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第14話 矛盾

 轟音と共に隔壁が閉ざされ、アッシュたちの気配が完全に断たれた。


 ギルバートが立たされたのは、巨大な排気ファンが唸りを上げる灼熱の区画――収穫塔の動力源から発せられる廃熱を処理する「排熱処理層」だった。


「チッ、面倒くせぇことしやがって……」


 ギルバートが忌々しそうに首の骨を鳴らしたその時、正面の闇を切り裂いて、重量感のある金属音が響いた。


 ドシン。ドシン。


 それは歩み寄るだけで、床の鉄板を歪ませ、層全体を震わせるほどの質量。

 現れたのは、鉛色の鈍い光を放つ全身鎧の巨人だった。


「……ゼノス直属、清算執行官。名はバレット・メイ。これより、資産番号774の障害物を物理排除する」


 その騎士――バレットの姿は、もはや人間が鎧を着ているというよりは、金属の塊が人の形を成しているようだった。


 特筆すべきはその圧倒的な装甲厚。公社が極秘裏に精錬した高密度合金――通常兵器の直撃すら凹み一つ作らせない「絶対硬度」の塊。


盾など持たぬ。その厚さ数センチに及ぶ装甲板そのものが、あらゆる攻撃を物理的に「拒絶」するための絶壁だった。


「バレットだと? 景気のいい名前じゃねえか。だが、そのデカい図体ごと叩き潰してやるよ!」


 ギルバートが大斧を構え、地を蹴った。

 一瞬で間合いを詰め、渾身の力で斧を振り下ろす。岩をも断つその一撃が、無防備に立つバレットの頭部を正確に捉えた。


 ――ガキィィィィン!


 火花が散り、鼓膜を劈くような金属音が響く。だが、ギルバートの腕に返ってきたのは、手応えではなく、自分の腕の骨が軋むほどの「硬質な反動」だった。


「……ッ!?」


 見れば、バレットの兜には傷一つ付いていない。ただ、ギルバートの斧の刃が、硬すぎる物質に衝突した衝撃でわずかに欠けていた。


「……無駄だ。我らが装甲は、公社の絶対的な資産価値を守るための外殻。

貴様の振るうような粗野な暴力は、エネルギーの無駄遣いに過ぎん」


 バレットは衝撃に微動だにせず、丸太のような太さの右腕をゆっくりと振り上げた。その動作に魔導的な輝きはない。ただ、圧倒的な自重と筋力が生み出す、純粋な物理の暴力。


 ――ドォォン!


 空気が爆ぜる音と共に放たれた鉄拳が、ギルバートの腹部を打つ。


「が……はっ……!」


 咄嗟に斧の柄で防いだが、衝撃は相殺しきれず、後方の壁まで吹き飛ばされた。

背中の鉄板がひしゃげ、肺の中の空気が強制的に押し出される。


「ハッ……いいパンチだ。だがな、俺は『壊れないもの』を見ると、余計に壊したくなるタチなんだよ」


 口の端から垂れる血を拭い、ギルバートが不敵に笑う。

 重騎士バレットは、一切の油断なく、再び鉄の塊のような拳を握り込み、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。


「……再計算の必要なし。貴様は、ここで完全に圧砕される」




 灼熱の廃熱処理層で、逃げ場のない「盾と矛」の死闘が幕を開けた。


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