第25話 合わない四人
東陵と会って帰ったあとの練習は、これまでで一番噛み合わなかった。
真壁の一走は突っ込みすぎる。
瀬川の二走は整えすぎる。
蓮は受けた瞬間に肩が上がる。
神崎への最後も、どこか早い。
「違う」
神崎の声が飛ぶ。
「もう一回」
やり直す。
またずれる。
受け渡しそのものは失敗しない。
でも、前の区間が次に残らない。
真壁がバトンを地面へ置いた。
「くそ……」
瀬川が息を整えながら言う。
「全員、やろうとしすぎています」
「何を」
真壁が聞く。
「県で起きたものを、もう一回です」
瀬川の言葉に、誰もすぐには返せなかった。
神崎が短く言う。
「追うな」
蓮が顔を上げる。
「シンクロを狙うな。流れだけ守れ」
その言い方は、はっきりしていた。
「狙った瞬間に、あれはたぶん消える」
真壁が苛立ったように髪をかき上げる。
「じゃあ、どうすりゃいいんすか。南関で通用する形作れって言って、でも狙うなって、むずすぎません?」
神崎は少しだけ間を置いた。
「むずかしいよ」
それをあっさり認めるから、逆に誰も言い返せない。
「だからやる。簡単なら、県で残ってる」
蓮は自分の手を見た。
あのときの感覚は覚えている。
でも、覚えていることと再現できることは違う。
遥が少し離れたベンチから言う。
「見せたいって思った瞬間、ずれるのかもね」
全員の視線がそちらへ向いた。
遥は少し肩をすくめる。
「だって、県のときは誰も“見せよう”としてなかったでしょ。たまたま、切らさないことしか考えてなかった」
瀬川が小さくうなずく。
「それは、あるかもしれません」
相沢がグラウンドの端から歩いてくる。
今日は少しだけ自分でも流しを入れたらしく、額に汗がある。
「ある、じゃないな」
全員がそちらを見る。
「それだよ」
相沢の声は低かった。
「お前ら、今、四人で“あの感じ”を出そうとしてる。でもそれ、順番が逆だ」
相沢は蓮の前で足を止める。
「切らないから、たまに変なとこまで行くんだ。変なとこまで行こうとして、切らないんじゃねえ」
蓮は深く息を吸った。
そうか、と思った。
県のとき、自分たちはあれを起こそうとしていなかった。
ただ、切らないようにしていた。
その結果、たまたま同じ一秒へ入った。
真壁が小さく吐き捨てるように言う。
「むずすぎるだろ」
相沢が笑う。
「だから面白いんだろ」
その言葉で、少しだけ空気が戻った。
まだ合わない。
でも、何が邪魔しているかは見え始めていた。




