表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/92

第39話 見られる側

新学期が始まって最初の週、潮見高校陸上部の見学には、例年より明らかに多い一年が集まった。


男子も女子もいる。


競技希望も、マネージャー希望もいる。


校庭の端に固まっているその人数を見て、真壁が朝から眉をひそめた。


「こんな来るか、普通」


西野がスマホを差し出す。


「たぶん、これです」


画面には短い動画が映っていた。


南関の男子4×400mリレー、三走から四走へ入るあたり。


蓮の加速だけが妙に伸びて見える切り抜きに、見出しがついている。


“潮見のシンクロ、見た?”


蓮は顔をしかめた。


「嫌なんですけど」


遥が横から覗く。


「嫌でも見られる側になったんでしょ」


「別になりたくてなったわけじゃない」


「そういう人ほど目立つんだよ」


「面倒だな」


「それは同意」


見学の一年たちは、露骨だった。


真壁や瀬川を見るより先に、蓮を見る目が多い。


県や南関の結果を知っている者もいるのだろうが、それだけではない。


動画で切り抜かれたせいで、速さより先に“絵になる選手”として見られている気配があった。


蓮はそういう視線に慣れていない。


普段はぶっきらぼうで、髪も服装も無頓着で、目立つことから逃げてきた。


けれど南関のあと、一度映えてしまった走りは、本人の都合を無視して残る。


入部説明で真壁が前に立つ。


「先に言っとく。うちは派手じゃない」


ざわついていた一年が静かになる。


「四百はかっこよく見えるかもしれないけど、やることは地味だ。きついし、すぐ速くならない。マネージャーも楽じゃない。朝は早いし、試合は長い。なんとなくで来たやつは、たぶんしんどい」


瀬川が後ろから補足する。


「それでも残るなら歓迎します。競技経験は問いません。ただし、続ける意思は見ます」


説明が終わったあと、一年たちがばらけて動き始める。


その中から、ひとりの男子が蓮の前へ来た。


短髪で、目がやけにまっすぐだった。


「朝倉先輩」


「……何」


「動画、見ました」


「そう」


「俺、四百やります」


「へえ」


「先に言っときます。抜きます」


蓮は少しだけ眉を上げる。


怯えも遠慮もない。


横で聞いていた遥が、小さく笑った。


「濃いの来たね」


「そうだな」


男子の名は、井坂蒼真。


その少し後ろで、おとなしく様子を見ていたのが倉橋悠斗。


女子のほうでは、最後まで残っていたのが小宮山凪と高梨美羽だった。


ふたりともマネージャー希望らしいが、理由はまだ見えない。


視線が増える。


名前を知られる。


噂される。


その全部が心地いいわけではない。


けれど、逃げても消えないなら受け取るしかない。


見られる側になるというのは、褒められることじゃない。


勝手に期待され、勝手に比べられ、それでも走る位置へ押し出されることだ。


二年目の春は、そういう形で始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