第22話 真壁の二百
真壁は、県大会のあとから少しだけ口数が増えた。
機嫌がいいわけではない。
むしろ逆だった。
悔しさがうまく消化できず、黙っていると余計に煮えるから喋っている、そんな感じだった。
放課後、二百メートルのスタート位置から流し終えた真壁が、タオルを肩にかけたまま言う。
「やっぱムカつく」
蓮が隣を歩きながら聞く。
「何がですか」
「全部だよ」
真壁は前を見たままだった。
「県で個人行けなかったのもムカつくし、南関の一覧見たら知らねえ学校が山ほどあるのもムカつくし、そこに東陵が普通にあるのもムカつく」
「……それは分かります」
「で、お前が個人でも行くのもムカつく」
蓮は思わず足を止めた。
真壁はそれを見て、少しだけ笑う。
「勘違いすんなよ。今さらお前が嫌いって話じゃねえ」
「じゃあ、何なんですか」
「置いてかれんのが嫌なんだよ」
真壁の言葉は、いつもまっすぐだった。
「最初は、お前が急に入ってきて、なんでこいつだけって思ってた。でも今は違う。お前が速いのは分かる。分かった上で、こっちが足りてねえのが腹立つ」
蓮は少しだけ答えに困った。
「……すみません」
「だから謝るなって」
真壁が乱暴にタオルを首へ巻き直す。
「謝られると余計ムカつく」
「じゃあ、何て言えばいいんですか」
「何も言わなくていいよ」
真壁はそこでようやく蓮を見る。
「その代わり、南関でちゃんと走れ」
「はい」
「個人でも、マイルでもだ」
その目は怒っているようでいて、怒り切ってはいなかった。
悔しさと焦りと、それでも同じところへ行きたい気持ちが混ざっている。
「一走で押し出すから、お前は三走でちゃんと伸ばせ」
その言い方が、少しだけ嬉しかった。
「……はい」
その横を、西野が用具を抱えて小走りで抜けていく。
その少し後ろから、遥が二人を見て言った。
「なんか、真壁先輩と蓮、ちゃんと先輩後輩っぽくなってきたね」
「どこがだよ」
真壁が即座に返す。
瀬川も後ろから来て、さらっと言った。
「言い方は荒いですけど、前よりずっと分かりやすいと思います」
「お前まで何なんだよ」
「事実です」
真壁が天を仰ぐ。
その横で、蓮は少しだけ笑った。
県を越えても、いきなり強豪校にはなれない。
でも、こういうやり取りが少しずつ噛み合っていくなら、まだ伸びる気がした。




