第39話 見られる側
新学期が始まって最初の週、潮見高校陸上部の見学には、例年より明らかに多い一年が集まった。
男子も女子もいる。
競技希望も、マネージャー希望もいる。
校庭の端に固まっているその人数を見て、真壁が朝から眉をひそめた。
「こんな来るか、普通」
西野がスマホを差し出す。
「たぶん、これです」
画面には短い動画が映っていた。
南関の男子4×400mリレー、三走から四走へ入るあたり。
蓮の加速だけが妙に伸びて見える切り抜きに、見出しがついている。
“潮見のシンクロ、見た?”
蓮は顔をしかめた。
「嫌なんですけど」
遥が横から覗く。
「嫌でも見られる側になったんでしょ」
「別になりたくてなったわけじゃない」
「そういう人ほど目立つんだよ」
「面倒だな」
「それは同意」
見学の一年たちは、露骨だった。
真壁や瀬川を見るより先に、蓮を見る目が多い。
県や南関の結果を知っている者もいるのだろうが、それだけではない。
動画で切り抜かれたせいで、速さより先に“絵になる選手”として見られている気配があった。
蓮はそういう視線に慣れていない。
普段はぶっきらぼうで、髪も服装も無頓着で、目立つことから逃げてきた。
けれど南関のあと、一度映えてしまった走りは、本人の都合を無視して残る。
入部説明で真壁が前に立つ。
「先に言っとく。うちは派手じゃない」
ざわついていた一年が静かになる。
「四百はかっこよく見えるかもしれないけど、やることは地味だ。きついし、すぐ速くならない。マネージャーも楽じゃない。朝は早いし、試合は長い。なんとなくで来たやつは、たぶんしんどい」
瀬川が後ろから補足する。
「それでも残るなら歓迎します。競技経験は問いません。ただし、続ける意思は見ます」
説明が終わったあと、一年たちがばらけて動き始める。
その中から、ひとりの男子が蓮の前へ来た。
短髪で、目がやけにまっすぐだった。
「朝倉先輩」
「……何」
「動画、見ました」
「そう」
「俺、四百やります」
「へえ」
「先に言っときます。抜きます」
蓮は少しだけ眉を上げる。
怯えも遠慮もない。
横で聞いていた遥が、小さく笑った。
「濃いの来たね」
「そうだな」
男子の名は、井坂蒼真。
その少し後ろで、おとなしく様子を見ていたのが倉橋悠斗。
女子のほうでは、最後まで残っていたのが小宮山凪と高梨美羽だった。
ふたりともマネージャー希望らしいが、理由はまだ見えない。
視線が増える。
名前を知られる。
噂される。
その全部が心地いいわけではない。
けれど、逃げても消えないなら受け取るしかない。
見られる側になるというのは、褒められることじゃない。
勝手に期待され、勝手に比べられ、それでも走る位置へ押し出されることだ。
二年目の春は、そういう形で始まった。




