1.試験勉強という名の修行パート
酒場の外の広い空間に出た三人。
「ありがとうな、二人共。」
ユートはエルミナ・アズモに改めて礼を言う。
「気にするな。我とユートの仲ではないか。それに、我も平和な世で体が鈍っておったしな。運動がてらに丁度良い。」
「そうだな、ユート殿相手なら、私達も全力を出せる。正直、世界を脅かす者と言われて要る類の者と争った事はあるのだが…この身体だしな…」
そう言って、少し楽しそうに構える二人。
「とりあえず、今回の俺の方針を説明するな。まず仮想敵というか試験官なんだが、多分俺と一緒で、滅茶苦茶な量の異能を持ってる。で、俺も異能を沢山使いこなさなきゃ多分勝てないと思うんだ。だから、先ずはそっちと同じ能力で、異能だけ全開で使うことにするよ。」
そう言って、ユートも構える
「能力も二倍ぐらいにしておいた方が良いのではないか?多分我とエルミナが勝つぞ?」
「良いんだよそれで、俺のが身体が優れてるのに経験で負けるって事は、そもそも試験官なんてやってる奴は全能でそれをやってくる。そいつには天地がひっくり返っても勝てねえって事だ。
だからその事実をまず頭に叩き込んで、その上でどう動くかをこの半月で詰め続ける。
そうすりゃ多分試験管も倒せるかは分かんねえけど、良い試合ぐらいにはできるって俺は思いたい。」
今回の趣旨をユートはアズモに説明した。
「そう言う試みか、分かった。まずどちらと戦う?」
うずうずとしながら、アズモが言った
「じゃあ悪いけどまずエルミナ、手合わせを頼む。」
そこは我と言うところだろう、と言いながらぶすくれるアズモ
そして、手合わせが始まる直前、アズモがこんな事を口走る。
「ああ、そう言えば、多分ユートがエルミナを最初の手合わせに選んだのは、エルミナが我より“弱い”と思っていたからだろう。」
ほぼ偶然とは言え、一度勝った相手を選ぶのは当然だろう。と思っていたユートは、答えずとも表情に肯定の意思が見られた。
すでに睨み合いが始まり、互いに相手を見据えている状態で、さらにアズモが続ける。
「まずそこから正さねばならんな。冷静に考えてみろ。
元々の我の年齢と、我が愛するエルミナの年齢差。
そして、そのエルミナが前世の我と渡り合っていた事実。
そこから戦闘のセンスはどちらにあるかもう一度考えてみよ。
そして、お前は意識していないだろうが“お前が我らを送り出してから、何年経ったと思う?”」
その事実に気づいたユートは、誰も感じられない程の一瞬、刹那とも呼べない時間の動揺があった。
「漸く分かったか。その様子ではもう遅かったようだが、敢えて言わせてもらおう。
情けない話だが、エルミナは我よりも強い。
どうだ?先に我と戦う気になったか?」
すでに勝敗は決していた。そのユートの刹那にも満たない動揺を、エルミナは感じ取り、そして突いた。
「…はい。」
無言で切っ先を首元に突きつけられながら、ユートは答えた。
緊張状態を解き、ふぅ、と息を吐くエルミナが、アズモに少し怒りながらこう言った。
「アズモ、あの揺さぶりは良くないと思う。今回の手合わせで盤外からの支援があったようなものだ。だからもう一回やらせてくれ。」
そう言ったエルミナにアズモがこう返す
「どうせ今のままでは結果はどう足掻こうが変わらん、首元に剣を突きつけるだけの遊びが始まるだけだ。だから最初は我がやる。我を踏み越え強くなったユートと戦う方が断然面白いと思うぞ?」
「それは…そうか。私ももうちょっと体を動かしていたかったが仕方ない。早く強くしてやってくれ。」
夫婦が自分と戦いたいオーラを出しながら、ユートをどう“稽古をつける”かを相談している。
まあ、楽しんでくれているならいいか。とユートは思った。
進級試験編始まりました。
章訳はいつものように




