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13話ゴブリン


 ソレは生まれた時から他とは違った。

 他よりも力が強く、他よりも腕が多く太かった。

 他の個体よりも背が高く筋肉も増していた。

 

 成長するにつれ、より強大になっていき周りの若いゴブリンはソレに従うようになる。

 

 当然だ。より強いものに従う。

 

 今の族長は痩せ細り弱く見える。今まで1人も餓死者を出さず安全な場所を築いたのは確かに凄いが若いゴブリンにとってそれは普通のこと。


 かっこよくて強くてすごい方についていく。

 

 そんな知能しかないゴブリンは人間の間で「アシュラ」と呼ばれる存在について行く事に決めた。

 

 新たなボスは草原に勢力を拡大する事に決めた。特に自分たちによく似ている鬱陶しい猿のような生き物は邪魔だ。

 

 草原や森のあちこちにいるくせに巣を持たない猿。弱いくせに逃げ足だけはある雑魚。


 だがやり方を見つければいとも簡単に狩れた。

 猿を拉致し悲鳴を聞かせ仲間の猿を誘き寄せる。

 体の一部を地面に捨てその下に罠をはる。

 罠にかかったところを上からよく狙い刺す。

 

 肉は美味く、皮は妙に丈夫で着ると快適、おまけに猿が持っている武器は自分たちが使う物よりも扱いやすい。

 餌としても優秀でアシュラは若いゴブリンに積極的に狩るよう命令した。

 そして猿どもが出てくる草原に進軍した。


 配下になったゴブリンはアシュラの異常個体の力によって身体能力が上昇、さらに忠誠を誓いより熱心により執拗に狩り続けた。


 そう、狩り続けてしまった。

 猿の1匹2匹逃してしまっても問題ないと思った。

 夢中になるあまり忘れてしまっていた。

 アシュラが完全に成長する前に気づかれてしまった。

 思う可能性すらなかった。


 自分よりも強い猿がいる可能性を。

 

 聞かされていても(・・・・・・・・)耳から耳に流れていたからだ。


 ◇


「族長。いいのかアイツら?」

「言っても聞かない。どうせすぐ死ぬ」

「ソレもそうか。族長がいいならいい」


 アシュラについて行ったゴブリン以外は前の族長の元でいつも通り生活していた。

 

 古くからいるゴブリンほどわかっていたからだ。かつての栄光を、名誉を、輝いていた故郷。そこから逃げ続け此処に流れ着いた者たちは安住の地に残りつづける。


 族長の判断を信用しているからだ。

 

 子供が赤の森で迷子になっても連れ帰ってくれた。

 青の森の魔物の大群に村が襲われた時も錆びた剣でその全てを討伐してくれた。

 赤の森の魔物が来た時も勇敢に戦ってくれた。

 

 そして天敵が少ないこの森に我らを導いてくれた。


 強さをひけらかさず、この森の主にもなれるのにならない。

 皆不思議がるが族長が何も言わず何もしないならそれでいいのだろう。

 深い考えがあってのこと、そうゴブリンたちは考える。


「………息子。なぜ……」


 族長も子供と離れる事になって悲しいのだろうか。顔は見えないが悲しそうな声が聞こえてくる。

 だが心配しているのかと思ったら思わぬ言葉が出てくる。


「そっち、上に行く方向以外ならどこでもよかった」

 

「この森の奥でも、その手前の森でも下の階層でもよかった」

 

「デモそこ。上だけはダメ。あの御方との約束」


「儂の手でケリをつけなければ」


 手には錆びた剣が1本、身長は1メートルと少し、痩せ細った体、全盛期はとうに過ぎた1匹の小鬼(ゴブリン)は。

 

「少しデル。戻らなかったらここで好きにしてイイ」


 仲間にそう告げアシュラ(息子)の後を追った。


 仲間達は少し考え武器を各々用意する。

 族長の言うことが本当ならば老ゴブリン達も為すべきことを為すために。


「族長言うこと絶対。なら我らも続く」


「ケリつけるならオレらも」


「そうだ。逃げたけどそれでも意地がある」


 老ゴブリン達も緑の森へ向かった。

 

 ◇


「水よ、クッションになれ!!」


 今まで見た中でもプルプルの大きい水塊が俺たちを包んで安全に着地させる。


「ふむ思ったよりも草原にゴブリンがいるようだね。しかも興奮状態だ」

 

「早速グローブを使う機会がありましたね博士」

 

「メリス、シルベストは草原のゴブリンの討伐を。私とクロセはアシュラに向かう。異論は?」


「「了解」」


 俺はあるよ!勢いで来たけど俺もアシュラに行くの?


