16.恒例行事、試運転バトル
ユートが諸々の資料をヨークに送り、あとは転生までの期日を待つこととなった二人
そんな二人とユートは、酒場の外にあるだだっ広い空間に向かい合って立っていた。
「よし、じゃあお前ら二人の能力が一体どれほどのもんかを試そう。
戦闘経験豊富な二人だからそんなに心配しちゃいねえが、筋力・魔力は生前の大体一万倍ぐらいになっちゃってるから、それがどんなもんなのかを試す意味合いが強い。
じゃあ俺はそっちが転生する世界の一般人ぐらいの能力に調整するから、俺になんか適当に魔法打ち込むか剣で切り込むかしてくれ。」
ユートの説明に頷いた二人。
まずアズモが、通常の火球に“見える”ものをユートに打ち込んだ。
それがユートに直撃した瞬間 ユートが“いなくなった”。焦げ付いた足先の肉片だけを残して。
それでもなお勢いを失わない火球は、さらに遠く、数キロメートル先まで真っ直ぐと飛び続け、その勢いが落ちた先で、大きな閃光と轟音を起こしながら爆破し、その爆風は、少しではあるが、はるか遠くに立っている二人にも感じられるほどに吹き荒れた。
「…なんだこれは!」
しばらく呆然としていたアズモが気を取り直すと、そう叫んだ。
「火球だよ?只の。それを今のアズモくんが打つと、一般人は消し炭になっちまう。」
「…心配はしておらんかったが、殺してしまった相手が横から話しかけてくるのはなかなか心臓に悪いな。」
身体の再構成を終え、話しかけたユートにアズモはそんなことを言った。
「よーしじゃあ次はエルミナだ。魔法はアズモのやつ見て大体わかったろ。エルミナは俺に斬りかかってみてくれ。」
頷いたエルミナは、ユートを“殺さないように” ”最新の注意を払いながら“ ”剣の腹で“ユートを殴りつけた。
そうすると、ユートの体は”剣の腹の幅“にえぐりとられ、その部分が綺麗に無くなり、内臓が露出していた。
そのままべちゃりという音がして、身体のパーツが斜めに無くなったユートは、そのまま重力に従って崩れ落ちた。
「まあこういうわけで、君らは戦うってなるとどうやってもどうあがいても相手を殺しちまう。」
「ひゃあ!驚かせるな!」
驚愕の表情でユートの遺体を見ていたエルミナに、”自分の死骸を眺めながら“横からユートが声をかけた。
「すまんすまん、で、どうすりゃ人を殺さず済むか、って話なんだが…」
「峰打ちの極意、か?」
「ご明察。じゃあその異能発動しろー!って念じたら、俺にまた魔法と剣で攻撃して見てくれ。」
そうして、二人は念じたのち、今度も同じような力加減で魔法を打ち、剣で攻撃したが、そのどちらの攻撃でもユートは死ななかった。
「いっつつ…あー…いつも攻撃食らったら死んでたから思いっきりぶん殴られる痛さを初めて体感したわ…いてー…」
涙目のユートは、説明を続ける。
「つまり、その異能を発動してる間は誰も殺さなくなる!というか殺せなくなる!よーし、じゃあ次は全力で魔法を打って見てくれ!死なねえはずだから!」
酒場に最大の防護障壁を張り、痛覚を遮断したユートは、そう言って両手を広げた
それに呼応するようにアズモは強く力を溜め、そしてユートに向かって一気にその力の奔流を解き放った。
ユートが生成した地面はえぐれ、そして魔力の渦の形となっていく。
それでも止まることない流れに、今度火の嵐が巻き起こる。
あの奔流は、魔力をただその場に送っていただけの渦であり、この炎こそが、彼の放った”魔法“であった。
ガラス化していく地面に、一帯を完全に覆い尽くす魔炎の嵐
そうしてその嵐の最中にいたユートは、魔力発動がおわり、炎が消え去った最中に立っていた。
「俺は痛覚遮断してたからよかったが、これふつうの奴にやったら本当に地獄みてえな技だから俺以外に絶対やんなよ。」
「当たり前だ!というかこれでも死なぬのだな。」
「まあそう言う異能だからな、死ぬほどの魔力を込めても因果が曲がって最終的に”死んでない“ことになるのがこの峰打ちの極意なんだ。
名前がショボそうだから勘違いされがちだけど、これ立派な因果干渉系の能力なんだぜ?」
そう言いながら、服の煤を払うユート
