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過去 八重とあの人


 初めて会ったのは私が中学生の頃、当主の勉強と学生生活でイライラしていた時期だ。

 お爺様が近いうちに友人が訪ねてくると言っていたので気になって会ってみることにしたのがきっかけだった。


「おお、刀一郎よく来た。少し話がしたくてな、それと隣の子は……?」

「儂の孫の(あかり)じゃ。今は山で鍛えておる。灯、このジジイは栄八。儂の友、儂らの味方じゃ」


 お爺様と同じくらいの年の人だ。初めて見た。黒髪黒目で袴を履いている。今どき珍しい格好だ。

 会っただけで分かる。このお爺さんはお爺様と同じくらい強い。足運び、体幹、全てが戦闘前提の動き、常在戦場の極地とも呼べる完成形を身につけていた。

 もしかしたらお爺様よりも……?

 そして腰を見ると刀を身につけていた。ここにくるまで職質とかされなかったのかな?

 隣には若い男の人、高校生かもう少し上くらいの歳。今思えばボーっと呑気な顔をしていたから私はムカついていたんだろう。


「八重よ、屋敷の案内をしてやれ」

「わかりました。ではこちらへ」


 山で鍛えたとか言ってたし体は丈夫でしょ。なによりあんなに強いお爺さんに鍛えられているなら私とも戦えるでしょ。そんな気持ちもあった。


 ◇


「……弱っ」


 道場で早速腕試し……したけど、あっさり勝ててしまった。

 割と強そうだったけど結果は一瞬。彼は私を捉えることすら出来なく、胴体を叩かれておしまい。


「お兄さん大丈夫ですかー?」


 楽しめるかと思って力を入れてしまった。中学生の私でも木刀に力を込めればそこらの木を伐採出来る。まともに当たれば骨折どころか内臓破裂してしまう。少し焦ったけど彼は異常だった。


「ん?ああ大丈夫大丈夫。よいしょ」

「……わ、硬いですね」


 地に伏せていた彼は何事もなかったかのように普通に立ち上がる。道着はバッサリ斬られているのにそこから見える彼の体には傷一つついていなかった。


「あのくらいは怪我にすらならないよ。うちの爺さんはもっと厳しいから」

「そうでしたか。ならもっと強くしても?」

「全然いいよ」


 ◇


「……あのお兄さん」

「なんだい八重ちゃん」


 この人、全然攻撃してこない。確かに身体は超頑丈で全力で叩いても少し痛がる程度。

 でも反撃すらしないのはなに?私が子供だから舐めているの?


「なんで反撃しないんですか?」

「……俺、苦手なんだよね、刀。どうにもしっくりこなくて」


 ……は?え、なに?使えないの?あのお爺さんに教えてもらって?理解できない。


「いや、刀以外はそれなりに使えるんだよ。どうしても刀は駄目なんだ」

「それを先に言ってくださいよ。なんでずっと言わなかったんですか!」

「まあ死なないから別にいいかー、と……」


 聞いた私は呆然とした。その理由に。そんな死なないからというイかれた考え、しかも私の実力を見抜いた上での発言。しかも自分は手を抜いているとナチュラルに発言して。


「で、得意は?なんですか!?」

「え、素手だけど……。まあガントレットとあれば」

「……これ使ってください」


 私の家、白覇家は武術全般を修めている。ゆえに奇特な装備もあるのでガントレットも当然ある。

 奇しくもお爺様と同じ、徒手空拳が得意とは。

 私が彼のお爺さんと同じ刀が得意。

 彼が私のお爺様と同じ拳が得意とは。


「これ動きやすいな。重くもないし」

「そうですか。それはよかったです、ね!」


 一閃、軽めの一撃だった。さっきまでの彼では反応出来ない攻撃。

 でも感触は予想とは違って何の感覚もなかった。刺さるわけでもなく当たるわけでもなく。


「やっぱり拳の方がやりやすい。あとさっきより遅くなってるぞ。疲れた?」

「……いえ、予想以上ですね。白羽取りとは」


 白羽取り。家の者でなかなか使わない技。そもその技は実力が拮抗している相手に使うかもしくは、余裕で見切れる時だけ。


「ここから本気でやります」

「お、いいね。俺も本気でやるよ」


 ……なんかムカつく。ここまでのやり取りが、私の気遣いとかそこらへんがいらなかったと言われている気がして。


「白覇家当主、白覇八重(びゃくらやえ)です。お名前、教えてくれません?」


 腰に木刀を置き、構えを取る。正直なところこの人の耐久力がわからない以上、殺傷力の高すぎる技は使えない。

 ここは痛めつける程度の技で……。


「俺は黒瀬灯(くろせあかり)。緊張しなくても大丈夫。中学生に負けないから全力で来ていいよ!」


 予定変更。全力全開必殺の奥義を使おうそうしよう。そもそもこの人は私との立ち合いを遊びと考えていた。

 うん、もういいや。


「白八闘法『白纏(はくてん)』」

「お?なんか使った?」


 全身に力が漲る。今の強化された私なら木刀で鉄の柱を両断、銃弾すら切れる。肉体の強化をする技。その状態でしか使えない奥義がある。


「白八闘法」

「ん!?マズっ!」

「奥義『神威(カムイ)』!」


 刀を引き抜き全力で斬りつける。体から聞こえてはいけない音が、筋肉が千切れる音がするけど関係ない。私の全力の攻撃、速すぎて私の目ですら追いつかないけど当たった感触はあった。


「ハァ……ハァ……」

「すげぇ技。やばいな八重ちゃんは」


 ありえない。立っているのはまだわかる。私より強いのはもう間違いない。

 でも、なんで、なんで!


