第77話 一走の差
全国マイル予選。
県立潮見は第二組だった。
同じ組に、県立潮見。
東陵大附属。
ほかにも地方を勝ち抜いてきた強豪が並ぶ。
白城学院は別組。
アップ場で鳴海がスタートの確認をしていると、
隣のレーンに真田が来た。
東陵大附属の一年。
線は太く、動きに迷いがない。
一年というより、もう完成形に近い。
鳴海も立つ。
目が合う。
ほんの一瞬だけ。
言葉はない。
でも、それだけでわかる。
格上だ。
それでも、引く理由にはならない。
倉橋が鳴海の肩を軽く叩く。
「固い?」
「はい。ちょっと」
「いいよ。そのくらいで」
「倉橋先輩は」
「けっこう固い」
鳴海は少しだけ笑った。
その少し離れたところで、
また一年マネ三人が井坂に絡んでいた。
「井坂先輩、今日も倒れないでくださいね」
「縁起でもねえこと言うな、バカヤロー」
「でも倒れそうな顔してます」
「顔で走ってねえよ」
「全国の三走、顔圧つよーい」
「うるせえ」
「きゃー、怒られたー」
「だから棒読みなんだよ」
白石がくすっと笑う。
「でも先輩、今日ぜったい見せ場ありますよね」
「知らねえよ」
「あるって顔してます」
「してねえ」
そう言い返す声が、
少しだけ照れ隠しに聞こえるのは気のせいじゃなかった。
招集が始まる。
四人が並ぶ。
遥が言う。
「鳴海は耐える」
「倉橋は切らさない」
「井坂は流れを変える」
「蓮は受け取って、前へ出す」
高梨が続ける。
「残ること」
「でも、残るために縮まないこと」
小宮山が小さく口を開く。
「……四人で」
それだけだった。
けれど、その一言がいちばん深かった。
入場。
スタンドのざわめきが上がる。
紹介。
拍手。
視線。
熱気。
鳴海はレーンに立って、前を見る。
真田は外側にいた。
並ぶ相手ではない。
今は、追いすがる相手ですらない。
それでも同じトラックにいる。
「On your marks.」
前へ。
「Set.」
観客席の音がすっと落ちる。
破裂音。
鳴海が飛び出した。




