5話 肉配り、雑談
エルとの約束通り朝はサンドイッチだ。新鮮なレタスとチーズ、肉を挟み大口で食べる。
野菜があるおかげで口がリフレッシュされる。だが今日は探索をしないのでほどほどに抑えておこう。
昼は外食するのでそこで腹一杯食べる予定だからだ。
今日は使った探索道具の補充と食材のおすそ分けだな。最近は1人で探索していたからちょうどいいや。他の魔物素材も買っておきたいし市場にも行くか。
「まずは肉を配るか、さっさと渡そ。ここからだとアメリカ街が近いな」
日本街からでてアメリカ街の方に向かう。交通手段は電車。車はまだ上流階級の人間しか乗れない。出来立てほやほやのこの島は端から端まで移動するには電車しかない。
アメリカ街は日本街の隣にあるので歩きで行ってもいいが楽はしたい。
値段もそんなにかからない。……といいたいが燃料の輸送関係ともう一つの理由でまあまあ高い。アトランティス近海の魚が魔物化しており凶暴だからだ。そのうち魔物の脂をエネルギーに換える技術が完成するらしいからそれに期待だな。
電車は普通のとは違い、まず装甲がついている。これは海の魔物魚が島に侵入してくるからだ。仮に攻撃されても耐えられるようにかなり分厚く、魔鉄で何層にも補強している。
そして撃退用装備として各車両に大衝撃銛とシールド発生装置もある。
大衝撃銛は当たると対象が吹っ飛ぶ代物で電車に向かってきた体長6メートルの魔物化カジキをそのまんま海に送り返すほどだ。
シールド発生装置は神秘粒子?とかいうのを使ってバリアを出す。何物をも通さない無敵の防御装置というほどだ。有事の際は家にいるよりも電車に乗っていた方がいいと言われている。
電車内は快適で時速500kmで運行している。ほぼ探索者しか乗らないためもっとスピードを出してもらっていい。位階が1でも上がれば身体能力が飛躍的に上昇するおかげだ。
観光客が数年後には来るだろうし多分このままだろう。
アメリカ街は体がムキムキの人が多くいつ見ても強そうだ。体を鍛えるのも大事だからまあわかるけど。最近船で新しく島に来た人たちだろう。舐めている人もいるのか俺を見てニヤニヤしている奴もいる。
「おいお前。なにしにここに来たんだぁ?ああ?」
「仲間に荷物を届けに来ただけだ。それじゃこれで」
「通すわけねぇだろが。それ寄越せよ!」
やっぱりニヤニヤ男が絡んできた。おそらくこの島に入りたてだろう。
明らかに自分最近来ました!みたいな格好だ。ピカピカの探索服に両手剣を肩に装備している。
「はぁ、お前新人だろ。なにをしに来たんだ?来て1番最初にすることが弱そうなやつにカツアゲ?終わってんだ!」
「うるせぇよ黄色猿が!!英雄になる俺様に殺されるんだ。光栄に思え!」
「なに言ってんだお前。は、英雄になるって?」
面白くもない冗談。軽く流して終わらせようと思ったが予定変更だ。その言葉だけは見逃せない。
「おい新人。頑張って位階Iにでもなったか?ずいぶん気が大きいな。こい、教育してやる」
「うるせえ!!!!」
街中で戦闘開始。探索者は血の気が多いから喧嘩してもOK。一般市民がいたら駄目だけど周りにはいないことは確認している。目の前の新人はまったく気にしてないけど。
運良く位階が上がった新人は扱いにくい両手剣を取り出そうと必死に頑張っている。わざわざ背中に装備してダンジョンでどうやって使っているのか疑問が湧く。
「いや待つわけないだろ。ほいっ」
「ぐっ!?卑怯だぞ!」
「頑張って引き抜けー。その間、俺は攻撃するけど」
あーだこーだしている間にかるーいパンチをペシペシ当てていく。片手にはお肉を持っているから会いている片腕でやる。
当たるたびにボクサーの全力ストレートをくらった表情をしているがそれだけ実力差があるから仕方ない。
「はぁはぁ……。くそ!!」
「おおー、耐えるねー。将来有望だ」
「はぁ……舐めやがってぇ!!!!」
なんとか引き抜いた両手剣をブンブン振り回して向かってくる。技術もへったくれもない素人の動きだ。
