私の勝ちっす
「今日も暑いっすね」
美心がTシャツに短パン姿で、ソファにだらりと身体を預けている。
その隣では、咲希も同じような格好をしている。
ただ、こちらは姿勢が良いせいか、同じ服装でも妙に品があった。
「美心ちゃん、そんな格好してたら愛しの彼氏に振られちゃうよ」
春香がからかうように声をかける。
「大丈夫っす。彼氏、私のこと大好きなんで」
「…………」
春香の眉がピクリと動いた。
そして――
「チッ」
小さな舌打ち。
「春香さん、今舌打ちしたっすよね?」
「さぁ~? 仕事しよっと」
「絶対したっす!」
美心の抗議を無視して、春香はパソコンへ向き直った。
咲希はそんな二人を見ながら、小さく笑っている。
◇◇◇◇◇
あの夜。
三人は孤児院へ戻ると、シスターにたっぷりと叱られた。
家出したココはもちろん、夜に無断で外へ出たスズとクルミも同罪だった。
ただ、最後にはシスターが三人を強く抱きしめた。
「無事でよかった……」
その声は震えていた。
三人がいなくなったことが、それだけ心配だったのだろう。
スズはシスターの腕の中で、胸の奥が温かくなるのを感じていた。
それから一週間。
孤児院に、三人の冒険者がやってきた。
「おーい、シスター! 肉持ってきたぞ!」
大きな声が外から響く。
「まあ!」
シスターと子供達が外へ出る。
そこには、大きな猪を担いだ男の冒険者が立っていた。
「わあ!」
「でっかい!」
「今日は肉だ!」
子供達が一斉に歓声を上げる。
冒険者たちも嬉しそうに笑っている。
「あらあら、こんなに大きな猪を……」
「みんなに食べてもらおうと思ってな」
ちょうど昼食前だったため、三人の冒険者も一緒に昼ご飯を食べることになった。
「久しぶりのシスターの料理だ!」
「やっぱりこれだよな」
「懐かしい……」
三人とも嬉しそうに料理を口に運んでいる。
(……肉は口実なんじゃないかな)
スズはそんなことを思った。
特に――
一人の男性冒険者が、何度もシスターを見ている。
スズとクルミの視線がぶつかる。
二人は同時にニヤリと笑った。
ちなみにココは、そんなことなど一切気にせず料理を食べている。
昼食が終わると、冒険者たちが猪の解体を教えてくれることになった。
「こうやって刃を入れていくんだ」
冒険者が丁寧に説明する。
子供達も真剣に見ている。
……一部を除いて。
「ねえクルミ」
「何?」
「やっぱりあの人、シスターのこと見てるよね」
「うん」
「猪を持ってきたのも、シスターの料理が食べたかったからじゃない?」
「たぶんね」
「シスターも罪な女だね」
「……そうかも」
二人は顔を見合わせ、ニヤニヤする。
その時だった。
ゴツン!
「痛っ!」
突然、二人の頭に拳骨が落ちてきた。
「……え?」
スズが頭を押さえながら振り返る。
そこには――
鬼のような顔をしたシスターが立っていた。
いや。
スズには、シスターの頭から二本の角が生えているように見えた。
「シスター……」
「何かしら?」
「いつから角を生やしたんですか?」
「生えてません」
即答だった。
「でも見えます」
「見えなくていいです」
ゴツン!
「痛い!」
もう一度、拳骨が落ちた。
「そんなことより、しっかり解体の仕方を見ていなさい」
「はい……」
「クルミもですよ」
「はい」
二人は素直に前を向く。
しかし、しばらくするとスズがクルミへ小声で話しかける。
「ねえ」
「何?」
「シスター、ちょっと顔赤くない?」
「……私もそう思う」
「やっぱりあの人のこと――」
「スズちゃん?」
「はい」
「聞こえてますよ」
「すみません!」
シスターの笑顔が怖い。
クルミも慌てて口を閉じた。
◇◇◇◇◇
七話目のネームを読み終えた美心が、原稿を机へ置く。
「…………」
そして、春香を見る。
「春香さん」
「何?」
「恋したいんすね」
「…………」
春香の動きが止まった。
「漫画に願望が出てるっすよ」
「出てない」
「出てるっす」
「出てない」
「出てるっす」
「出てない!」
春香がムキになる。
美心は勝ち誇ったような笑顔を浮かべた。
「珍しく私の勝ちっすね」
「何の勝負よ」
「春香さんをからかう勝負っす」
「そんな勝負してたの?」
「今決めたっす!」
美心が胸を張る。
「たまには私が勝ってもいいじゃないっすか!」
「…………」
春香は悔しそうに美心を見る。
「……じゃあ、次は負けないから」
「望むところっす!」
二人の間に火花が散る。
そんな二人を見ながら、咲希が小さく笑った。
「二人とも、仕事してください」
「はーい」
「了解っす!」
美心は上機嫌で自分の席へ戻っていく。
今日は珍しく、美心の勝ちだった。