無傷なんですか(・・・・・・・)!?」

「気になるところそこ?」


 奥義だよ奥義!未熟で未完成とはいえそれでも白八闘法の奥義!お爺様ですら多少の手傷は負うくらいの威力はあるのに!


「なんというか……ごめん」

「白八闘法『白刀(はくとう)』!」


 既に根元しか残っていない木刀にオーラを纏わせ刀身を形成する。

 斬っても斬っても当たらない。躱され避けられ流される。当たらないのがムカつく!


「なんっで!当たらないんですか!『白脚(びゃっきゃく)』」

「あぶね!脚使うのは反則でしょ」


 不意打ちの脚ですら避けられる!わざわざ『白刀』でブラフを作ったのに!


「もういいかな?そろそろ爺さん達くるし」

「……はい」


 最後に彼が気を緩めた瞬間にも木刀を投げる。その攻撃も予想していたのかガントレットで防がれてしまった。


「これも防ぎますか」

「まあなんとなく?今までの攻撃も全部、勘でわかるんだ」


 は、勘。お爺様とそこも同じなんて。「勘じゃよ、八重。大体全部、勘でなんとかなる」理論とか計算とかではなくその全てを飛ばして一瞬で答えへ辿り着く。私がいくら頑張ってもついぞ覚えられなかったもの。


「ありがとうございました……」

「こっちこそありがとう。楽しかったよ」


 彼は常に余裕ある表情のまま試合は終わった。私、当主なのに、歴史ある白覇家の当主なのに!


「うわぁぁーん!つよいのにー!!」

「え!八重ちゃん!?」

「こんなやせほそに負けるなんてー!!」

「そんな風に思ってたの!?」


 悔しい!悔しい!私毎日頑張っているのに負けるなんて!今まで負けたことなんて無かったのに!


「流石の八重でも負けるか。じじい、儂様より強くしようとしてるな」

「は、あの子もあの歳で随分強い。儂も興味が出てきたぞ」

「お爺様!?」

「爺さん!居たのか!?」


 いつの間にか帰ってきていた。ってどこから見られていたの!?


「初めからだぞ八重。少しやり過ぎだがその泣き顔に免じて少しは許そう。あとで説教な」

「あう、……はい」


 白八闘法の使用、奥義も使って勝てなかった。あまつさえ試合が終わってから刀を投げてしまった。怒られても仕方ない。


(あかり)、どうじゃった?あの子は?」

「めちゃ強かったよ。あと2年もすれば負けると思う」

「ほう。その根拠は?」

「勘だよ勘。わかってるくせに」


 え?耳を疑ってしまった。あんなに歯が立たなかったのに。そんな言葉が出るの?


「いい線いってんな黒瀬の孫。八重は儂様より天才でな。ここらで一度負けさせたかったんだ」

「あー、負けたことなくて増長気味でした?で年齢的に近くて勝てそうな俺を呼んだと?」

「よくわかったな!儂様より勘が鋭いな」


 むぐ。実際そうだったからに何も言えない。でも聞かされるとなんか他人の話にしか聞こえない。


「グスッ……お爺様から見ても私、そう見えました?」

「や、八重。いやーなんというかその……そう見えた。悪いな」

「いえ、私も身に染みました。これからも精進します」


 若い人でも知らないだけで強い人はいる。最近は家の人に勝てていたから慢心していた。

 もう大丈夫。これからはちゃんと出来る。


(あかり)さん。ありがとうございました」

「いやこちらこそありがとね。また戦おう」

「灯帰るぞ〜」

「わかった〜。またね」

 

 ポンっ。そのまま帰ってしまった。


「ポン?」


 少しの熱が頭に残っている。頭を撫でられたらしい。


「八重?どうした?」

「いえ、なんでも。……先に部屋に戻ります」


 撫でられた。男の人に。家族以外で初めて触られた。私より強い人。撫でられたところを触る。

 あの手、硬くて熱くてゴツゴツしていた。


「は?は?熱い?」


 顔が暑い。今までこんなこと無かったのに。


「わた、私おかしくなった?」


 胸がドクドク動いて変。心臓が飛び出そう。あの顔を思い出すとさらに激しくなる。


「……違う。そんな女じゃないでしょ白覇八重!」


 あっさりとそんな簡単に好きになるわけない!


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