……調子に乗って適性外の武器を選んだんだろう。もしくは『竜狩り』にでも憧れたのか。目指すならソルジャーだろ。
余裕のある動きで両手剣を見切り、剣が地面に近い位置に来たタイミングで足で踏んづける。
それだけで新人は動きが止まり膝をつく。そんなに信じられないような目をするなって。こんなの誰でも出来るんだから。
「絡む相手を間違えたな。これでもおれは中級だぞ?」
「そんなわけ!おまえみたいなやつが!」
「カツアゲしようとしたお前が言うなよ。じゃ寝てなね」
顔面に綺麗に殴れた。背が高いからなかなか殴れなかったんだ。顔がちょうどいい位置に来てくれて助かったわ。
……よし気絶したな。英雄になるのは結構だが簡単になれるもんじゃない。ましてやこんなことをする暇があるならダンジョンに潜って魔物を殺せよ。
絡んだ相手が強かったからか新人のお仲間も萎縮しているようだ。これ以上絡まれたくないし早足でいこう。
◇
「おーい、シルベスト居るか?肉を持って来たぞー」
「クロセ!話題になってたぞエンキと討伐したって」
まあまあ広い一軒家。出迎えてくれたのは高身長銀髪イケメンことシルベスト。
銀髪の長い髪、白い肌に青い眼。アメリカの特級探索者『狼兵』シルベスト・ウルフポーンさんだ。
「俺が追われてたのを助けてもらったんだ。こう首をチョンパッて」
「彼とあの剣なら確かにできるだろうな。流石国級だ。今度あったらコツでも教えてもらおうか……」
「気軽に教えてくれるかもな。にしても昨日討伐したのにもう伝わってるのか?はやない?」
「うちの情報部は優秀だからな」
協会に何人お仲間がいるんだか。情報が伝わるのが早過ぎる。シルベストは普通に話しているがそれって言わない方が……え?俺はチームメンバーだからそこらへんはいいって?そ、そうなのか。
「そういえばここに来る途中絡まれたぞ。多分島にきたばっかりの新人だ」
「ああー、あいつか。才能はあるんだが問題行動が多くてな。今連絡するよ」
どうやら認知していたようだ。それも悪い方向で。お偉いさんの子供?だからあんな傲慢そうだったのか。
「……俺だ。うちのメンバーにもとうとう被害が出た。そうだ、英雄の相棒に絡んだらしい。もっと常識があるやつを採用してくれ。……よし、もう大丈夫だ」
俺が日本街に帰る頃にはもう島から出ているとのこと。アメリカは英雄崇拝者が軍にいるから一言かければ簡単に動かせる。狂信者ではないよ?たぶん。
「たまーにいるよな。元気なのはいい事だけど」
「そうだよなぁ。本国から来る5割は頭がイカれて困るんだ。矯正するのも大変でな」
いきなり絡んで殺しに来るとか考えられない。ここは異世界じゃないんだぞ。教育はどうなってんだ教育は!
「そういえばクロセ、最近は異常個体が増えてきている。お前が出会った巨大魔猪ほどではないが気をつけろよ」
「了解。海都祭が近いんだ、それまではゆっくり探索するさ」
「ならいいんだが……。どうにも嫌な予感がする」
海都祭。年に一度のお祭り、というか出来立てほやほやだから今年でまだ3回目だ。
各国からお偉いさんが来て大穴を見て行ったり、たくさんの屋台に魔物料理が並ぶ楽しい祭りだ。美味いものも出るしオークションもある。
本格的な探索は海都祭が終わってから行く予定だ。
「もう行くわ。肉は漬けてあるから焼くといいぞ」
「ああ、ありがとう。早速食べるとするか」
◇
「よし、次は道具を買いに行くか。市場は中央街だな」
海都アトランティスの首都『中央街』
おおよそ揃っている場所だ。島で1番発展している場所で探索用装備、医薬品、食料も売っている。高級店が多くあり魔物素材を使った装飾品もたまに見かける。
今は探索者専門店のアーヴァ道具店に向かっている。元々軍事産業に力を入れていた企業で兵器や爆弾やらを取り扱っていたらしいが海都店は探索者用の道具を主に販売している。
シルベストはここにも関係している。使っている武器防具はここで購入しているし、この店の社長の護衛もしているからな。
店は大通りの立地の良いところに建っている。入り口にはガードマンも立っていて警備は厳重だ。売る物が物だからな。危険物や武器があるんだから当然か。
