18.旅立ち
「「おかえりなさーい!」」
そう言って、メルとアグナが酒場に入るなり三人を迎えてきた。
「ただいま!悪いな、俺都合で飯の準備全部任せちまって。」
ユートが言った通り、戻ってくるとそこには既に色々な料理が並んでいた。
ユート達が初めて郁也に振る舞った揚げ物類
アグナの得意料理である中華料理やステーキなど。
そして最近メルが密かに特訓していたイタリア料理などがそれぞれ大皿に盛られていた。
「今日はやけに豪勢だな。」
エルミナがそんなことをユートに言った。
「そりゃ明日がお前ら二人の出発の日だからな。お誕生日パーティの前借りみたいなもんだ。」
「そうか。感謝する、ユート殿。」
「気を使わせてしまうな。感謝するぞユート。」
そして、郁也も入れた五人での宴が始まった。
そうしてエルミナとアズモは、様々な種類の料理が出来立ての状態で並んでいるのに気づく。
「ユート殿の部下二人は随分と優秀なのだな。これほどの料理を同時に作るとは。恐れ入る。」
「あ、それはユートさんのお陰なんです!」
そう言って、メルは“時間冷凍庫”の使い方について語り出した。
時間冷凍庫などと名付けてはいるが、開けるまでの中身は単純に時間を止めているだけなので、常温である。
その為、出来立ての料理を片っ端から時間冷凍庫に突っ込むことで、食べる時に出せば出来立て。という使い方も出来た。
「実はこの日のために少しずつ時間冷凍庫に料理を作ってたんです!」
笑顔でピースサインをするメルはちょっと可愛かった。
「おう、用意周到で助かるわ。お前ら二人に任せてよかったよ。」
ユートはそう言って、態とらしく咳払いをして
「じゃあ、二人の送別会を始めるか!」
「「はい!」」
ユートの号令に、アグナとメルは元気に返事をした。
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様々な料理を味わう5人のうち、エルミナがユートに声を掛けてきた。
「ユート殿、態々この様な催しを開いてくれて感謝する。お陰で今日は気持ちよく眠れそうだ。」
からん、という音と共に、エルミナがウイスキーのはいったグラスをユートの前に突き出してきた。
「?、あ、ああそういうことか」
少し察するのが遅れたユートがグラスを前に差し出して
かちんとグラスを合わせる音が響いた。
アズモもやってきて、酒精の強いテキーラを勝手にカウンターから奪ってこう言ってきた。
「誠に感謝するぞユートよ。美味い料理に美味い酒、これまでの数十年のなかでは一番安らかに飲めるいい酒だ。ほら、盃を出せ。」
なぜか注がれた しかもグラスに。
「魔王からの酌などこれから数百年経っても無いかもしれんぞ?よく味わって飲めよ」
勝手に注がれたテキーラをちびりちびりと飲みながら、ユートは二人に話しかけた。
「ぶっちゃけどうよ、お二人さん。仲良しになれた?」
「当たり前だ。でなければ一生を添い遂げるような事など言わん。」
「そうだな。まだこうして語らっているのは三日目だが、私は彼を友と思っているよ。」
最初にきた時はどうなるかと思われていた二人であったが、こうして親しく酒を酌み交わす姿を見ると、やはり魔王と勇者という柵が彼らの心を閉じ込めていただけなのだろう。
ユートは、この三日間ですっかり明るい表情を見せるようになってきた二人を見ながら言った。
「こうして争っていた相手と和解するってのがどういう気持ちかは正直想像もつかねえが…お前らは次の人生もうまくやっていけそうだな。安心したよ。」
そう言って、注がれたテキーラをまた一口飲むユート
「ところでエルミナが良ければなのだが、我と共に生きるのなら、我の伴侶とならぬか?」
まるで「飯食いにいかねぇ?」と同じようなテンションとトーンで婚約を切り出すアズモの言動に、その場にいる全員が噴き出した。
「はは伴侶かそそそうだな考えておこう。」
赤面するエルミナは恐ろしく焦った様子で答えた。
「では、再び見えるときに答えを貰うとしよう。」
ここでユートが一言
「あ、アズモ耳赤いね。」
「!!!」
そもそも別に赤く染まっていなかった顔が、みるみるうちに赤面となってゆく。
アズモも何だかんだと意を決した告白だったのだろう。
「そして、そんな二人には、これをプレゼントだ。」
そういって、ユートは二人の目の前に別々のカクテルを置いた。
「なかなかに洒落たものを作るではないか。」
「まあ、慣例みたいなもんと思ってくれ。」
アズモにはウイスキーフロートという「楽しい関係」を意味するカクテルを
