9.エピローグ
「はぁー…」
ユートは、転生が終わった瞬間、溜まったものを全て出すように息を吐いた。
「いやーさすがに今回は色々緊張したわ。まあ俺には世界どうなるかなんて関係ねえし!それ含めて転生ってこった!」
自分に言い聞かせるかのように独りで呟くユート。
(そうですね、今回の判断は間違っていません。神の候補を、我らは剪定して居るのですから。)
(うぉおう!脅かさないでくださいよヨーク様。そうは思いますが、なんか放逐してるみたいで、モヤっとしますね。)
(気持ちは分かりますが、今回のスタンスは崩さないで下さいね?人となりを無理矢理曲げるような事はあってはなりません。二組目も正直グレーです。)
(分かりました。ではまた)
(嫌な役割を押し付けてすみません。ユートさん。)
ヨークがそう言って、互いの通信が切れた。
「…やっぱ、しんどいな。」
ユートがそう言うのも無理はない。
転生者の意思は、原則的に尊重しなければならない。
しかし、それは裏を返すと“確実に神の選定から外れるような意思でも尊重し、その上助長させなければならない“ということでもあった。
今回の事例は、まさにその“落とすための試験”のようなものだった。
最初の内は、目の前にいる“死んだ目の男”が何だかんだと可哀想とかその程度しか思わなかったが、手続きを終え、人となりを三日ほど見る機会がユートにはある。
その期間の間に、ユートは仁に「この男が生まれさえ違えば神になれたのかもしれない」と、少しずつ思えて来たのだ。
増してや、前二例とは比べものにならない程のポイント。
そして何より彼は嫌々ですら世界を二度も救ったのだ。
そんな男が裏切られ、復讐を誓えば、その世界はきっと完膚なきまでに破壊され尽くすだろう。
世界を壊すという事は、それだけ人も多く死ぬ。
つまりそれを償って余りある善行を積まねば、もう仁は神になることは出来ないのだ。
そんなことが人の身で可能となるとは到底思えない。
それを分かっていてユートは彼を復讐の旅路へ誘った。
この事実が、ユートの心に暗い闇を落としていた。
「…まあくよくよしててもしゃあないや!とりあえず仁はどこにいんだろうな?とりあえず転移前に仁がいた世界の時間を5年ほど先送りにしてみるか。」
無理やり切り換えたユートは、元いた仁の世界の時間を5年進めた。
そうしてしばらくすると、転移ゲートに人影が現れた。
「…おう、お久しぶり。」
目の前にいる男に声をかけるユート。
「ああ、久しぶり。宣言通り、全部片付けてから来たぜ。」
来る前と目に宿る正気が違う仁がそこにいた。
「まあ上がれ。20歳になったろ?カクテルでも作ってやるよ。」
そう言って、酒場に仁を促すユート
「ああ、ご馳走になるよ。あっ、ユート」
仁に声をかけられ、振り返るユート
「んだ?仁」
ユートは仁にそう返す
「ありがとうな。あと、あんな胸糞悪いことに半ば付き合わせちまって済まなかった。」
その言葉に、ユートは仁以上の罪悪感を感じていたのだろう。
「…まああんま気にすんな。もう全部片付けたんだろ?その気持ちもどっかやっちまえ、こっちがむず痒くなっちまう。」
心にもない事をユートは苦しげな顔で言う。
「…あのな、俺ってちょっと人の悪意とか、隠れた意思とかに多分敏感になってるんだよ。でさ、多分ユートは俺の転生に対して、何らかの“罪悪感”みたいなもんを感じてるんだろうと思う。
でもさ、選んだのは俺なんだ。
ユートは“掴みやすいように”選択肢をくれただけなんだよ。
それに乗ったのは、俺なんだ。
だからユート、お前は気にすんな。神さまなんだからもうちょいどっしり構えとけ。
これで俺が地獄行き確定してようが、俺はユートを恨む事は絶対に無えよ。
何より、生きるチャンスが二度ある時点で、俺にとっちゃ儲けもんだしな。」
その言葉を聞いたユートは、少しだけ泣きそうになった。
涙をぐっと堪えて、ユートは言う
「ああ、分かった。ありがとうな仁」
少し涙声になってしまったので、それ以上は語らず、ユートは酒場へと歩いて行った。
「…俺ごときのことでこんな苦しい思いする奴が、悪い奴な訳無えよ…。」
そんな背中を見ながら、仁は一人呟いた。
そして、ユートは酒場に入り、一つのカクテルを作って仁のテーブルに置いた。
「これは?」
「カイピロスカってカクテル。ウォッカとライムと砂糖混ぜて作るんだ。けっこうイケるぞ。」
カイピロスカに込められた言葉は“明日への期待”
せめて仁の明日が、これからは良きものになる様にと、この酒を贈った。
人の心に機敏になっている仁は、そんな気持ちを仄かにユートに感じながら、カイピロスカを味わった。
復讐者編終わりです!
暗めなお話なんかもう二度と書かねえぞ!




