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マイルリレー【シンクロ】―4人が繋がるとき0.1秒世界が遅れてついてくる―  作者: スドタケ
Season1|シンクロコンプリート編

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第28話 南関東大会

競技場の外に立った瞬間、蓮は県大会のときとは違う種類の静けさを感じた。


人は多い。


声もある。


アップをする選手の足音も、補助員の笛も、スピーカーの案内も絶えない。


なのに、全体は妙に澄んでいた。


県大会までの空気が“押し合っている密度”なら、ここは“選ばれたものだけが均等に張り詰めている密度”だった。


全国高等学校陸上競技対校選手権大会 南関東予選会。


会話ではみんな南関と呼ぶが、貼り出された正式な横断幕にはきっちりとそう書かれている。


関東の南側、各県を抜けてきた選手たち。


その中に自分たちの学校名があるのを見ても、まだ少し現実感が薄い。


真壁が荷物を担ぎ直しながら、短く言った。


「県と違うな」


「違いますね」


瀬川が答える。


「声の大きい学校が強いんじゃなくて、静かな学校まで強い感じがします」


「嫌な言い方するな」


「合ってませんか」


「合ってるのが嫌なんだよ」


西野は競技場の屋根の高さを見上げていた。


遥が隣を歩きながら言う。


「西野、ぼーっとしてると置いてきますよ」


「ぼーっとしてないですって」


「してる」


「即答ですね……」


「見れば分かるし」


西野が困ったように笑い、荷物を持ち直す。


蓮はそのやり取りを見ながら、少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。


県大会からここまで来ても、部の空気そのものはまだ潮見のままだった。


その少し前を、神崎と相沢が歩いていた。


神崎はいつも通り無駄なく、相沢は走らない身軽さを逆に持て余しているように見える。


「神崎先輩、荷物こっち持ちますか」


遥が声をかける。


「いらない」


「ですよね」


「聞く意味あったか」


「一応です」


「そうか」


相沢がその横で、小さく笑う。


「遥は一応で聞く顔してねえよ」


「相沢先輩、それ言うなら先に神崎先輩止めてください」


「止まると思うか?」


「思いません」


「なら正しい」


そこで真壁が、掲示板のエントリー表を指差した。


「朝倉。東陵、やっぱ全員いるな」


蓮は目を向ける。


東陵大附属。


個人四百に黒瀬。


マイルリレーも当然のようにエントリーされている。


「県で一着でしたし」


「南関でもそのまま来るだろうな」


「……来ると思います」


「分かってても腹立つな」


瀬川が静かに口を開いた。


「腹立つのは正常です。意識してるってことなので」


真壁が顔をしかめる。


「お前、そういうとこほんと冷静だな」


瀬川は肩をすくめた。


「真壁が分かりやすいだけです」


少しだけ空気が緩む。


でも、笑いにはならなかった。


みんなもう分かっている。


県を抜けたあとに待っていたのは、勝ち上がった達成感ではなく、もっと濃い“差”の場所だ。


蓮はもう一度、競技場を見た。


ここにいる全員が、同じように県を抜けてきた。


その事実は怖い。


けれど同時に、ようやく自分たちが“速さの本流”に触れた気もした。


神崎が振り返る。


「遊びに来たわけじゃない。招集時間、全員もう一度確認しろ」


「はい」


「朝倉」


「はい」


「最初の一本だけ見ろ。先のことは、走ってから考えろ」


「……はい」


蓮はうなずく。


個人四百。


神崎の四百メートルハードル。


マイル予選。


そして、決勝まで届けば最後の一本。


頭の中で並べると、急に全部が近くなりすぎて息が浅くなる。


けれど、神崎の言う通りだった。


南関も全国も、いまは遠い。


まず一本目。


まず、ここから。


相沢が蓮の横で言う。


「顔、ちょっと硬いな」


「分かりますか」


「分かる」


「隠してるつもりだったんですけど」


「隠せてねえよ。まあ、それでいい」


「いいんですか」


「南関で平気な顔してるやつの方が信用できない」


その言い方が少しだけ可笑しくて、蓮は短く息を吐いた。


緊張は消えない。


でも、消す必要もないのかもしれない。


そう思えたぶんだけ、足が前へ出た。

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