も。


この四人の並びも。


ここまで積み上げてきた今の形も。


だからこそ、


終わり方を選ばなければいけない。


西野が四人を見る。


「明日、決めましょう」


部長の声は大きくない。


でも、まっすぐ届いた。


蓮が短くうなずく。


「勝つ」


風が吹く。


その風の向こうに、


明日の決勝の気配があった。


白城学院。


御影。


東陵大附属。


決勝に残った八校。


全部まとめて、明日が最後の勝負になる。


県立潮見の四人は並んで歩き出した。


まだ鳴っていない号砲の前へ。


まだ終わっていない物語の、いちばん熱い場所へ。

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