「まじ?」

 

「とっとと行くわよ。エンキがいるかもしれないんでしょ」


 ふーーー。

 覚悟を決めろ俺。恐怖やらの感情は後回し全て終わった後に感じればいい。

 イメージしろ。歯車を。ガチっとハマって回転するのを。


 技能『暑さに侵された脳』発動


 あー。くるくるきたきた!頭の血管1本1本が熱を持ち高速で動く感覚。戦闘思考だ!


「よし、いくか。エル」

 

〈奥の森に強大な気配を感じる。他にもそれなりの気配が複数、戦闘中だ〉


「レフィ!急いで森行くぞ!戦ってる!」

 

「わかったわ!よい、しょっと!」


 あの、走る用意してたのになんで俺を抱えるんですかね?


「これのほうが速いでしょ!いくわ!」

 

「ちょ、まっ、てぇぇぇぇ!!」


 最強の英雄が全力で走る。それは草原にいたゴブリン程度では反応できないほどで他の探索者をぶっちぎりで追い抜き緑の森に突っ込んでいった。


「ゲフッゲホッ、おま、先に言ってくれ!」

 

「でも急ぐならこれが1番よ?私が担いだほうが速いし」


 そりゃそうだけど……。


「ここからは歩いて向かうわ。警戒して」

 

 森は木が邪魔なので走るのは難しい。それに植物も魔物も多い。どれも毒や拘束など厄介な行動をしてくる。草原とは探索難度が段違い、俺では歩くのすら大変だ。

 エンキなら翡翠根の植物操作で快適に探索できるのに。木々が勝手に避けて道を作っていた。


 技能『暑さに侵された脳』発動


「なあレフィ」

 

「なあにクロセ?」

 

「ここ進むなら木を壊したほうがはやいか?」

 

「んーそうね。でも私の奇物だと時間かかるわよ?」


 俺が言う前にレフィは水を飛ばし、木を切って歩いていく。

 だが苦戦している。木は幹が太く、水分もたっぷり含んでいる。レフィの水の覇者(アクア)では相性が悪い。そもそも水で切断出来るのがおかしい。


 時間がかかりすぎる。

 ……一撃で吹っ飛ばせる武器があれば?


「天才的な俺の脳みそが画期的な方法を見つけた。やるぞレフィ」

 

「…………わかったわ」


 どうしたんだ?そんな可哀想な人を見る顔をして?

 英雄さえ考え付かなかった作戦だ。

 今の俺は最高にテンションが上がっていた。


 


「あは、あはは!たのしいねクロセ!」


 英雄が腕を振るう。木が、魔物が吹っ飛ぶ。

 近づくものも遠いものも全て吹っ飛んでいく。

 バゴォ、ドゴォと豪快な音を響かせて。

 何かを振りながら森を爆走してレフィは笑う。


「あー笑ったー。クロセ?大丈夫?」


「………………!」

 

 俺?俺は傷ひとつないよ。

 ただ痛みに耐えて喋れないだけ。目を閉じ腕を胸の前でクロスして体をピーンと伸ばして固まっている。

 ミイラみたいな感じ。


 爆砕武器「クロキ(本人)の棍棒」

 不壊を使った俺をレフィが武器として使う。

 壊れないからどれだけ力を込めても大丈夫。


 ……不壊の悪いとこは痛覚はちゃんと残っている所だ。斬られても殴られても痛みは残る。

 代わりに相手は超硬金属を切りつけたかのように剣は折れ、拳は砕ける。


 つまり無敵の防御ってこと。


 だから今は足を潰される勢いで握られ、顔面がペシャンコにへこむほどの勢いで叩きつけられても問題はない。

 筆舌に尽くしがたい痛み。常人なら発狂するような拷問と言っても過言な行為。


 だが木は確かにへし折れ視界が開ける。これが最善なら、やる。

 

 黒瀬灯はやる時はやる男なのだ。……あとでボーナス要請しよ。

 

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