3.引き続きお勉強
ユートは、ヨークから譲ってもらった“できる!二級神進級試験”というテキストを見ながら、唸っていた。
知の試練
これは、神の知識を測る試練という側面は勿論あるものの、「いかに異能を上手く使えるか」を見るのが主である。
と言っても、実は一部能力は制限というか、使う意味が無かったりする。
体感時間を正確に測られる機構を設けているため、時間停止・減速・加速などの“試験時間の引き延ばし”に使われる能力は、使う意味が全くない。
又、知の試練は筆記・実技に別れており、基本的に現業務に合わせた問題が出題される事となる。
このため、そもそも予習の意味がない。
つまるところ、何も学ぶことががなく、ぶっつけ本番で全て対応しなければならないのだ。
そんなこんなで、漠然とした不安を抱えながら、ユートはアズモ・エルミナ両名との戦闘訓練のみを日課とし、後の試験はもう考えないことにした。
そうするしか無かったとも言う。
そんな生活が続いて、四日目
試験まであと十日となったその日
「ーはっ!」
ユートの声が響き、アズモの眼前に、拳が寸止めされた。
「ー悔しいが、我にはもう手に負えん様になってきたな。ユート、すでに貴様は我よりも数段強い。誇るがいい。」
「そんなことねえよ。異能の量が圧倒的過ぎて無理やり倒せてるだけだ。お前のが絶対強いって。」
「気を使ったのだろうが、貴様が我と同等の量の異能で勝ったのはわかっておる。これ以上言うとこちらが惨めになるであろう。」
「…おう、ありがとうな、アズモ。」
実際のところ、ユートの加減はそれどころでない領域まで行っていた。
実際には、アズモの3分の2の能力で、異能もアズモより四つほど少ない量で戦い、アズモを圧倒するまでにユートは成長してしまっていた。
「よし、ではついに私の出番というわけだな。」
そう言って、エルミナが立ち上がり、ユートの方を見た。
「ああ、早速頼まれてくれるか?」
ユートがそう言って、“構えを取った”。
瞬間、大きな金属音が響いた。
「ほう、あの”構え“は使わないのか?」
ユートが”構えを取った“のには理由があった。
構えを無くし、無動作からの攻撃を行っていたのは、アズモという男の持つ”トレース能力“の対策のため、初見の防ぎづらい攻撃を突き詰めたものと、自分の癖に対する”読み“を封じるためのものであった。
だが、そもそもエルミナのような“地力が違いすぎる相手”には、ただの届くまでが遅い攻撃に成り下がってしまうのがこの構えの欠点である。
だからこそ、攻撃に移りやすい形をとり、構えるというのは普通の争いにとってはとても有効なのだ。
だからこそ、ユートは構えをとり、エルミナと向き合い、初撃を防ぐことに成功した。
「そこまでは正解だ、ユート殿。」
その声が聞こえながら、ユートは剣を引き、エルミナの体を崩そうと試みた。
「だが、一つだけ誤算があったな。仕方のないことだが。」
それでエルミナのバランスは崩れ、その隙に首を狩る
はずだった。
次の瞬間、なぜかユートのバランスが崩され、倒れていたのはユートだった。
そのまま、流れる様な動きで、エルミナの掌打・剣撃がユートを襲った。
倒れる間すらなく、そのまま剣を首元に当てられるユート。
三日ぶりに感じる完全な敗北であった。
「この四日間、私は二人の戦いを見続けてきた。
そうしてユート殿は勿論、アズモの癖も完璧に把握したよ。
構えぬ動かぬあの構えについても、仕掛けについては大体理解した。
だから、先ほどの体崩しを読みきって、それを逆に利用して崩したんだ。
上手くいってよかったよ。」
…記憶した?全て?
異能もなくただ見るだけで?
そんな思考を巡らせながら、ユートは戦慄していた。
正直、ユートはこの四日間の戦いで、両者ともエルミナを超えるほどの力を得ているとすら思っていた。
だがそれは完全な思い上がりであった。
エルミナは、両者の戦いを見るだけで、ユートらと同じように、恐らくはユートらよりも成長していたのだ。
その事実を知ったユートは、唯々エルミナの格の違いに恐怖していた。
「この程度であれば、あの速度で成長したユート殿であれば直ぐにできるようになる。今回のも只の裏をかいた不意打ちのようなものだよ」
何の気なしにそう言ってのけるエルミナ
「出来るかぁ!」
そんなユートの叫びが、酒場の外に響き渡った。




