5.ユートの考え
仁という男の心は、すでに壊れていた。
自分を陥れ、影で蔑み、望みも叶えてくれず、殺された。
そんな経験をしながら、まともにユートと会話出来ているのが既に奇跡であった。
そして、その男をたかが三日程度で説き伏せ、更生させるなど到底無理であると、ユートは悟った。
そしてユートは吹っ切れたのだ
「やりたいように、やらせればいい。」と。
彼の苦しみをカケラも理解できないユートが、彼を上辺だけの言葉で思い留まらせようとするなど、仁にとってはただの不快害虫にも劣る何かにしか認識されないだろう。
そんな者の言葉を、たかが三日で信じきる訳がない。
それならば、彼に好きな様にやらせようと思ったのだ。
まず前提として、更生させようという考え自体がお門違いなのである。
神を見定めるのは、そのものの本質的な精神を見極める必要がある。
ある意味で「抑圧された」転生では、その人となりも出ないであろう。
壊された心が、彼の言う通り「復讐を達成したのちに元に戻る」なら、その時はちゃんと祝ってやればいい。
後ろめたさを抱える覚悟も、彼が本当に持っているならば、復讐したいかと問われることすら少しの不快感を覚えた筈だ。
だからユートは、仁にやり方を教えた上で問うた。
ユートがこの方法を教えた理由は二つ。
一つは、必死で方法を考えればいずれたどり着く結論なら、隠すだけ無駄だと考えた上で。
二つ目は、簡単に言うと「フェアじゃない」と思ったからだ。
せっかく貰ったチャンスを、半ば私情に近い形で滅すのは、神の態度としてどうだろうと思ったからである。
そんな理由で、ユートは出来ることを提示し、仁はそれに乗った。
仁のそれは、一時の感情と断じられるかもしれないが、殺された相手に「一時の感情」と言うのは酷が過ぎるであろう。
彼の心で暗く燃え続ける怒りと失望は、どんな事があっても彼の心で燃え続ける。
そうして、生きている間その炎が絶える事はないだろう。
なればこそ、彼を「好きにさせるべき」とユートは思ったのだ。
「じゃあこれで神様に能力送るぞ。
楽しい旅になることを祈るよ。」
最後に確認して、ヨークにデータを送る。
「はい、とっても楽しい旅になりますよきっと。」
壊れた笑顔で、仁は言った。
「よーし、お前も肩肘張ってて疲れたろ、今夜はご馳走だから覚悟しとけ。」
「ご馳走なのに覚悟ってなんなんですか、ふふふ」
そこからの三日間は、とにかく楽しく振る舞った。
出来るだけ、次の日の復讐を思い出させない様に。
いつでも帰って来ていい場所だと、ここに楔を打つ様に。
敵だらけの世界に向かう仁に、せめて自分達は味方だと知らしめる様に。
転生者達もそんなユートの意思を慮り、彼とは普通に接した。
そんな皆の暖かい気持ちは、仁に伝わってはいた様で、次第にこの酒場で仁は笑う様になった。
少なくとも、敵ではないと警戒を解いてくれる様になった。
それだけでも十分かな。なんてユートは思いつつ、三日目の朝が訪れた。
多分ボリューム的に7話か8話ぐらいで終わります




