第76話 シーザーズ
個人戦がひと区切りついて、
次に全員が向くのはマイル予選だった。
東陵大附属。
黒瀬の学校。
そして、全国のマイル界では別の呼び名もある。
「シーザーズ」
鳴海が小さく読んだ。
井坂が横で鼻を鳴らす。
「大げさな名前だよな」
「でも、呼ばれてますよね」
倉橋が言う。
東陵大附属のマイルは、
観客席や雑誌の見出しでそう呼ばれていた。
王様みたいに前を譲らない。
一本のほころびも見せず、
四人が当然みたいに強いから。
去年、県立潮見が南関で見上げた背中の中心にも、
黒瀬がいた。
西野が名簿をたたむ。
「今年は、追うだけでは終わらない」
声は静かだった。
でも、部長の声だった。
「シーザーズに勝ちに来た。そういう大会にする」
鳴海が笑う。
「いいですね、それ」
「軽く言うな」
井坂が言う。
「相手、王様ごっこしてる連中だぞ」
「じゃあ、倒しがいあるじゃないですか」
「お前、そういうとこだけほんと嫌いじゃねえ」
西野は少しだけ笑ってから、
オーダー表を置いた。
県立潮見は変わらない。
一走・鳴海。
二走・倉橋。
三走・井坂。
四走・朝倉。
対して東陵大附属――シーザーズは、
一走に真田、三走に黒瀬。
真田は元中学王者。
一年で名門・東陵大附属のレギュラーを取っている。
鳴海より、現時点では数段格上だった。
白城学院は別組。
つまり、予選ではまず東陵大附属との勝負。
そして決勝に残った先で、白城学院と当たる。
その順番だった。
遥がオーダー表を見ながら言う。
「井坂、三走で入っても深くしすぎないで」
「毎回それ言いますね」
「毎回無理するから」
「信用ねえな」
「あるから言ってる」
井坂は返事をしなかった。
返さなかったのは、
その言葉が本気だからだとわかっているからだった。
蓮が鳴海を見る。
「真田は速い」
「……はい」
「追いかけるな」
「おまえは、おまえの位置を守れ」
鳴海は深くうなずいた。
全国で一年がいきなり先頭争いをする必要はない。
置かれすぎず。
崩れすぎず。
つないで戻る。
まずはそこだった。




