8.死後及び生前に於ける将来設計 -説明編-
電車待ちとかの間にちょろちょろと更新。残りは編集って形で帰ってから上げます。
ユートとメルが厨房から出来上がった料理を持っていくと、大人しくユートが渡したマニュアルを読んでいる郁也と、すでに若干”出来上がっている”アグナが見えた。
「あ、わざわざすみませんユート様。美味しそう…」
「ありがとぉーユートー ぉおおおつまみだぁー!」
「アグナお前な…酔いが醒めてから涙目で謝りに来るぐらいなら最初から自制しながら飲めよっていつも言ってんのに…まあいいや。じゃあ、郁也くん、マニュアルもある程度読んでくれてるだろうけど、改めて一から説明するな?適当に摘みながら聞いてくれ。」
「はい、分かりました。その前に一つ良いですか?本当に僕は死んでしまったんでしょうか?何か今ひとつ実感がないと言うか…」
若干曇った表情で、郁也はユートに尋ねた。
「あー、わかるよ。数日前の俺もそうだったもん。でも間違いなく君は死んだ。それは間違いない。残念ながら」
やはりこの少年もあまり今まで顔には出さなかったが、自分が死んだという事実にショックを受けていたようだ。
当たり前の話である。現にユートも若干自棄気味になっていた。
だが死んでしまったものは仕方がない、今更覆せるものでもない。
ユートはそのまま続けた。
「って訳で、今から新しい人生について一緒に考えような!俺でも何とかなったし、まあそうくよくよすんなって!結果的に生きてりゃ良いことがある!そう信じて次の人生頑張って行こう!」
「…はい!」
こうして郁也へのユートの 「異世界転生とはなんぞや」講座が始まった。
―――――
この多元世界における異世界転生とは、異なる別の世界に魂を移動させる行為である。
その世界における因果・事象を捻じ曲げ、本来生まれるはずでない生命を「転生者が生まれるように」改変する。
希望者の元の世界が異世界転生の受け入れ場所であれば、実は「同世界への転生」も可能である。
あまりお勧めはしないが。理由は後述する。
そして、転生する人間に異能を授け、送り届ける。これがユートの仕事だ。
送り届けるにあたっての設定事項は大きく分けて三種類存在する。
・生誕時の境遇
・身体的能力
・特性的能力
この三つだ。
まず生誕時の境遇について説明する。
これは文字通り、転生者が生まれる環境を設定することができる。
貴族の子を望めば貴族の子に、王族を望めば王族に
自ら奴隷を望むのならば、奴隷になることもできる。
この境遇は推測であるが、転生者側も適当に考えることが多い。
寧ろ後述するポイント制度のために、わざと低い身分を選ぶ者が大半になってしまうかもしれない。
というのも、境遇は後者二つでどうにでもなる可能性が高いからだ。
だからこそ、「落第者」や「無職」や「失格者」が生まれやすいのだろう。
とユートは予想している。
次は身体的能力。
これに関しては分かりやすく、要するに体がどれだけ強いかを表す。
たとえば10倍の筋力を願えば、1の鍛錬で10の筋力が身につく。
この「身につく」というのがミソで、生まれながらに10倍の力を持って生まれ、鍛錬すると10倍速で成長していくのだ。
なのでこの能力は「資質」や「才能」と言い換える事もできる。
また、この能力は、異世界転生する世界によって若干の変異を得る。
魔法が存在する世界であれば魔力が。
奇跡の存在する世界であれば神通力が。
超能力が存在する世界であれば念動力が。
といった具合で、異世界によって存在する能力が異なる。
これは以前に説明した"精霊"の都合である。
精霊の存在しない事象はその世界には発生しないのだ。
最後は特性的能力。
これは所謂「ユニークスキル」だ
身体的能力ではどうしようもない"経験"や"コツ"を授けることもできるし
その世界では"発生し得ることのない現象"を引き起こすこともできる。
この能力自体、三級神であるユートが融通してしまえば文字通り「何でもできて」しまうため、能力の制限などが生まれた。
といっても、異世界で覇権を握るぐらいはどうということは無いほどの能力を授けることは可能なのだが。
また、前世の記憶を引き継いで異世界に転生する。
これも特性的能力に当たる。
記憶というのは、魂に紐付くものではあるのだが、身体との整合性を取るのは難しいのだ。
結果的に記憶の定着に数年の時間を要したりする場合もある。
その期間中は神達が該当の転生体が死なぬよう、保護をする必要がある。
そういう事情もあり、ユートたちは前世記憶を"異能"として定義し、扱う事とした。
身も蓋もない言い方をしてしまえば「面倒なことをやらせるのだから手間賃をよこせ」という事である。
と、以上の三要素を軸に、異世界への転生をプランニングしていく。
では、どういう異能を授け、どういう境遇で生まれさせるか。という話に移ろう。
これには、郁也が来店した際に見えた"ポイント"を使用する。
このポイントという制度は、要するに「前世でどういう行いをしたか」の指標である。
このポイントが異世界転生を"行うか否か"の判断基準にもなっており、具体的には「ポイントの総数÷年齢」の値が100以上であれば、異世界転生は行われることとなる。
ポイントの増減方法は以下のようになっている。
所謂、"善行"に当たる行為を行った場合、その善行の範囲によって加点。
逆に"悪行"に当たる行為を行った場合は、悪行の範囲によって減点されて行く。
この善行におけるポイントは、実はものすごく些細なことでも上昇する
一日生存するだけで、"人類を存続させた"として、1ポイントの善行となるのだ。
地球で言う「無職引き篭もり」人間が転生してくる確率もこの制度のお陰で十分に存在する。
読者諸君はこう思っただろう。「無職の人間は親に迷惑をかけて生きているから、善行と悪行でプラマイゼロ、寧ろマイナスになるのではないか?」
なんと驚いたことにこの制度には妙な「抜け穴」が存在する。
一見、「親御さんに迷惑をかけている」ことで、無職引き篭もりの人間は「善行ではなく悪行を積んでいる」ように見えてしまう。
しかし、親が子を育てることに一々悪行のカウントを積み上げては神の候補が極端に少なくなるのではないか、という神側の懸念により、「身内には暴力・殺害等の物理的なもので無ければ、迷惑をかけても悪行のポイントが増えない」という仕組みになっているのだ。
そして外に出ない無職引き篭もりの人間は、とても高い確率で365ポイントの年間積み立てを得ることになってしまった。
これについてユートは、この事実を近々上位の神に打診したほうがいいのかもしれないと思っているが、そんなことをする余裕はたぶん暫くの間存在しないだろう。
何よりユート自身が、"棚からぼた餅"のような形でこうして神となってしまっている今、その事に何か文句をいう筋合いが無いと感じているのもあった。
チャンスなんてものは、誰にでも存在していいはずなのである。
結局、それを生かすか生かさないかは彼ら次第なのだから。
そして前世で得たポイントを、境遇・能力・特性に割り振ることで、転生後の転生者が「どういった人間か」をデザインしていくのだ。
因みに、神の選定行為である というのは当然ながら伏せる。
あくまで、「力を持った人間が、どう振舞うのか」を純粋に見るための転生なのだ。
そこまでの情報を開示して、転生した先で「猫をかぶられ」、いざ神になったときに本性が露呈しても遅いのだ。
「―以上が、この異世界転生についての説明だ。
・・・で、郁也君、君はどんな力を持って、次の人生を歩みたい?」
ユートは、郁也にまるで酒場で何を飲むか聞くように、人生最大の選択を迫った。
第1話段階からすでに書溜めがないので、日1更新は無理かもしれません。
そんなことを思って仕事をしていました。