どう戦っても死んでしまうという予測は、粗方付いていたユートが、パラメータを見た瞬間提案した異能がこの”峰打ちの極意“であった。
「そんなの手加減でどうにかなるのではないか?」と二人は不思議そうに言っていたが、この事実を見て、二人は”入れなければならなかった異能“であることを実感した。
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そこからユートは何時もの如く手合わせを行なったが、彼らは前の世界での紛れも無い”強者“であるため、同能力での争いは無謀かに見えた。
しかし、異能慣れしているのはユートの方で、貰い物の魔法・剣術をうまく使い、勇者とほぼ互角に切り結んでいた。
そこに慣れるまで押され気味のエルミナは、一度膝をついたものの、そこからは持ち前の経験と、「異能と言っても差し支えないほどの天性の勘」で、みるみるうちに異能慣れしていき、最終的にはユートに勝利した。
「神さま負けちまったよー。めっちゃ悔しい!エルミナ強過ぎだわほんとに。最後の方何も出来る気がしなかったわ。」
本心から、ユートはエルミナに伝える。
「ユート殿こそ、争いごとに慣れていない身で、上手く身体を使いこなしていたぞ。こちらが勉強になることもあった。
実際、異能の使い方はユート殿の真似をしている部分が大きいしな。
あとは戦場経験の違いだけだ。これでも戦いのみの生活を数年単位でやって来たからな、この条件でユート殿に負けるようではこちらこそ面子が立たん。」
「世辞をどうもありがとうよ。今度は負けねえ。というかまず最初に手加減させねえってことからスタートだなこりゃ…」
「…バレていたか。」
「ああ、俺を鍛えるような、教えるような剣筋に途中から変わったのが解ったからな。
異能に慣れてからはもう遊ばれてるようなもんだと思ってたよ。」
「すまない、ユート殿を侮辱する気は無かったのだが、中々に筋がいいと思い、試すような真似をしていたずらに戦いを長引かせてしまった。」
「いーよいーよ、そう言う感じだってこともなんとなーくわかってたしな。お陰で俺も少しマシに戦えるようになった気がするし。ありがとなエルミナ。」
もし酒場にまた訪れてくれるなら、稽古でも頼もうかなと思っているユートなのであった。
「…では次は我の番だな。」
そう言って、見学していたアズモが立ち上がる。
「お前が持ってる異能を全部使って戦うのはエルミナと一緒だ。じゃ、行くぜ。」
そう言いながらユートは、魔法自動人形を一気に数百体生成した。
トレース能力を持ったアズモも、その手順を瞬時に読み取り、自動人形を生成する。
「その能力マジで便利だよな。お陰でさっきと違って瞬殺されちまいそうだ。」
そう言いながら、人形と共に戦いに出るユートとアズモ
一つの戦場が出来上がった。
数百体の人形から数百の剣戟が放たれ、数百の魔法が飛び交う。
そんな嵐の中、最後に立っているのはやはりアズモだった。
「やっぱりお前らくそつええわ…絶対勝てねえ…」
当然といった感じで、ユートにアズモはこう言った。
「20かそこらの餓鬼に、同じ力で我が負けるわけがなかろう。
といっても、エルミナが言っておった通り、ユート、貴様は中々に見所があるぞ。
実際、肝が冷えた部分はいくつかあったしな」
「ありがとうよ…」
疲弊した様子でユートがアズモに答えた。
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「あー疲れたーご飯食べたいお風呂入りたい早く寝たいー」
気の抜けた声でユートが叫びながら、酒場の扉を開ける。
「そういうとおもって、また二人で料理作っておきましたよ!」
「今回も私主導で中華料理を何品かご用意させていただきました。お召し上がり下さい。」
そう言いながら、結構な量の皿を持ってくるアグナとメルの二人
「っと、また料理任せちまって悪いな二人とも、俺も運ぶよ。」
そう言って、ユートは厨房へと向かった。
皿を並べ終わり、立ち並ぶ中華フルコース
小籠包、焼売、餃子、炒飯、酢豚、その他諸々…
各々の料理を、五人はゆっくり味わった。
次と次の次で終わりにしたい!




