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マイルリレー【シンクロ】―4人が繋がるとき0.1秒世界が遅れてついてくる―  作者: スドタケ
Season2|新体制編

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第38話 卒業の背中

卒業式の日、校舎は春の光で明るすぎた。


別れの日なのに、景色だけは前へ進んでいる。


それが少しだけ腹立たしいと、蓮は思った。


窓の外のグラウンドには白線が残り、風で寄った砂が一方に薄く積もっている。


あの場所では昨日までと同じように走れるはずなのに、今日だけは何かの区切りが校舎じゅうに置かれている気がした。


神崎たちは制服姿だった。


ジャージでもスパイクでもないその格好が、逆に遠い。


部室の前で相沢がネクタイを緩めていて、遥にすぐ止められている。


「卒業式終わった直後にそれやるんですか」


「首苦しいんだよ」


「だらしないだけですよね」


「お前ほんと遠慮なくなったな」


「相手選んでるので」


「それ、俺ならいいって意味?」


「だいたいそうです」


「傷つくなあ」


西野が横で小さく笑い、すぐに目元をこすった。


泣いているのを見られたくないのか、俯き方が少しだけ不自然だった。


式のあと、陸上部だけで短い時間が取られた。


神崎は相変わらず長く話さない。


「勝て」


それだけだった。


真壁が苦い顔をする。


「雑だな」


「必要なことは分かるだろ」


「分かりますけど」


「なら十分だ」


瀬川が一歩前へ出る。


「今までありがとうございました」


神崎は短くうなずいた。


「瀬川。真壁を支えろ」


「はい」


「支えるだけじゃ足りないときは?」


「一緒に背負います」


「それでいい」


相沢は相沢で、真壁の肩を軽く叩いた。


「部長、怒鳴る前に見ろよ」


「誰が怒鳴るんですか」


「お前」


「否定できないの腹立つな……」


少し笑いが起きて、それからまた静かになる。


蓮の番になっても、うまい言葉は見つからなかった。


「……南関の続き、やります」


神崎はその短さを責めなかった。


「そうしろ」


「はい」


「あと、ひとつ」


「はい」


「あの感覚を、都合よく待つな」


蓮は息を詰める。


「……はい」


「来たなら受けろ。来ないなら、走力で押せ」


「分かりました」


「ならいい」


それが、神崎からの最後の指導みたいだった。


帰り際、神崎は校門のところで一度だけ振り返った。


大きく手を振るわけでもない。


ただ、視線だけをこちらへ寄越し、それから前へ向き直る。


その背中が、思っていたより速く遠ざかる。


西野がとうとう堪えきれずに顔を覆った。


「……無理です」


遥がその背中をさする。


「うん」


「終わるの、嫌です」


「うん」


「でも、行っちゃうじゃないですか」


遥はすぐに慰める言葉を探さなかった。


少しだけ間を置いてから、小さく言う。


「行くから、ちゃんと先輩なんでしょ」


西野は泣いたまま笑った。


「それ、ずるいです」


「知ってる」


そのやり取りを見て、蓮の胸の奥も痛くなる。


神崎たちはもう、南関で託した悔しさを受け取り返してはくれない。


これからは自分たちが次へ持っていくしかない。


真壁が校門のほうを見たまま言う。


「……行ったな」


瀬川が答える。


「はい」


「変な感じする」


「しますね」


「でも、やるしかないか」


「やるしかないです」


蓮も、遥も、西野も黙ってうなずいた。


卒業は終わりじゃない。


よくそう言う。


でも本当は、終わりであることを知ったうえで、それでも前へ進む日なのだと、蓮はその日ようやく分かった。

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