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第4話 無名の連帯保証(デッドライン)

 経済都市セフィロト。その華やかな表通りから幾層も下層へ降り、魔導配管が吐き出す錆びた蒸気に視界が霞む場所に、その店はあった。看板すらないある武器店の店主は、アッシュが差し出したなけなしのキャッシュの束を、義眼でスキャンするように眺めた。

「……第6課の課長さんよ。これっぽっちの金じゃあ、まともな軍用槍は買えねえ。あんたの部下の嬢ちゃんが持ってるような、公社特注のスマートな聖剣なんてもってのほかだ」

 店主が顎で示したのは、ジャンク品として積み上げられた歪な槍の山だった。アッシュはその中から、一本の槍に引き寄せられるように歩み寄った。

 それは、装飾のすべてが削ぎ落とされた、剥き出しの鉄のような無機質な質感を放つ長槍だった。穂先にはびっしりと、微細な文字で「契約文」が彫り込まれている。

「……店主。この槍、ずいぶんと『飢えて』いるね」

数ヶ月前、大規模な不採算案件の最中に愛槍を破壊されて以来、彼は実戦をルシアとギルバートに預けてきた。だが、今回の『陽だまりの区画』の査定では、彼自身も前線に立つ必要があると直感が告げていた。

「よく分かったな。そいつは昔、公社がある弱小国家を救済合併の名目で飲み込む際、その国の王に無理やり握らせた『契約調印用の儀礼槍』だ。国一つを買い取るための代価として、王の魂(光殻)を最後の一滴まで吸い尽くし、空っぽにしちまった忌み物だよ」

 店主は汚い布で手を拭きながら、冷やかすように笑った。

「そいつを振るうってことは、敵を倒すたびに自分の命を切り売りするってことだ。文字通りの『連帯保証』。敵を貫く『許可』を世界から得るために、公社に己の光殻を払い続けるようなもんだぜ。そんなもん、監査官のエリート様が持つ武器じゃねえよ」

 ルシアが即座に割り込み、アッシュの腕を強く引いた。

「即刻破棄すべきです。私のバイタルスキャンによれば、その槍に触れているだけで、貴方の光殻残量は微減し続けています。これは武器ではありません。持ち主の存在を『清算』し続ける、携帯型の自死装置です」

 ルシアの瞳のデバイスが、警告の赤色を明滅させる。

 この世界の通常の武器は、持ち主の「光殻」に呼応して強化される。だが、この槍は違う。「持ち主が損害を自らの光殻で肩代わりする」ことで、物理法則を強制的に書き換えるのだ。

「……でもね、ルシア。誰かが支払わなければ、何も救えないのがこの世界のルールだ」

 アッシュは微笑み、なけなしのキャッシュをカウンターに置いた。

 彼が槍を握り締めると、彫り込まれた契約文が鈍く赤く明滅し、アッシュの腕を透かして、彼の生命エネルギーである「光」が槍へと流れ込み始める。

「僕たちが今から行く『陽だまりの区画』。あそこで流される不当な負債を肩代わりするには、自分自身が最大の債務者になる必要がある。……この槍なら、その資格を与えてくれる」

 アッシュが槍を一閃させると、空間に赤い「領収済み」の文字が一瞬だけ浮かび、空気が悲鳴を上げて裂けた。物理的な衝撃ではない。アッシュの光殻を対価に、槍が「そこにあるべき空気を消去した」という契約を世界に結ばせた結果だった。

「名前は……『無名の連帯保証デッドラインか』。いい名前だ。受けて立つよ、この命の収支が尽きるその時までね」

 アッシュは、自分を削り続ける槍の冷たい重みを心地よく感じながら、黄金の地へと続く階段を上り始めた。

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