12話大穴へ向かう
「それでは皆様行ってらっしゃいませ。私は万が一の有事に備えて協会で待機しております」
執行官第2位様は来ないようだ。違反者を捕まえるのが仕事だしそりゃそうか。
「はぁ……あの子もどこ行ったのか……」
「ん?ラーチェスさん探してる人がいるのか?」
レフィが早く行くわよ!と言っているが少し気になるので待って。
「あなたは確か英雄の付き人……黒瀬灯さんでしたね」
名前を覚えられている。なんかしたっけ?
「もちろん存じておりますとも。探索初日にして病院送りになったにも関わらず何故か無傷。かの英雄から直接勧誘を受けた日本人、そして樹剣の幼なじみ。協会でも話題になりましたよ」
「お、おう。知ってくれてありがとう」
思ったよりも詳しく調べられている。え、目をつけられている感じか?側から聞くと怪しいもんなぁ……
「実はお転婆な子が肝心な時にいなくて困ってましてね。本当は今日の説明も私ではなくその子がやる予定だったのです」
「執行官のあんたよりも適任がいたのか?いったいだれ……」
「クロセ!もう行くからね!」
我慢できずにレフィが歩き出した。すぐ怒るんだから!
カルシウム足りてなくない?
「ああもう!ラーチェスさん、その人も大穴にいたら連れて帰ってきますね!」
「ええ、よろしくお願いします」
急いで追いつかないと!
待ってくれレフィ!俺もついて行く、行くんだよぉー!
◇
「…………私としたことが特徴を言っていませんでしたね。まあいいです。もし彼女が大穴にいればアシュラはどうにでもなりましょう。……彼女が倒されれば英雄でもアシュラは倒せない、その時は大人しく帰りますか」
世界同時多発消失事件「神隠し」事件
1億人もの人が突如消えてどこに行ったかさえ不明の世紀の大事件。
帰還したのはたったの1人の少女。しかも記憶喪失になっていた。
この島が浮上するのと同時に消えた場所に戻っていた。
調査の結果、その子には強大な力が宿っていたため協会はすぐに保護、私を教育係として任命した。
執行官第1位は少女その人だ。
「まあ英雄よりも強いはずですし大丈夫でしょう」
間近で英雄を見て思う。英雄は少女に勝てない。
これは少女の力を知っている私しか見比べられないだろう。勿論誰にも言わないですが。
「さぁ残っている探索者の皆さんも出ていってください。母国に帰るなりマンションに帰るなり好きにしなさい」
残っている人達をさっさと追い出す。ここにいても状況は変わりません。
動けるなら先に行った人達について行ってもいい。
動けないならそれはそれで良いのでしょう。探索者としてできることをしてほしいものです。
それも無理なら探索者はやめた方が良いでしょう。まあ私には関係ないのでどうでもいいですが。
「ふむ、少し小腹が減りましたね」
それよりももうすぐ昼の時間ですし食事の用意しなくては。
中央街に新しくパン屋が出来たのでそこのサンドイッチでも買いましょうかね?
コツコツ、コツ。
「おや?誰か忘れ物でもしましたか?……貴方でしたか」
「ラーチェただいま。お昼ごはん食べてきた」
どうやら大穴には行ってなかったようです。
一安心、一安心。よかった。これで胃痛が少し和らぎますね。
「カナン、また食べ歩きを?」
「おいしそうなお店が増えてたから、つい」
しかも私が行きたかったパン屋に行っていましたか。
いい趣味で感心です。
「これラーチェの分、一緒に食べよ」
「これは……いいセンスですね」
瑞々しいトマトのスライス、胡椒の効いているチーズ、熟成された魔豚のハム、海麦で作られたサンドイッチとホットコーヒーを買っていたとは。
「では我々は先に食べましょうか」
「うん。いただきます」
お昼にしては軽めですがこれで十分でしょう。
サンドイッチはまだ暖かく焼きたてなのか麦のいい香りがしますね。
「ときにカナン」
「もぐもぐ、なに?」
「レフィ様、英雄と戦ったら貴方は勝てますか?」
「……あの青髪?いまならよゆー」
「いまなら?」
「そう。星なら微妙。ギリ勝てる?黒なら無理よりの無理」
ほしをよぶ?星?彼女は水の奇物のはず。
それに黒?多くは語らないところが彼女の悪い癖ですね。
あまり話したがらないようで私もまだまだ。コミュニケーションを取れるよう精進しましょう。
「うまうま、いれとこ『異層蔵』」
ぽいっ、空中に穴が空きそこに食べかけのサンドイッチと焼きたてのパンを入れようとしている。
……はぁ、この子は。
「食べかけの物を蔵に入れないように」
「ふぁい」
もそもそと食べかけのサンドイッチを食べ始める。お腹いっぱいなのに何故食べようとしたのか……はぁ。
人がいないからいいものの切り札を簡単に出すなんて。あと食べながら返事はしないように。
………薬局で胃薬を追加で買わねばなりませんね。