エルミナにはキールという「最高の巡り合い」を意味するカクテルを送った。
この二人の出会いが最高で、そして楽しいものになっていきますようにという思いを込めてのことである。
そんなユートの気持ちを汲んだ二人は、目配せをすると、ちん と互いのグラスを鳴らした。
「私たちの始まりに」
「我らの始まりに」
そんな言葉を言いながら。
こうして宴の夜は更けていった。
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朝になると、ユートが起きる前に、既にエルミナとアズモがカウンターに座っていた。
「…早起きだな。」
「…何か寝付けなくてな。いつもより早く起きてしまった。」
「そうか。ちょっと待っててくれ、朝飯作りに行くから。」
そう言ってユートが厨房に向かった後、アズモがエルミナに向かってこう言った。
「…昨日のあの件、忘れるなよ。我はお前を生涯の伴侶として迎えるともう決めた。諦めぬからな。」
「…何を言っている。忘れられるわけが無いだろう。戦いに生きただけの生娘に、あの様な事を…そんな事を最初に言われた相手が、まさかお前だとは夢にも思わなかったがな。」
少し頰を赤らめたのを隠す様に、声だけは冷静に、エルミナは返した。
厨房で料理を作りながら聞き耳を立てていたユートは「もうくっついちまえよ」と思っていた。
そして、静かになった頃、ユートが朝食を二人に持って行った時
二人は唇を重ねていた
くっついちまえよって思ってたらもうくっついていたのである。
「…暫しの別れだ。この口付けを、お前との導にするとしよう。」
「…ああ、忘れない、忘れられる、ものか。」
今が初キスなのか実は夜中あんなことやこんな事をしていたのかをユートは知る術もないが、何か気障な事を言っているアズモが、側から見ると笑ってしまいそうだったので、笑ってしまう前に声をかけることにした。
「おう!お熱いですなお二人さん!」
「「!!」」
「朝飯ここに置いとくから冷めないうちに食えよ!じゃあごゆっくり〜」
「違っ、待っ、その、いつから見ていたんだ!?」
耳まで顔を真っ赤にして、大分慌てている様子で、エルミナは言った。
そらもう君らがブチューっとやってる時からですよ。とユートは言いたかったが、あえてはぐらかした。
「何が違うんだよ、めでたいことだろ?来世だと早く会えるといいな。お二人さん。」
そう言って終始赤面している二人に、ユートはこう言った。
「前世から誓い合った仲なんて凄いロマンチックじゃないか。互いに互いを大切にしろよ?」
その言葉を受けた二人は、暫し赤面したまま朝食を食べていた。
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そして、ついに旅立ちの時間となった。
転移ゲートの前に立つ二人を、ユート、アグナ、メルの三人が見送りに来ていた。
「…これでお別れだな。」
エルミナがそう言ったところで、ユートがまだ“あれ”を渡していない事を思い出した。
「…ああ、また忘れる所だった。ほい。」
そう言って、ユート名刺を二人に投げ渡す。
そして、以前と同じように説明をした。
「向こうでハタチになったらまた来いよ。そうなりゃいつでも歓迎するぞ?」
それを聞いた二人は頷いて、「ああ、また来るよ。」と言った。
そして手を繋いだまま、彼ら二人は転移ゲートへと消えていった。
(見送り終わりましたよ、ヨーク様)
(はい、こちらでも異世界への二人の転生を確認しました。今回もお疲れ様でした。)
ユートはヨークへの報告を終え、通信を切った後
「まあ、最初はマジでどうなるかと思ったけど、いい二人だったな。」
「そうですね!らびゅーって感じになって良かったです!」
「別にそういう仕事じゃねえからな?ここは。まあ、良かったのは確かだな。」
「盗み聞きに盗み見の上に茶化しとは感心しませんがね、ユートにはデリカシーというものがありません。」
「しゃーねーじゃんあんなの事故だしー偶然見ちゃっただけだしー」
「もう!そんなだから彼女できないんですよ!」
「出来る前に死んじゃっただけだもん!それに俺神様だからそんな機会ももうないもん!」
「ユートが神をなんと思ってるかわかりませんが、神族いる以上ユートさんも子供は作れます。恋愛も出来ます。」
「…え、マジ?」
「マジです」
「よく考えりゃそうか…まあ相手居ないけどね。」
「相手は居ないんじゃなくて作れないだけです!そんなんだから童貞なんですよ!」
「童貞じゃねえよ!」
そんな事を三人で話しながら、酒場へと戻っていった。




