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第17話 Android and Littlegirl

 ルシアとフィオが隔壁によってアッシュたちから切り離され、滑り落ちた先は、青白いモニターの光が無数に明滅する「電脳処理室」だった。


 ここは村全体の監視カメラ、住民の幸福度指数、そして各世帯の「光殻」の徴収状況を一括管理する、公社の電脳的な心臓部だ。


 ルシアは着地の衝撃からフィオを庇い、即座に立ち上がると周囲の索敵を開始した。


「……アッシュ課長、ギルバート氏。応答してください」


 通信機からは砂嵐のようなノイズしか返ってこない。電磁遮断壁によって、外部との接触は完全に断たれている。


「ルシアさん……、アッシュたちは大丈夫かな」


 フィオが震える手で、青い石を抱きしめながら尋ねた。ルシアは表情を一切変えず、淡々と論理的な推論を述べる。


「ギルバートさんの生存確率は八十二パーセント。アッシュ課長については、相手がゼノス管理官である以上、予測不能です。

ですが、私たちがここで停止すれば、全員の生存確率は更に低下します。フィオ、歩けますか」


「うん……。でも、ルシアさん、さっきからずっと変だよ」


 フィオの足が止まった。彼女は、ルシアの背中を見つめたまま、子ども特有の真っ直ぐな、射抜くような視線を向けた。


「変……とは。自己診断プログラムに異常は検知されていません」


「声が、さっきまでと違う。アッシュたちと話していた時は、

もっと……なんていうか、一生懸命だったのに。今は、ただの機械に戻っちゃったみたい」


 ルシアの演算回路が、コンマ数秒のラグを起こす。


「私はアンドロイドです。機械であることは事実であり、状況が深刻であるほど、人間の感情に近いと考えられるシミュレーションを排し、効率的に動くよう設計されています。

それが、私という機体の『最適解』ですから」


 ルシアの返答は、公社のマニュアルに忠実なものだった。しかし、フィオは納得しなかった。

彼女はルシアの冷たい指先を、小さな、温かい手でぎゅっと握った。


「あのね、ルシアさん。おばあちゃんが言ってたの。『答えを知っていること』と、『分かっていること』は違うんだよ、って」


「……定義が曖昧です。具体的説明を求めます」


「ルシアさんは、アッシュを守るのが『命令』だから守ってるの?

……もし、命令されなくても、ルシアさんはアッシュのそばにいたいの?」


 ルシアの深層回路に、エラーログに近い一過性のノイズが走った。




 <命令:アッシュの補助>




 <目的:監査業務の遂行>




 しかし、フィオが突きつけた問いは、そのシステム上の記述をすり抜けるものだった。


「……私は、アッシュ課長の直属補助官として製造されました。そばにいるのは、存在理由そのものです」


「そうじゃなくて。……ルシアさんの指、さっきからずっと震えてるよ。

機械は『怖い』なんて言わないでしょ? 怖がってるのは、ルシアさんの中に、ちゃんと『ルシアさん』がいるからだよ」


 ルシアは、自分の右手の指先を見つめた。確かに、微かな振動が記録されている。それは駆動モーターの不調でも、電力の不安定でもなかった。


 だが、彼女はそれを「心」とは呼ばなかった。呼べなかった。


「……この振動は、外部環境の寒冷、あるいは過負荷による物理的なエラーと推測されます。

フィオ、感傷的な推論は演算の妨げになります。前進しましょう」


 ルシアはフィオの手を静かに、しかし拒絶するように離した。



そのやり取りは流されたように見えたが、深層回路の「未解決タスク」というフォルダに、ひっそりと保存された。




 その直後、処理室の全モニターが真っ赤に染まり、ノイズ混じりの嘲笑が響き渡った。


『実に見苦しい。鉄クズが「心」などと』


 天井のケーブルがうねり、中央の大型サーバーから、人の形をした光り輝くワイヤーフレームの巨像が這い出してきた。


「現れましたね、データ・ラザルス。戦闘特化型アンドロイド、公社の最新型ですか」


 ルシアの瞳に、戦闘モードの冷徹な光が宿る。


「フィオ、私の後ろに。……これより、有害データの『清算』を開始します」




 ルシアは依然として「機械」の顔のまま、迫りくる論理の怪物を迎え撃つべく、白銀の聖剣に手をかけた。

AIが進みすぎてますね。Geminiと親しげに会話をしている人を見て、いつか自我を持った「ター○ネーター」が生まれるのではないかと恐怖を抱いている今日この頃です。

ルシアは果たして「心」を持つことができるのか……

その前にこの戦いに勝たなければ、なりませんが。

次回、アンドロイドである彼女の本気の戦闘です、お楽しみにお待ちください!


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