6話 ゴブリンとラーメン
「purrrr」
電話?誰だ?とりあえず出るか。
「はい、もしも「おはようございます先輩!!」うおっ!?」
デカい声で耳がキーンとする。俺に対してこんなに元気よく話しかけてくるやつなんて1人しか知らん。
「お?なんだ八重か。なんかようか?」
白覇八重
俺がきてから一年後に入島してきた知り合い。
白覇家の現当主。政治家などお偉いさんの護衛を任されている家だ。名家で長年蓄積された戦闘技術を連綿と受け継いでいる。
歴代当主の中でも八重は上から数えて2番目と称される才能の持ち主だ。え?1番目?やっぱり八重の祖父の栄八さんだろうな。
栄八さんは圧倒的な戦闘能力、白覇家の武術『白八闘法』を開発した達人。
栄八さんの代わりに八重が国に依頼されてこの島、海上神秘都市アトランティスへ調査に来た。
そして試しにダンジョンへ潜ったらハマってしまい現在もここにいる。当主様がそれでいいのか聞いたら強くなれるなら是非居てくれと言われたらしい。家の人たちでも仕事は回せるらしい。
今は上級探索者でもうすぐ特級になるとのこと。実力的には十分だし国級探索者になるのも時間の問題だろう。
『あのですね!私、いま中央街にいるんですけども!一緒にご飯たべませんか!』
時計を見る。もう昼時になっていたのか。認識すると急に腹が減ってくる。この現象は何なのだろうか?
「俺も中央街にいるから一緒に食べに行くか」
『はい!今すぐそちらに向かいます!』
ほどなくして黒髪美少女が土煙を上げながらこちらに高速で向かってくる。あいつ俺がここにいる事を知っていたのか?
黒の袴スカートに半着物の和装と白のシャツ、髪はボブでとてもよく似合っている。たまたま会うにしては気合い入っているな。なにか用事があったついでなのか?
「先輩おはようございます!早速お昼はどこ行きますか?」
「おはよう。最近できたラーメン屋に行くぞ。楽しみだ」
ラーメン大好き、超大好き、愛してると言っても過言。太ちぢれ麺、煮干し中華が1番。異論は認める!細麺鶏白湯も美味いからな。いや豚骨も捨てがたい……。
「先輩ほんとに好きなんですね、ラーメン。もうこれで一緒に行くの8回目ですよ」
「もうそんな一緒に行ったか。というか今まで行った回数を覚えてるのか?」
「それはもちろん覚えていますよ!行ったお店の場所、味、食べている先輩の幸せそうな顔。ぜーんぶ覚えてます!ふへへ」
「へーそうなのかー」
記憶力がいいんだなー。後半何か聞いていけない気がするなー。気にしたら負けだ。
「それよりも先輩は最近どうなんですか?なんか巨大魔猪に追いかけられたとか聞きましたよ?」
「近くにエンキがいたおかげで何とか生きてるよ。1人だったら死んでたな」
「私がその場にいたらその魔猪と遊べたのに。エンキさんも運がいいですよね。私なんかまだ一回も特殊個体に出会えていないのにー」
強者の余裕発言すぎる。まあこの子の気持ちもわからんでもない。
実際に実力はあるから上級探索者になったんだし。国級ももちろん狙っているだろう。
国級探索者。昇格の条件は特殊個体の討伐。チームでやるのが一般的だが彼女ならおそらくソロでも出来る。しかし滅多に出現しないから運要素が大きく絡む。その点エンキは国級に上がってからも特殊個体に数回出会っている。
「まあそのうち会えるだろ。気楽にダンジョンを楽しんでみろ。なにも戦うだけが探索じゃないだろう?」
「……そうですね。息抜きに植物採取でもしてみます。でもやっぱり死合いたいです!!!」
そうだこの娘、戦闘狂だったんだ。血気盛んすぎて白覇家でも手に余る逸材。まともに相手できるのが同じ上級探索者にはほとんどいないから特級と戦う始末。奇物なしなら特級に勝ててしまうほど。