首から探索許可証をかけていれば素通りできる。入るといろんな種類の薬品や毎回見たことない素材なんかが入荷しているのが目に入ってくる。
「えーと再生剤と砥石、携帯食料に調味料っと。ミックススパイスの新作あるじゃん、買っとこ」
探索中に調味料はいくらでも使うからな。何個も買っておいて損はない。
島に来た時からこの店は信頼できる店だ。新しくできる店にも同じようなとこはあるが値段が超高かったり、見た目は問題なくても粗悪品だったりする。
再生剤が全く効果がないなんてこともある。そんな一か八かにかけるよりちゃんとした店に行くのがいいだろう。
ちなみにそういった店は発覚後、速攻で協会に潰されてます。
「あら?あら〜!クロセちゃんじゃない、いらっしゃい!」
「お?フランソワじゃん。いたんだ、久しぶり」
店であれこれ商品を探していると店長のフランソワがいた。忙しくて店にはあまり居ないのに珍しい。店長兼探索者をしている凄腕でシルベストと同じ特級探索者だ。
店員だから商品の知識も豊富でとても頼れる。この人のおすすめは外れがない。
「聞いたわよ。異常個体を倒したって!頑張ったわね!」
「まあほとんどエンキがやったんだけどね」
「あらそうなの?ならあとでエンキちゃんも褒めないとね!」
悪い人ではない。店員からは「お姉さま」と呼ばれているくらいだから良い人なのは間違いない。
単純に位階が高くて威圧感がある。いや俺の気にしすぎなのは分かっているが。
「そういえばエンキちゃんだけどこの間特殊個体をソロで倒したらしいわよ?」
「え!?マジで?やば」
「大マジよ。確かクロセちゃんを助けた探索の時に討伐したらしいわ」
「エンキのやつそんなこと一言も言ってなかったのに……」
「ライバルなんでしょ?あの子も貴方を意識しているから言わないだけで。にしても日本最強と呼ばれるだけはあるわね」
特殊個体
異常個体の進化体もしくはそのまま生まれてくる。身体能力が向上、各個体はそれぞれ能力も有している。
熟練の奇物持ちか、位階が高くないと討伐不可とされているほどに強いらしい。
基本討伐はパーティで行うのが鉄則。国級探索者昇格試験の対象にもなる。
現状特殊個体を倒せる探索者は少ない。アメリカ、日本、中国、ヨーロッパから数人ずつ、あとは特殊個体に巡り会えない実力ある極一部の特級探索者くらいか。
「あいつ2つも奇物持ってるしそのうちやるとは思っていたけどソロでか。強くなりすぎだろ」
「私でも特殊個体を倒すのは大変なのよ。やっぱり若い子って元気ね〜」
「…………フランソワ、国級なれるじゃん」
「いやよ。私は特級でもう限界なの。これ以上は才能が足りないわ。戦いの才能がね。それにこの仕事に専念したいし充分よ」
フランソワがそう言うならそうなのだろう。戦いの才能ねぇ?性格も優しいのが関係してるのかね?
それよりもエンキはもうそこまで強くなったのか。想像できないな、昔はあんなに弱虫だったのに。
「俺もそのうち特級になりたいな。金欲しいし」
「クロセちゃんならなれるわよ。まずは上級になれるよう頑張りましょ!」
背中を叩かれる。めちゃくちゃ痛いが応援の意味だから耐える。なんとか顔には出なかった。
「ふう。必要な物も大体集めたし会計お願い」
「わかったわ。でももう少しおしゃべりしていかない?話し足りないわ〜」
「あんまりアンタと話すと他の店員が怖いんだよ。またマッチョ達に囲まれるのは勘弁だからな」
「あの子達ったら嫉妬しちゃって!それならまた次、お話しましょう。また来てちょうだい!」
会計を済ませて店を出る。後ろから「可愛がってあげるわん!!!」聞こえない。俺は何も聞いていない。
「お姉さま!!」「私も私も!」
……ふー。抱きしめる音が聞こえるが気のせいだろう。今日は天気がいいな。あとはゆっくり家に帰ろう。
あの店はマッチョ店員のキャラメリゼ胡桃とギャラドンナ明美、そして店長こと『情熱の乙漢』フランソワがいるマッチョなお店だ。
……やっぱり名前の癖つよいな。




