表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/19

第12話 たった一つの自由

 アッシュの槍によって死の淵から救われ、泥のように眠る青年。その傍らでフィオは、ひび割れた青い石を愛おしそうに撫でていた。


「……これ、おばあちゃんがパパに託したものなの」


 フィオがぽつりと呟く。


「この村が黄金の光に包まれるずっと前、おばあちゃんはこの地で一番長く働いて、一番多くの光殻を公社に納めた人だった。

でも、公社はおばあちゃんが倒れたとき、一言も労わずに『不採算な人』として見捨てられちゃった。

そのとき、おばあちゃんの中に残った最期の『怒り』が、公社が吸い取りきれなかった余分あまりとして、この石になったんだって」


 アッシュは槍の柄を握る手に力を込める。

 公社のシステムが計算しきれなかった、老女の執念。それが「青い石」——公社の支配を受け付けない、たった一つの「帳簿外の自由」。


「パパは、これをおばあちゃんの形見としてずっと隠してた。

いつか、この石を使って、この村を本当の姿に戻すんだって。

……でも、石はまだ眠ったままなの」


「眠ったまま?」


 ギルバートが聞き返す。


「ルシア、スキャンを」


「了解。……やはり、この石は『欠損』しています。現在の状態は、膨大なデータを保持するための空の容器ストレージに過ぎません。

……おそらく、その『中身インデックス』は別の場所にあります」


 ルシアの瞳が収穫塔の基部、地面を這う太い魔導パイプを指し示した。


「……地下です。この村の住民から吸い上げられたもののうち、公社が『不要』と判断して捨てた記憶や感情——つまり『重殻じゅうかく』が投棄されている場所。

そこに、この石を完成させるための鍵があります」


「それがゼノスが隠したがっている『裏帳簿』の正体か」


 アッシュは収穫塔を見上げた。黄金に輝くその威容は、もはや巨大な墓標にしか見えなかった。


「行こう。パパが目を覚ますまでに、この石を完成させなきゃいけない。

……ルシア、最短の潜入ルートを割り出して」


「了解。塔の裏側、重殻の排出口に繋がるメンテナンスハッチがあります。

そこからなら、ゼノスの監視網を抜けて地下最深部へ到達可能です」




 一行は、眠る青年を安全な茂みに隠し、巨大な塔へと向かった。

 道中、村人たちが幸せそうに笑いながら、自らの命を削って働く光景が続く。その狂気じみた多幸感の中を、アッシュたちは影のように進む。




 塔の裏側にひっそりと佇む、錆びついたハッチ。そこには公社の厳しい管理が行き届いていない。

なぜなら、ここは「捨てる場所」であり、公社にとって価値のないものが集まるゴミ捨て場だからだ。


「……準備はいいかい、二人とも。ここから先は、数字では割り切れない『絶望』の底へ行くことになる」


 アッシュが槍を構え、ハッチのロックに穂先を滑らせる。

 バキリ、と契約の鍵を破壊する音が響き、中から澱んだ冷気と、数え切れないほどの「誰かのすすり泣き」が混ざり合ったような異様な音が溢れ出した。




 アッシュ、ギルバート、ルシア、そして石を抱いたフィオ。

 四人の影が、黄金の光を背にして、深い闇へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