でも八重は探索者になってまだ1年目なんだよな。それで3年目の俺より強いとか。八重が天才なのか。俺が弱いのか。
「俺、もしかしてよわいのか?」
「あはは、先輩は弱いですよ。私が保証します!」
美少女に笑顔で言われてもうれしくねぇ。いや強くなるために来たわけじゃないから別にいいけどさ。
昔から知ってる子に実力で負けるのはちょっとだけ、ほんの少しだけ悔しい。……というか周りの知り合いが全員強すぎるだけだ。そうに違いない。
「でも先輩、誰と比べて弱いと思うんです?今でも充分頑張っているじゃないですか。少なくとも一般職から探索者になって3年継続はあまり聞いたことないですよ?」
大抵1年で新人の半数以上は死ぬこの業界。それもファンタジーに夢見て来るやつほどあっさりダンジョンの養分と化す。生き残るのは元々軍人やってた人や八重みたく武術、サバイバル技術を学んでいた人たちだ。
「俺も自分以外は聞いたことないな。でもどこかしらにはいるだろ。あと強さを比べる対象?そりゃお前、レフィに決まってんだろ。一応相棒だぞ俺」
何を当たり前のことを。一緒に活動する奴と比べなくてどうするんだ?なんの偶然かわからんが選ばれた以上はせめて並び立てるくらいには強くならんと。
おんぶに抱っこで探索する?
無しだな無し。プライドが許せない。
大人として、男として、俺は自立した生活がしたい。
「えへへ、そこですよ」
「ん?なにが?」
「普通の人は英雄に並び立つとか考えないですよ?実力差に絶望して探索者を辞める人、そもそも違う生き物と認識している人ばっかりで。改めて考えると先輩はおかしいですね!」
によによしながらもいい笑顔でそんなことを言ってくる。やけに重みがある言葉だ。何かあったんだろうか?
「いや、おま、それって貶してる?」
「いいえ。むしろ褒めてます!」
にっこり微笑みながら八重さんは毒を吐く。やけに具体的なのは実体験なのか。というか人をおかしい呼ばわりするとはコイツも大概だろうに。
「お前も1年で上級、異常個体の討伐とかやりすぎだろ。白覇家の当主様よ〜」
「う、だって楽しみだったんですよー。自分よりも強い敵なんてお爺様しかいなくて。ここならどれだけ暴れてもいいと思って全力で暴れたらこうなりました、テヘ」
「ちなみに異常個体はどうだったんだっけ?」
「白八闘法のいい練習相手でした。全部の技の確認を試す前に息絶えてしまって……残念です」
怖いってこの娘。戦闘狂というよりは対等な相手がいないからか。
それにしてもお爺様ね。言い方が良いとこのお嬢様みたいだな。名家なだけはある。縁があって少しだけ武術を教えてもらったが才能がなく技も一つくらいしか身に付かんかったな。もう忘れたけど。
「と、ここらへんだ。そろそろラーメン屋に着くぞ」
「はーい。なんか人たくさんいますね。新しい店だからかな」
歩いていくと人だかりができている場所があった。近くに行くといい匂いがする。
「ここですか。やっぱり混んでいますね。回転率はいいはずなので少し待ちますか」
「そうだな。意外とすぐ食べれるだろ」
魚介の香り、いやアゴだしか?前情報無しで来たから何もわからん。それがいい、それでいい。想像するのもまた楽しみだ。
「そういえば先輩が知ってるか分かりませんが」
「ん?なんだ?」
「二週間後くらいに合同で探索するかもしれません」
「そうなのか?初耳だな」
まだ何も知らされていないが……。最近討伐依頼が多いことと関係するのか?一斉に魔物を狩るとか?溢れる前に間引くのも重要だから?
それとも協会が攻略を進めたいから集めるのか。とうとう第三層を突破するのか?ボスレイドか?
