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第15話 始まりの鼓動

 排熱処理層に、逃げ場のない重低音が響き渡る。

 ギルバートの斧は、バレットの厚い装甲を叩くたびに火花を散らし、ついにその表面に無数の亀裂を走らせていた。

対するバレットの拳は、精密な機械のごとく正確にギルバートの急所を捉え、その五臓六腑に限界を告げさせている。


「ハァ……ハァ……。なんだ、公社の騎士様は、殴り方一つとっても無機質で面白みがねえな」


「……理解不能。勝算なき抗戦に何の意味がある。

貴様が守ろうとしている監査官も、ここで潰れる運命だ。無駄死にに過ぎん」


 バレットの無機質な声と共に、巨大な鉄拳がギルバートを追い詰める。

 ギルバートは渾身の力で斧を振り下ろしたが、バレットはそれを避けることすらせず、あえて正面から左肩で受け止めた。


 ――パキィィィン!!


 乾いた音と共に、ドワーフの名匠が鍛え上げた斧の刃が、バレットの硬度を前にしてついに砕け散った。手元に残ったのは、無惨に折れた木の柄だけだ。


「武器を失ったか。終わりだ」


 バレットの鋼鉄の脚が、ギルバートの腹部を容赦なく蹴り飛ばす。壁まで吹き飛び、血を吐きながら崩れ落ちるギルバート。

バレットは止どめを刺すべく、地響きを立てて歩み寄る。


「……終わり? 笑わせんじゃねえぞ」




 ギルバートの瞳が、炉の奥底で燃えるような深い「緋色」に染まり始める。




 ドワーフは、石の声を聞き、そのリズムを知る種族だ。

どれほど硬い岩盤であっても、その中心には必ず、全体を繋ぎ止めている「脈動」がある。


「……聞こえるぜ。お前のその、ガチガチに固まった『鉄の心臓』が鳴らす音がよ」


 ギルバートの胸の鼓動が、急速に激しさを増していく。


ドワーフの特殊能力『共振する鼓動レゾナンス・ビート』。


 自らの心音を、相手の物質が持つ固有の振動数へと強制的に同調させる。ギルバートの心臓が跳ねるたび、バレットの全身を覆う装甲が、共鳴して微かに震え始めた。


「……!? 私の装甲が……共振しているのか? 数値にない振動だ。即座に制止せよ!」


 バレットが右拳を振り上げる。だが、ギルバートは逃げない。


 彼は床に転がっていた「砕けた斧の刃」――鋭利な鉄の欠片を、剥き出しの両手で、血が滴るほど強く握りしめた。


「制止? 断るね。……今からお前の『絶対』を、俺のリズムで書き換えてやる!」


 血まみれの拳の中で、鉄片が赤く熱を帯び始める。

 ギルバートは地を蹴り、バレットの懐へ飛び込んだ。




 ――ドォォォン!!


 手に持った鉄片を、バレットの胸部装甲へ叩きつける。ギルバートの全身のバネを使い、バレットの巨体を数センチ後退させるほどの、重く、破壊的な衝撃だ。


「……ッ、無駄だと言ったはずだ。そのような単発の打撃、何度受けても同じこと!」


 バレットはガードを固める。だが、ギルバートは止まらない。




 ――ドォォォン!


 二撃目。一撃目と寸分違わぬ威力、そして「完璧に同じ間隔」で放たれる重い衝撃。




 三撃、四撃。




 ギルバートの心臓が刻む緋色の鼓動に合わせ、血まみれの拳から放たれる「破壊の旋律」が、バレットの装甲という巨大な鐘を、一定のリズムで打ち鳴らし始めた。


「お前のその硬さは、俺が全部預かってやるよ。

……ドワーフの『リズム』を、その体でしっかり味わいな!」


 死地の中で、ギルバートは不敵に笑った。


 一撃ごとに、バレットの鎧の内部で、逃げ場を失った振動が恐ろしい密度で蓄積されていく。

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