第18話 Conservative Program
電脳処理室の青白い空間を、銀色の閃光が切り裂く。
ルシアの手には、公社の高位執行官にのみ支給される「聖剣」が握られていた。
十字架以外の装飾を一切排した漆黒の柄に、曇り一つない白銀の直刃。それは武器というよりは、法を執行するための冷徹な計器のようだった。
その剣筋は、公社のデータバンクに蓄積された数百万通りの剣術ログを繋ぎ合わせた、聖騎士のように淀みのない、そして残酷なまでに美しい「最短距離」を描いていた。
「……第12連撃まで終了。回避率、依然として100%」
ルシアの瞳は、コンマミリ単位の火花すら見逃さない超高性能カメラとして機能している。
彼女の視界には、敵であるデータ・ラザルスの人工筋肉の収縮、重心の移動、さらに放出される熱源のベクトルが、無数の演算数式として投影されていた。
ラザルスの放つ光り輝くケーブルの鞭を、ルシアはわずか数ミリの隙間でかわし、聖剣を閃かせる。刀身が空気を切り裂く鋭い風切り音が、機械的な処理室に微かな旋律を奏でる。
それはまさに、計算機が描いた最も完璧な舞踏だった。
だが、その「完璧」は、突如として破られる。
「……無駄だ、ルシア。貴様の演算は、所詮『現行世代』の限界に縛られている」
ラザルスの声と共に、彼の姿がブレた。
ルシアの動体視力がそれを捉え、回避行動を計算し終えるより先に、彼女の腹部に凄まじい衝撃が走った。
「――っ!?」
ルシアの華奢な機体が、背後のサーバーラックをなぎ倒して吹き飛ぶ。
警告灯が網膜を焼き、内部損傷を知らせるログが視界を埋め尽くした。
「計算……不能。相手の加速、予測値を2.4倍上回っています」
ルシアが膝をつきながら見上げた先で、ラザルスはさらにその姿を歪に膨張させていた。
彼はこの処理室の基幹サーバーと直結し、自身の処理能力を無限にブーストさせている。
「貴様が『未来』を1手読む間に、私は1万通りの『結末』を確定させる。
……これは戦闘ではない。単なる、旧型データの消去だ」
ラザルスから放たれた無数のレーザーが、ルシアの退路を先回りするように網を張る。
ルシアは圧倒的な動体視力でそれを見切り、洋刀を振るうが、もはや「予測」が機能していない。
彼女が相手の動きを読んだ瞬間、ラザルスはその読みをさらに上回る最適解で、ルシアの装甲を容赦なく削り取っていく。
カラン、と高い音を立てて、ルシアの肩の装甲板が床に落ちた。
「ルシアさん……!」
背後でフィオが悲鳴を上げる。
「……フィオ、動かないでください。……問題、ありません」
ルシアは立ち上がるが、その脚部の駆動系は微かに火花を散らしていた。
どれほど洗練された剣筋であっても、それを支える「処理能力」という絶対的な物理的格差の前では、ただの無力なプログラムに過ぎない。
ルシアの回路は、冷徹な結論を導き出していた。
<勝算:0.00012%>
<推奨:全機能の停止による内部資産の保全>
彼女は、血の通わない機械の瞳で、自身を「旧型」と断じる迫りくる死を見つめていた。
ここまでお読みいただき本当にありがとうございます!
アーマー〇・コアって知ってますか……?
機械同志の戦闘なので、ここはなんとなくそれをイメージしながら書きました。
アンドロイドなので全く別物ではありますが…
少しでも「面白い」「続きが読みたい」と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、毎日の執筆の最大の励みになります!
合わせて【ブックマークに追加】もぜひよろしくお願いいたします!




