19.そして二人のプロローグ
二人の目覚めは、同時ではなかった。
エルミナは5年
アズモは18年
記憶容量の“重さ”が、それぞれの目覚めの時間にこの差を生まれさせたのだ。
まず先に目覚めたエルミナは、平和となった世界での生活を謳歌した。
天性の才能と、“生まれ持った”能力で
あるときは気ままな吟遊詩人として街を賑わせ
またある時は弱きを助けるヒーローとして、そしてギルドマスターの娘として街、ひいては国を守った。
どんな時勢でも“悪人”というものは当然生まれるもので、600年前から“力こそ正義”と信じられていた魔王率いていた種族の主張は曲がりに曲がり、やがてそれは“邪教”というものになっていた。
魔王を神と崇め、過激な行動を繰り返す集団が現れ、大量の血の先に魔王が降臨する。などという下らない教義を抱えた連中である。
既にその魔王が現界していることに気づいていない彼らは所詮紛い物であることは、その事実を知っている勇者には分かっていた。
しかし、連合国として統一された当時の魔族と人族の間に生まれた”淀み“としての意味を持つには、その効果は十分であった。
そんな邪教を最初エルミナは”制圧する“と考え、峰打ちの極意を使って戦っていたのだが、捕まる度に信者が自爆魔法を唱えて被害が拡大するため、”殉教“する前に速やかに首を刎ねて殺す事にした。
やはり血生臭い運命から逃れられはしないのかと思いながら、またしても戦いの世になりつつある世界を憂い、およそ12年が経過した。
アズモの記憶定着まであと1年。
それまでは、一人でこの世界を火種から守ろう。と、エルミナは誓っていた。
そうして、更に一年が経ったある日
密かに守り続けていた同い年の”とある青年“が、邪教の手によって攫われた。
二人が「約束の場所」として指定した、かの戦いの地に。
エルミナは後悔し、焦っていた。
”彼“の生まれは記憶定着から10年で、聞いていた生まれからなんとなく察していた。
とある商人の間に生まれた、人形作りの得意な少年の話を聞いて、その者の所へ行った所、どう見ても”彼“の見た目をしている少年が居たため、密かにその素性を追い続け、そして見守り続けたのだ。
なまじ有名であったエルミナのその行いは何処かから邪教に漏れていたようで、邪教からの怒りと畏怖を買っていたエルミナは、その少年を“弱み”と捉えられ、それまでの報復へとつながってしまった事で、今回の事件に至ってしまったのだ。
自らのせいで危険に晒された少年を助ける為、今エルミナは彼の地へと向かっていた。
「無事でいてくれよ…。」
そんな祈りをつぶやきながら。
たどり着くと、邪教の教徒達が、その場で一点を睨みつけていた。
何が起きたか理解できないエルミナは、彼らが“目線の先”へと目を向けた。
そうすると、攫われたはずの青年が何故か紐解かれ、邪教徒を一人締め上げていた。
「強者こそが正義である。が貴様らの教義であったな。では我の言葉は、貴様らの言う“正義の“発する言葉であると言う事でよいな?」
懐かしい、ずっと聴きたかった、不遜な態度、声。
「ふざけるな!貴様ごときが魔王様と同列だと言うのか!」
襲いかかる一人のいきり立った邪教徒を一瞬で消し炭のする青年
「すまぬな。手加減して打ったつもりだったのだが。やはり何をしても殺してしまうな。」
そう言って邪教徒を畏怖させた青年は、更に続ける
「これで分かったか?”羽虫共“。我と貴様らの力の差を。我こそが魔王である。地に伏せて許しを請うか、逃げ果せれば許してやるぞ?」
そう言うと、邪教徒たちは蟻を散らしたように逃げ出した。
「全く、起き抜けに飛んだ災難に見舞われるものだ。だがお陰で手間が省けたぞ。…なあ?エルミナよ。」
「ああ…そうだな。私にとっては、永遠に感じられるような13年だったよ。それに、先に見つけたお前を結局守りきれなかった。」
「気にするな。あんなもの、我にとっては都合のいい送迎にしかならんかったぞ。」
「そうか…そうだな。」
そう言った後、堰を切ったように泣きながらアズモに抱きついたエルミナは、起きたばかりのアズモに抱きとめられ、再開の喜びとこれまでの寂しさを一気に吐き出したのだった。
泣き止んだエルミナに、アズモ静かに喋り出した。
「平和な世界となったのは確かなようだが、まだこの世に巣食う火種は多くある。
お前は一人で戦い続けたが、今日からは我も一緒だ。
共に本当の平和を謳歌する為、邁進しようぞ。」
「…ああ!」
そんな事を、二人で誓い合った。
これからの二人の道は、二人にも分からない。
それでもきっと、この世界が再び悲しみに包まれることは彼らがいる限りありえないであろう。
漸く終わりですね
この話長かった気がします




