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116 協力

 楓は再び話題を変えた。

 「……北海道での武器取引。あそこが鍵になる」

 その一言に、最初に反応したのは稲村だった。

 「会長……まさか、あの武器を横取りしに行くつもりで?」

 勢いよく身を乗り出す稲村に対し、柏が腕を組んだまま、ゆっくり首を振った。

 「やめといた方がいいッスよ。おそらく三河会も同じこと考えてる。

 もし俺たちがスコートファミリーを襲えば……途中で三河会がしゃしゃり出てきて、結果――スコートに恨まれるのは俺たち。 で、美味しいところだけ三河会が持っていく、って筋書きです」

 柏の説明が終わったあと、彼はふっと楓へ視線を送った。

 それは――「会長も同じところへ辿り着いているでしょう?」と静かに語るような、探る色を含んだ眼差しだった。

 楓はその視線を受け、わずかに口角を上げた。

 肯定とも、次の一手を予告する合図とも取れる、曖昧で不気味な微笑。

 「……でも会長。それと早乙女晋作と組むって話、どう繋がるんです?」

 問いに対し、楓は一切の迷いもなく口を開いた。

 「――スコートファミリーと手を組む。三河会を待ち伏せする形でな」

 空気が一瞬、鋭く張り詰めた。

 楓は続ける。

 「今夜、宇都宮での襲撃の時……妙な違和感があった。

 薄々感じていたが――

 早乙女晋作は、チェコフが生きて戻ることを望んでいないようだ」

 幹部たちが一斉に楓を見た。

 「でなければ、やつほどの頭で……俺たちが高速経由で戻ると読めなかったはずがない。

 本気でチェコフを救うつもりなら、あの動きはあり得ない」

 楓の声は静かだが、その底に冷たい確信が宿っている。

 「……恐らく早乙女晋作は、日本に残っている"派遣部隊そのもの"の主導権を握りたいんだ」

 ざわり、と空気が揺れた。

 矢崎が慎重な声音で問う。

 「……でも会長。俺たち、やつの会社を派手に吹っ飛ばしましたよね。そんな相手が、簡単に俺たちと組むでしょうか?」

 「むしろ"だからこそ"だ」

 楓はゆっくりと答えた。

 「今回の爆破は、早乙女晋作にとって絶好の口実になった。

 本来、派遣部隊の指揮権を奪うなんて、早乙女晋作には正当な理由も機会もなかったはずだ。

 だが――俺たちがその理由を作り、邪魔な存在まで排除してやった」

 佐藤の目がわずかに細くなる。

 「つまり……チェコフを失ったことで、早乙女晋作は派遣部隊を掌握しやすくなる、ということですか」

 楓は頷く。

 「そうだ。今、チェコフは俺たちの手の中にいる。それだけで、晋作と交渉するための、十分すぎる切り札になる。

 奴の性格からして――この状況を見逃すほど愚かじゃない」

 幹部たちは、楓の読みの鋭さに圧倒されたように、互いに小さく頷き合った。

 目を細める者、腕を組み直す者、わずかに息を呑む者――誰ひとり声を上げなくとも、全員が同じ思いに至っている。

 さすがは会長だ。

 一度顔を合わせただけの相手の底意を、ここまで明瞭に見抜くとは思わなかった。

 張りつめた沈黙の中、楓はゆっくりと椅子にもたれかかる。

 そして、口の端にうっすらと挑むような笑みを浮かべた。

 「……今度こそ、三河会にも少し――痛い目を見てもらうとしようか」

 


