8.実践編 その二
転移者の威光で栄えた国があった。
転移技術を独占し、脅威の討伐を一身に受けもつ“神の国”とまで呼ばれた王国。
そんな国は今、一つの存在のために揺れて居た。
転移者の能力を引き継いだものが“繋がった何か”が、突如空から降ってきて、王城の中庭に血の花を咲かせたのだ。
当然、彼らが生きているはずもないという見解を下され、彼らは今晩のうちに火葬されるという手筈が整った。
もうジンを止められる可能性は万に一つもない。
そもそものフィジカルがこの世界の人間と違いすぎるジンは、寝込みを襲おうが何をしようが、まず“死に様がない”。
その上で、本来“今世の英雄”となるはずだった六人は、死んでしまった。
この状況で、焦らない者など居なかった。
醜く肥え太った王は、苛立ちを隠せぬ様子で、大臣や給仕に当たり散らしていた。
「何故彼奴は死んでおらんかったのだ!大臣!あの首飾りに不備があったのではあるまいな!」
「そんなことはあり得ない筈です。あの“力写しの首飾り”は、異人を確実に殺める様、異人の力によって発動されるもの、その様な不備は起こり得ない代物なのです。」
「ではこの現状はなんだ!もうよい!衛兵よ!この者を引っ立てい!」
「そんな!お待ちください!私に責任だと仰るつもりですか!」
「当たり前のことを言うな!貴様はこの我に謀反を企てた反逆者である!精々最期の日を楽しみにしておけ!」
「くっ…何をする!離せ!やめろ!うわあああああ!」
大臣が衛兵に連れられる様を眺め、扉が閉じた段階で、王の“後ろから”声が響く
「気が済みましたか?弱き王よ」
「何者だ貴様!衛兵!」
「衛兵ってここに転がってる屑肉のことですか?」
王が見渡すと、先ほどまで“衛兵だった何か“の肉片が、そこら中に転がっていた。
「貴様、何者だ!」
「惚けちゃって、わかってるくせにぃ
貴方の苛々の原因が此処までわざわざ出向いたのに、そんなありきたりな反応されたら萎れちゃうじゃないですか。」
「貴様、ジンか!貴様が今回の騒動を起こしたのは知っておる!こうなった以上、この国を挙げて貴様を殺すぞ!覚悟しておけ!」
「へぇ、よーく喋る生首ですね。」
「!!」
「反応も楽しくなかったから、最低限の臓器と一緒に首から引きずり出しちゃいました。
よかったじゃないですか、今の王様、スリムであの銅像みたいにかっこいいですよ?」
「あああああああ!!?何だ!なんだこれは!なぜ、なぜこんな状態で儂は生きておる!おのれ!」
「僕が頑張って優しくバラしたからですよ。感謝してください?」
「この!野蛮で残忍な異人め!許さん!地獄に叩き落としてやる!」
「やれるものならどうぞ。じゃあお仲間の“葬儀”見にいきましょうか。」
そう言いながら、仁は王城の中庭に歩を進め、生首を出した状態の臓器入りズタ袋を、六人が焼かれている火の中に投げ込んだ。
「さて、そろそろかな。」
そう言うと、炎の中から、聞こえるはずのない呻き声が聞こえ始めた。
「あづい!らふげてぇ!あづいよぉ!この火をどめでぐれえ!」
そんな声が、死んだはずの六人から聞こえた。
ジンが彼らを王城に突き落とすまえ
ジンは彼らから“没収した”声帯と舌を乱雑に口に突っ込んでいた。
そして、その結合が終わったことで、彼らはいまこうして「熱い熱い」と鳴き始めた。
心から笑うジンは、それを見ながら、もう誰も残っていない王城をあとにした。
こうして、一段階目の復讐を終えたジンは、10年ほどかけてさまざまな国の色々な方々に「お礼参り」をするため旅をした
様々な人間をとにかく壊し尽くした。
どこまでやれば人間が壊れるかを知り尽くした。
常に笑顔で、常に一人で。
こうして、この世界を蹂躙した結果、文明は衰退の一途を辿り、人類は畜生のように過ごすようになっていた。
世界の全てが終わったあと、ジンはさらに時渡りを使い、過去に飛んだ。
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王城地下、転移者の間と呼ばれる場所に、ジンは立っていた。
この世界において、一つしか存在せず、製法すら失われた伝説の神器 と呼ばれている。
そこに一つのアンテナのような装置と、魔法陣が置いてある。
その機械に集る人間たちを飛び越え、装置を起動させている術者に、逆行:術式の効果を発動させる仁
「貴様!何をする!何者…だ…」
そう言いながら倒れた術者を皮切りに、転生者を迎えようとしていた王や、王妃、信託を与えると言いながら首飾りを渡した似非神父
彼らが全員床に倒れこんだ。
「もしかして、と思ったけどほんとにここまで下衆な機械だったとは。恐れ入りますね、この世界の人間は。」
転移ゲートなどという莫大なエネルギーを必要とするはずのものを、人だけで発動出来るものではないのに、なぜ自分が転移したのか。
そんな仁の疑問に“伏している彼ら”は、身を以て答えてくれた。
逆行でこちらの人間が死んだということは、本来ならば彼方の人間を媒介に、世界に穴を開け、管を張るような術なのだろう。
ちなみに今回は上るためのゲートを逆行:術式で無理やり形成したため、死者の数は“落ちた”時よりもきっと多いであろう。
つまりそのまま帰っても、身内は死んでいたのだ。
「過去に戻った」のは、今までの状況から、そういう可能性が危惧されたからである。
「じゃあな、精々滅んでる事を祈るよ。」
そう言いながら、ジンはゲートに消えた。
「…お兄ちゃん?」
ふと目を開けると、家の中だった。
何が起きたか理解した仁は、涙声で妹にこう言った。
「悪い、ちょっと寝てて、タチの悪い夢見てた見たいで、ボーっとしてた。」
「夢で泣きそうになるなんて相当だねお兄ちゃん。まあいいや、今日早いから先に行くね、行ってきます。」
「おう、いってらっしゃい。」
時渡りの影響で、この世界に“間田仁”という人間が二人居る結果が残りそうになったが、魂というのは一つしか存在できないらしく、結局魂と肉体を統合された“間田仁”が、この世界に戻る時の立ち位置として神に生成された。
「さて、俺も準備するかな。」
そう言って、実に20年ぶりに、鞄を持って、制服を着て、仁は登校した。
仁はそんな“何気ないこと”を、堪らなく嬉しく感じられた。
仁が体験した異世界では、転移のための機械が、「引き寄せる」ものから「打ち上げる」ものとなってしまったため、仁は二度と訪れる事は出来ないし、彼らが来ることもないだろう。
あとは彼らの世界が「邪神」か「ジン」かで滅ぶのを待つだけである。
こうして、仁の復讐劇は終わった。
長かったけど終わりました




