第13話 絶望を喰らう石
地下に溜まった、どろりとした黒い泥。
それは公社が「幸せな村」を維持するために、住民の魂から削ぎ落とした絶望や苦痛の残滓――「重殻」だ。
フィオの手の中で、青い石がその闇を喰らい、脈動を速めていく。
「……なるほど。この石は、公社が捨てた『重殻』を糧に、支配を拒絶する聖域を再構築しているということか」
アッシュの言葉が終わるより早く、頭上のハッチが激しい音を立てて開放された。
『不確定要素の排除を開始する。……諸君、不法侵入者から君たちの「幸福」を守りたまえ』
ゼノスの声が響くと同時に、黄金の瞳をした村人たちが、狂ったような笑顔を浮かべて地下へとなだれ込んできた。
「おい、こいつら……数が多すぎるぞ!」
ギルバートが可能な限り傷付けないように大斧を振るうが、痛覚を遮断された村人たちは、重なり合い、文字通りの「人の波」となってアッシュたちを押し流そうとする。
「警告します! 地下施設が物理的に隔離されます。ゼノスの狙いは我々の分断です!」
ルシアの叫びと同時に、床が轟音と共にスライドした。
「フィオ!」
アッシュが手を伸ばすが、村人たちの集団がその間に割り込む。
強制的な区画整理により、足場がバラバラの方向へと動き出した。
「アッシュ! ギルバート!」
フィオの悲鳴が遠ざかる。とっさに彼女を抱えたルシアの区画は、さらに地下深くへと滑り落ちていった。
「……チッ、一人ずつ料理しようって魂胆かよ。いいぜ、受けて立ってやる!」
ギルバートは立ち塞がる村人たちの波の向こう、闇の中でこちらを見つめる巨大な影――ゼノス直属の執行官、バレット・メイを見据えた。
「……アッシュ!」
最後にルシアと視線が交差する。彼女の瞳には、かつてないほど複雑な演算の光が宿っていた。
轟音が止んだとき、広大な地下施設は厚い防壁によって完全に三つに分かたれていた。




