2.精神も時もくそもない
アズモの“エルミナはまだ早い”発言と、実際に何も出来なかった現状を鑑みて、ユートはアズモと相対し、睨み合っていた。
「エルミナより我が弱いのは癪だが事実だ。だからユート、貴様と我は高め合い、愛するエルミナを守れるぐらいに強くならねばならん。
何より妻に組手で手加減されては、元とはいえ魔王だった我の立つ瀬がないと言うもの。
だから貴様が我を踏み台にするように、我も貴様を踏み台にし、あのエルミナを超えるのが当面の目標だ。」
そう言い放つアズモに、ユートは返す。
「そもそもよ、俺多分お前に勝てねえし、訓練になんのかそれ?俺はまあお前らに鍛えてもらえるのはわかんだけど、俺が参考になる日なんていつくるんだ?」
そんな問いに、アズモがさらに返す
「エルミナにも言われておったがユート、まず貴様は卑屈過ぎる。
確かに、自信というものは、行き過ぎれば驕りという枷を生む側面はある。
しかし、上手く付き合えれば勇気や思い切りと言った戦いに必要な武器にもなるのだ。まずはそこからであるな。
貴様は筋がいい、悔しいが、我はもちろんエルミナよりも、良いものを持っていると感じる。
三日かそこらで腕っ節が同じ勇者を倒した人間だ。十分に誇っていい才能を持っておる。
だからこそ、我等を置いていくような速さで強くなるお前を、我は兎に角この“目”で盗み続ける。
そうしてどんどん互いを加速度的に高めるのだ。
だからまずユート、貴様は自信を持って剣を振れ。卑屈な剣なぞ我に届くと思わぬことだ。」
その言葉を最後に、アズモは構えた。
「自信、ねぇ…まあ、お墨付きなんだったらちったあ自分を信じてみますかね。じゃあ、行くぞ!」
その言葉を皮切りに、ユートとアズモの戦いは始まった。
アズモとユートの戦いは、基本的に“戦闘”と言うよりは“戦争”となる。
互いに自動人形を無数に生成し、ぶつかり合わせながら、自動人形が突破されそうな位置に互いは陣取る。
そうして出来た陣形をいかに自分の意思で臨機応変に変えられるかが、この争いにおける“力の差”となる
そして、人形に関する能力は勿論、あらゆる異能がアズモに比べて豪勢であるユートは当然優勢
かに見えた。
どんな魔法を使っているのか、途中から押しているのは終始アズモで、5分ほど経った後、最終的に地に伏せっているのはユートの方だった。
「やっぱアズモにも勝てねえか。最初はいい線いけると思ったんだけどな。」
「なまじ多く異能を持つと言うのも考えものだな。取捨選択時に生じる思考の遅れは勿論、防がれなかった能力を馬鹿正直にもう一度使おうとしていたであろう。
自分の動きに囚われる余り、相手の事を見られていない証拠だ。
我の異能を忘れているわけではなかろう?」
ユートのような“多芸”な相手に対し、アズモは、持ち前の戦闘経験で初見さえ防げば、後はトレース能力でなんとでもなってしまうと言う強みがあった。
決して押し付けて勝てる様な能力ではないが、受けに回れば“自分の出来る事”でその能力への対処を考えるのは容易い。
そして、出来うる限りそれを真似ることさえ出来てしまう。
故に、いかに初見で相手をつぶし切るかを考えながら異能を選択していたユートであったが、それを悉く防がれ、その上で少しずつ削られていった。
原因としては、やはり経験の差があった。同じ能力ひとつとっても、年単位でその能力に付き合っていたアズモとユートの間には、能力に対する"慣れ"が段違いであった。
その上で前世で最強といわれた魔王の経験で、ユートとアズモの差は、本人たちが思っている数倍・数十倍に及ぶものであった。
その状態で5分持ったのは、ひとえにユートのセンスがやはりズバ抜けていることが挙げられた。
思考のための"ラグ"のようなものが、ユートは初めてにしては妙に少なく、アズモも最初は防戦しかできていなかったのだ。
その状態から、トレース能力を応用した「癖の読み」のようなもので、アズモは次第に能力を防ぎながら攻勢に応じることができるようになっていた。
「ユート、やはり貴様のセンスは飛びぬけているが、戦いに対する経験・応用力が圧倒的に足りん。
この"眼"の使い方を教えてやる。」
そういって、そのカラクリを説明したアズモ
「んだよそれ!そんなんできるのかよ!」
それを聞いたユートは、さっそくその方法を実践して、再戦することを申し出た。
そこからのユートは、とにかく"見ること"に注力した
アズモの動きの癖はもちろん、アズモが自分の動きを追っている"瞳に写る自分"も追加でトレースすることにしたのだ。
これで、自分が"なにを行ったのか・すでに行ったのか"が直ぐに記憶できるようになった。
そうして、自分の癖を矯正し・捻じ曲げ・修正し・作り 最終的に
ユートの構えは 無くなった。
無動作での攻撃の行使・相手の攻撃動作への完全な反射対応を、ユートは会得したのだ。
これにより、先ずアズモの凝視による攻撃対応をほぼ封じることに成功した。
そして、その上でトレースによりさらに無動作での攻撃をトレースされたが、自分も常時アズモの瞳を見て行動しているため、アズモに対して"二度目の攻撃"を打つこともない。
そうしてユートは無動作での初見攻撃を繰り返し、最終的に倒れていたのはアズモだった。
「…センスがあるとはいったが、これほど我がコケにされるようなことになるとは思わなかったぞ。
教えろ。ユート、貴様は俺のアドバイスから更に何をやった?」
「単純に俺が持ってる能力の量が多すぎるだけなんだけどな。寧ろあんだけ弾かれたりしてる時点でお前が恐ろしいわ。」
そういいながら、ユートは今回使ったカラクリについて、先ほど教えるようにアズモに教えた。
「…そんなことをあの言葉から思いつくとは…やはり貴様、見所がある。」
そう言って彼ら二人は夕餉の時間まで、切磋琢磨を繰り返した。
「…私も戦いたかったな。」
そんな二人を見ながら、エルミナは静かにつぶやいた。
修行アンド修行アンド修行です




