表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/92

第24話 東陵の一年

南関東大会の一週間前。


会場となる競技場で、出場校向けの事前練習開放が行われた。


本番と同じレーン。


同じホームストレート。


同じスタンド。


潮見の面々が会場へ入ると、県大会のときより一段大きい空気がそこにあった。


「広……」


西野が思わず漏らす。


真壁が周囲を見回す。


「県より、さらに“いる”な」


「何がですか」


「強い学校が」


神崎は余計なことを言わず、まずトラックの感触を確かめに歩き出した。


瀬川は風向きを見ている。


蓮は、まだこの場所の大きさに体が追いつかない。


そのとき、少し離れた第三コーナー側で、深い色のジャージが目に入った。


東陵大附属。


揃って流しをしている。


無駄がない。


声を出しているわけではないのに、動きが揃って見える。


その中の一人が、こちらへ視線を向けた。


細身。


一年にしては妙に落ち着いた顔。


蓮と目が合う。


相手はまっすぐ歩いてきた。


「朝倉蓮?」


蓮は少しだけ間を置いて答える。


「……そうだよ」


「やっぱり」


その少年は軽くうなずいた。


「黒瀬。東陵の一年」


やはり、その名前は初めて聞くものではなかった。


中学の県通信や記録会の結果で、何度か見たことがある。


同学年で、比較に出されたこともあった。


東陵大附属。


その黒瀬が今、目の前にいる。


「県の三走、お前だったよな」


「……うん」


「見てた」


黒瀬の声は低くも高くもない。


挑発しているわけではない。


ただ、事実を確認している感じだった。


「速かった」


それだけ言われると、蓮は逆に返しづらい。


「……ありがと」


黒瀬は少しだけ目を細めた。


「でも」


一拍置く。


「もう一回、できる?」


何を聞かれているのかは、すぐに分かった。


県大会決勝、神崎へのあの受け渡し。


音が遅れた、あの一瞬。


「……分からない」


蓮は正直に答えた。


黒瀬は小さくうなずく。


「そうだと思った」


そこへ、東陵の上級生らしい選手が近づいてきた。


「黒瀬」


「はい」


「流し入るぞ」


その先輩は潮見を一瞥し、軽く会釈した。


神崎が無言で返す。


去り際、その先輩がふと足を止めた。


「県で綺麗だったな」


蓮は顔を上げる。


「でも南関は、一回綺麗なだけじゃ残れない」


言い方は冷たくなかった。


むしろ淡々としていた。


だからこそ、余計に刺さった。


東陵の一団がトラックへ戻る。


黒瀬も、その中へ自然に混ざっていく。


真壁が少し遅れて唸るように言った。


「感じ悪くはないけど、腹立つな」


「はい」


瀬川が静かに答える。


「たぶん、向こうは事実しか言っていません」


神崎が短く言う。


「だから効く」


蓮は黒瀬の背中を見ながら、右手を軽く握った。


県で覚えられた。


でも、まだ恐れられてはいない。


奇麗な一本として見られただけだ。


それが、妙に悔しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