4.インフレーション
ユートとエルミナは、ここから試験が始まる前日までのおよそ10日間、戦い続けた。
1日目は、エルミナの初撃を防ぐのに精一杯であったユート。
2日目は漸くエルミナの連撃を漸く凌げる様になっていった。
この二日間、ユートは一切“攻撃に移る”という考えにすらたどり着かぬ前に地面を舐めている。
「なにが“筋はいい”だ…こんなバケモンにそんなこと言われたら期待しちゃうじゃねえの…」
初めて手合わせした転生前のあの言葉を思い出しながら、ユートは一人呟いていた。
3日目の最後、ついにユートは初撃を振ることに成功する。
当たりもせず、揺さぶりすらかけられずそのまま倒されてしまったが、実力が少しずつ近づいているとユートは感じていた。
もちろん、様々な異能の支援を受けた上での話ではあるが。
4日目、遂にエルミナと斬り結ぶことに成功。
エルミナは「私の15年がこうもあっさり」と嘆いていたが、まだまだ余裕のある様子であった。
肝心のユートの方は、必死すぎてそんなつぶやきすらも聞こえていない様子だった。
5日目から8日目までは、特に進展はなかった。というより、進展があるように見えなかった上、ユートにも“エルミナに近づいている”という自覚も得られない戦いが続いた。
防戦・攻戦という流れは存在するが、その状況が崩れず、唯々押し勝てもしない。結果的に彼女の経験値がそれを上回り、防戦を崩されて負ける。
だが、ユートは気づいていなかった。
この時のエルミナが、だんだんと“肩で息をするようになっていた”ことに。
そして九日目。
ついに二人の均衡はユートに傾く。
手合いの最中、攻めを防ぎきったと思ったエルミナは、いつの間にか切られていた。
思考・感覚の隙を突くというユートの戦法は、実はアズモと戦っている時からなにも変わってはいない。
ただエルミナ相手には、まずそれを行う地力が足りていなかった
構えないという行為が“何もせずに切られる”という只の自殺行為に成り下がる程に。
だからこそ今まで“構えを取った状態での圧倒”を目標とし、それをユートは結実させていった。
そして9日目の最後、ついにユートはエルミナに勝つことができた。
転生前の“偶然の勝利”ではなく、今度こそ“実力での勝利”を掴み取ったユート。
この一件は、大きな自信に繋がった。
そうして10日目にユートが取ったのは、アズモを攻略するためにあったあの行動。
構えないという行為が今のエルミナであれば通用するという考えの元、ユートは構えを解き、真っ直ぐにエルミナを見据えた。
そうして、それは間違っていなかった。
紙一重での反撃
これを構えを行わない状態で繰り出せるほどに、ユートの戦闘センスはこの14日間で研ぎ澄まされていた。
結局、エルミナはこの“直立しているようにしか見えないユート”に一撃を入れることも出来なかった。
「…筋はいいと確かに会ったときに言ったが、まさか十日でこんなバケモノに成長するとは思わなかった。お前が恐ろしいよ、ユート。」
手合わせを終えたあと、エルミナはそんな事を呟いた。
化物を瞬間的に超えた化物が、そこには居た。
そして、戦闘能力だけであれば二級神のヨークすら越えるほどの存在となった事を、ユートは知らないまま、この14日間の特訓に付き合ってくれたエルミナ・アズモ両名に深く礼をした。
「これで、試験の方なんとかなりそうだ!
半月の間ほんとうにありがとう二人共!」
この切磋琢磨の日々が、実際のところかなり刺激的で、楽しかった二人は、そんな礼を聞きながら、またユートと定期的に手合わせさせてくれないかな。なんて事を思っていた。
その日の晩は、転生者全員を招いた試験前の前夜祭のようなものを開くことにした。
アグナ・メルの両名は、「大事な試験でユートさんが疲れて結果を出せなかったらいけません!」と言いながら、自発的に様々な料理を作って持ってきてくれた。
この半月の間に、実は密かに成長したのが、メルとアグナの料理の腕だ。
元々両名共にその腕は水準以上であったのだが、それに更に磨きがかかり、今や古今東西どんな料理でも来い!と言い出しそうなレベルにまで成熟していた。
彼女らも自覚はしていないが、有能すぎる・恵まれた才覚を持った二人であったのだ。
そんな彼女らが前菜の後に持ってきたのは、活け造りであった。
「お前らそんなもんまで覚えたのかよ!ほんとにすげえな!」
ユートがそんな事を言いながら、生魚を食す文化がなく、出たものに難色を示していたエルミナにも刺身を勧めたりして、食事を楽しんでいた。
アズモはそんな事を気にせず「まあ貴様らが出したのなら美味いのだろう」といった態度で平然と刺身を食していた
そこから出てきた料理もすべて絶品であった。
中華が得意であったアグナも間口を広げ、洋食・和食にも手を出したらしく、酒も飲まずに色んな料理を楽しそうに作っていた。
酒以外の趣味を料理に見出したのか、最近のアグナは以前のように馬鹿酔いしなくなっていた。
いい傾向かもしれないとユートは思った。
本当はユートに酔った姿を見られるのが最近恥ずかしくなったから、という乙女な理由だったのだが、ユートはそんな気持ちも知らず、只々同僚の成長を嬉しがっていた。
「じゃあちょっと早いですけど、ユートさんが眠れなくなるとまずいのでここらでお開きにしますね!試験終わった後祝勝会をまた開きましょう!」
そんな事を言って、メルがこの場をお開きにしようとした。
「じゃあ、明日は頑張れ!俺のこと送るよりは気が楽だろ!」
「ユートさん、頑張ってくださいね!吉報をお待ちしてます!
「我が鍛えたのだ、よもや落ちるなどと言ったことはないだろう。」
「そうだ、それは私たち二人が保証する。頑張ってくれ、ユート殿」
皆の期待を一身に背負ったユート
「みんな…よし、じゃあ明日はパパっと受かって無事昇級するから見とけよ!じゃあ、今日はみんな集まってくれてありがとう!祝勝会でまた会おうぜ!」
ユートの言葉と、酔っ払い共のエールと歓声の中、前夜祭は幕を閉じた。
そして、試験当日の朝が訪れた。
ユートくん修行パート終わり!次から試験編です