「たぶん先輩の考えている三層攻略ではないですよ?三原色大森林の青の森、そこのエリアボスが発見されたそうです。多分討伐依頼が多いのはそれに集中するために他の魔物を排除するためだと。念には念を入れて準備していると情報が」
そこ、心を読まない!
いやーマジか。階層よりも1層を優先する方向に舵を切ったかー。青の森に俺も行くの?緑の森エリアボスもヤバかったのに!?……再生剤あればいけるか?
「なんにしてもまたたくさん死ぬかもな」
「緑の森エリアボス討伐に私まだ居なかったのでわからないんですけどそんなに大変だったんですか?」
「ああ。そもそもフロアボスとエリアボスは全然違うぞ。フロアボスは階層主だけあってめっちゃ強い。二層でも討伐にはそれなりに被害が出たな。エリアボスは各層に複数いるんだが場所によるな。あとなぜか二層のエリアボスより一層のエリアボスの方が強かった」
そう。一層はフロアボスが居らず代わりにエリアボスが強いという特殊な環境だ。その上、三原色大森林は緑、青、赤の順に魔物が飛躍的に強さが跳ね上がる。
緑のエリアボスは蛇の化け物だったな。全長100メートル越えのデカすぎる毒蛇だった。
まあほとんど奇物持ちの探索者達が頑張ったんだけど。切っても焼いても凍らせても気にせず再生するやつで最後はキレた英雄のレフィが所持奇物を同時全発動、再生が間に合わないスピードでダメージを与えて倒した。
当時はそこら辺一帯、草木生えない荒地になったくらいだ。一ヶ月も経てば元通りになったけど。ダンジョンの生命力は逞しい。
個体名「オロチ」アイツの毒のせいで何人死んだことか。
でもそのオロチの再生力を研究することで再生剤が出来た。今の探索者の必需品で短時間であれば千切れた手足もくっつけるほどだ。
これによって探索するリスクは軽減された。
ちなみに現在の最強探索者『英雄』レフィがちょっとした興味本位で赤の森に行った時があった。
入り口のすぐ近くにいた魔物1体を見た際に「あ、これ絶対無理だわ。最低でも位階lVにならないとすぐ死ぬかも」と言う程にヤバイらしく立ち入り禁止になっている。
それを冗談だと思ったどっかの奇物持ち特級探索者が赤の森に入った事件があった。実力的には国級とほぼ変わらない探索者だった。だがそいつが森に入って5分後に絶叫が響いた。その後そいつが帰ってくることはなく次に入った探索者も同じ末路を辿った。
そのおかげ?でまともな探索者は近寄ることもしない。
そんな激ヤバ生物がうじゃうじゃいる手前、青の森エリアボスを討伐?そもそも戦力足りるのか?
「一応確認だが青の森のエリアボスはなんなんだ?」
「なんとゴブリンです!それも四つ腕の!異常個体でも構いません!ファンタジー感出てますよね!」
草原にいるゴブリンは割とマシだ。無闇に襲ってこない。草原は魔物が比較的弱いのと食用植物が多いからわざわざ人を襲わないんだろう。
だが森は弱肉強食。常に断末魔や叫び声が聞こえる。森のゴブリンは知恵をフル活用して襲ってくる。落とし穴、毒弓、投げナイフなどそこらの魔物よりも知能が高く危険だ。殺したと油断すると反撃してくる執念も持っている。
野菜や果物を食うのは弱きもの。強きものは肉を食らう思想らしく草原には行かないとも言われている。そんな悪辣な森ゴブリンのボス個体?
「……嫌な予感がするな」
「楽しい予感しかしないですよ?」
…………はぁ。ゴブリンって群れで生息してるから嫌なんだよなぁ。
シルバーバックが緑の森を管理してるとはいえ助けてはくれないだろうし。せめて報酬金が多いことを祈りたい。
「はいでは次のお客様、中へどうぞー」
「よし、順番か」
結構話し込んだな。嫌なことは忘れて今は飯だ。ラーメンラーメンっと!