 筑波――早乙女組の拠点。

 部下たちへ一通りの指示を終えたあと、早乙女晋作は窓辺に立ち、夜の街を見下ろしていた。

 口元には、不気味な弧を描く微笑が浮かんでいる。

 そのとき、静寂を割るように携帯が震えた。

 晋作は最初、上機嫌で端末へ視線を落としたが――

 表示された番号を見た瞬間、表情がすっと引き締まった。

 「……ほう」

 わずかに眉を動かしながら、電話を取って耳へ当てる。

 「今更、黒楓会の会長さんが、僕に直々に電話とは……ずいぶん度胸がありますね」

 声音は低く、しかしどこか楽しげだ。

 受話器越しに、若い男の静かな声が響いた。

 『くくっ……今日は"お祝い"を言いに来たんだ、早乙女さん』

 「……お祝い?」

 晋作の目が細くなる。

 『ええ。スコートファミリーの派遣部隊を――あんたが掌握したことへの、お祝いだよ』

 その瞬間。

 晋作の瞳に、鋭い光が走った。

 短い沈黙。

 ほんの数秒だが、互いの腹を探るには十分だった。

 「……何を言っているのか、さっぱりですね」

 楓はただ静かに笑い、これ以上その話題を深追いする気はないというように受話器を持ち替えた。

 『……まあ、その件は置いておこう。今は別の用件だ。早乙女さん、あんたと――ひとつ手を組みたいと思ってね』

 「僕に、ですって?」

 晋作は鼻で笑う。

 「こちらに散々ちょっかいを出しておいて、どの口がそんなことを言うんですかね」

 『あんたなら喜んで乗ってくると思ったんだがな。――"あの男"には、生きて戻られると困るんじゃないか?』

 晋作の笑みが、わずかに止まった。

 あの男。もちろんアレクセイ・チェコフのことだ。

 ――こいつ……どこまで把握していやがる。

 「……続けなさい」

 『話が早くて助かるよ。

 スコートファミリーは北海道で武器を受け取り、海路で福島へ運んだあと――最終的に、あんたの手元へ届く予定だ。

 そのルートを俺たちが知っているなら……当然、三河会も知ってる。

 俺たち黒楓会の最終的な敵は三河会だ。だから――ひとつ罠を仕掛けようと思っている。』

 楓が一通りの計画を語り終えると、電話の向こうで晋作が静かに息を吐いた。

 「ほう……興味深い話ですね。

 ――で、それを手伝って"僕"にどんな得があるんです?」

 楓は間髪入れずに答える。

 『簡単だ。あんたが二度と顔を見たくない"あの男"を、俺が確実に消す。

 ただし――断るか、裏で変な真似をしたら、その男を無傷でロシアに帰す。

 もちろん、ここで起きたことを全部添えて、な』

 沈黙。

 その脅しが、早乙女晋作にとってどれほど効いているかは、受話器越しでも分かる。

 「……いいでしょう。話は分かりました。

 ――では、協力させていただきますよ、玄野楓さん」

 『ああ、ご理解感謝するよ』

 通話が切れた。

 しばらく携帯を見つめていた晋作は、細い目をさらに細め、誰に向けるでもなく呟く。

 「……玄野楓。」

 歳こそ若いが、頭の回り方は常識の範疇じゃない。

 今まで数度しかやり合っていないというのに、ここまで見透かされるとは――と、晋作は内心で舌を巻く。

 今は手を出せないが……いずれ必ず、この厄介な芽は摘んでおかかいと。

 放置すれば必ず大きな脅威になる。

 そんな未来を確信するように、早乙女晋作の瞳には静かな殺意が滲んでいた。



 三日後。

 郡山市の爆破事件はいまだ報道の中心で、テレビでもラジオでも、同じ映像が繰り返し流れていた。

 そんなニュースをバックに流しながら、福島の海港から茨城方面へと二台の大型トラックがゆっくりと走り出す。

 先頭のトラックには白人傭兵たちがずらりと乗り込み、膝に抱えた自動小銃を無言で握っていた。

 後ろを走るトラックの荷台には、黒いシートで覆われた木箱が山積みになっている。

 ――中身は言うまでもなく武器。

 この一団が運ぶのは、スコートファミリーが莫大な資金と労力を注ぎ、ロシアから密輸した武装一式。

 日本に残された派遣部隊を強化するための物資であり、同時に日本の裏社会との取引材料としても極めて重要な商品だった。

 運転席には二人の白人が座り、ロシア語でぼそぼそ会話を交わしていた。

 「……黒楓会とか言ったか。よくもまあ俺たちに手を出したもんだな。これだけの武器を運び込んだんだ、今度こそ奴らは終わりだ」

 「油断するな。チェコフさんも捕まったって話だぞ。相手は想像以上に手強い」

 「郡山市に残った連中は何してやがったんだ? 後で晋作にきっちり聞かなきゃな」

 二人は愚痴りながらも、どこか苛立ちと不安を混ぜた表情を浮かべている。

 トラックは山道へ差しかかる。

 深夜のはずなのに、不意に――

 後方から複数の車両が近づくエンジン音が響いた。

 二人は思わず顔を見合わせた。

 その目には同じものが浮かんでいる――警戒。

 ドライバーが無意識にアクセルを踏み込み、速度を上げた、その瞬間だった。

 ジジ……ッ

 沈黙を破り、無線機から不意にノイズが走った――

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