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第40話 残る理由

見学に来た一年の数は、一週間でかなり減った。


二週間目に入るころには、最初の熱気が嘘みたいに薄くなる。


潮見の練習は、入ってすぐに夢を見せるタイプじゃない。


坂ダッシュ、テンポ走、300の反復、補強。


地味で、きつくて、誤魔化しがきかない。


速くなりたいと言うだけでは残れず、毎日の一本を積み上げられるかどうかが先に試される。


最初に来なくなったのは、雰囲気だけで来ていた層だった。


次に、見ているだけなら好きだった一年たちが減った。


マネージャー志望も、器具庫の整理や計測の段取りを任せたあたりで、人数が目に見えて落ちた。


放課後、校庭を見回した真壁がぽつりと言う。


「思ったより、まだ残ってるな」


瀬川が記録ボードを見ながら答える。


「ここからが本番です。さらに減ると思います」


「減る前提で見るなよ」


「増える前提で見るよりは正確です」


「そういうとこだぞ、お前」


「何がですか」


「夢がない」


「現実のほうが使えるので」


「否定しねえのかよ」


遥が小さく笑う。


「でも、どっちも必要じゃん」


西野もうなずいた。


「真壁先輩が期待して、瀬川先輩が見てるから、ちょうどいいんだと思います」


「お前ら最近、妙にまとめに来るな」


「見てるからです」


「遥までそれ言うの?」


「言う」


その日の終わりに残っていた一年は、だいぶ絞られていた。


井坂は当然のようにいる。


苦しい練習のときほど目が鋭くなる。


勝ち気で扱いづらいが、逃げない。


倉橋は目立たないまま残っている。


声は大きくないのに、メニューの途中で崩れにくい。


一本ごとの質が妙に揃っていた。


マネージャーでは、小宮山がストップウォッチとラップ表を黙って覚え、高梨は最初こそ積極的に自分から動くことはなかったが、練習後に水の補充やコーンの回収へ自然に手が伸びるようになっていた。


蓮はアップの途中で、ふと一年たちの顔を見る。


最初に集まった人数なんて、たぶん意味がない。


ここから何を理由に残るのか、そのほうがよほど大事だ。


見た目に惹かれたやつもいるだろう。


速さに憧れたやつもいるだろう。


でも、残るうちに理由は変わる。


変わらなければ、たぶん持たない。


井坂が給水のあと、蓮へ言う。


「先輩」


「何」


「まだ抜ける気しかしないんで」


「そう」


「笑わないんですね」


「今の段階で笑っても意味ないだろ」


「じゃあ、見ててください」


「見てるよ」


蓮がそう返すと、井坂は少しだけ満足そうな顔をした。


新体制は、まだ始まったばかりだ。


でも、ちゃんと残るやつが残り始めている。


その手応えだけは、確かにあった。

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