第11話 交錯する思惑
黄金の麦畑を切り裂き、現れたのは三人の執行官だった。ゼノス直属の隠密部隊である彼らは、本局の最新鋭魔導具で全身を武装し、感情を排した鏡面のマスクで顔を覆っている。
「資産番号774において、未登録の『不確定要素』を検知。管理官ゼノスの命により、直ちに回収する」
執行官の一人が無機質に告げ、フィオが抱く青い石へと容赦なく手を伸ばした。
「……なるほど。ゼノス管理官は、この村の収支報告よりも、この『石』の行方に興味があるらしいね」
アッシュが槍を構えようとした瞬間――横から荒々しい風が吹き抜けた。
「御託はいいんだよ。公社の犬が、ガキの宝物に色目使ってんじゃねえ!」
ギルバートだった。
彼は愛用の大斧を軽々と振り回すと、地を割るような踏み込みで執行官たちの懐へと飛び込んだ。
「なっ……監査官の同行者が、公務執行を妨害するか!」
「公務だぁ? 知るかよ。俺の目には、コソ泥が少女をいじめてるようにしか見えねえな!」
ギルバートの剛腕から放たれた一撃は、魔導防壁ごと執行官の一人を吹き飛ばし、続く二撃目で残る二人の連携を粉砕した。圧倒的な暴力の前に、精密なはずの執行官たちの陣形が瞬く間に崩れ去る。
「……ぐっ、この野蛮人が……!」
二人の執行官が沈黙する中、最後の一人が地面を転がりながらも、懐から煙幕弾のような魔導具を起動させた。
「待て、逃がすな!」
アッシュの鋭い声が飛ぶが、激しい閃光と煙が視界を遮る。
煙が晴れたとき、そこには大の字にのびた二人の執行官と、遠くの麦畑へと消えていく一筋の影が残されていた。
「……チッ、一人逃がしたか」
ギルバートが忌々しそうに斧を肩に担ぎ直した。
「深追いは禁物だ。……ルシア、今の連中の装備をスキャンできたかい?」
「了解。……照合完了。彼らが携行していたのは『不純物保管用』の特殊コンテナです。
ゼノス管理官の狙いは、村の清算そのものではなく、この石の私物化にあります」
ルシアの解析に、アッシュは確信を得た。
ゼノスは公社のシステムを欺き、この石の力と、石に封じられた純粋な感情エネルギーを、自身の「裏帳簿」に加えるための私財として狙っているのだ。
「……フィオ、怖い思いをさせてごめん。でも、これでハッキリしたよ」
アッシュは膝をつき、怯えるフィオの目線に合わせて静かに語りかけた。
「その石は、ただの思い出じゃない。ゼノスのような人間が、ルールを破ってまで欲しがる『この村の本当の価値』だ。
……僕たちがそれを調査し、正しい持ち主に返すまで、君と石は僕たちが守る」
「……あ、ありがとう……アッシュさん」
フィオはまだ震える手で石を抱きしめていたが、その瞳には小さな信頼の灯が宿っていた。
逃げた一人がゼノスに報告すれば、次に来るのはさらなる精鋭か、あるいはゼノス本人だろう。
「ギルバート、ルシア。……これより、この村の『重点調査』に切り替える。
この石の正体を突き止めることが、清算を止める唯一の鍵になるはずだ」
黄金の地獄の裏側、公社の帳簿には決して載らない「真実」を暴くための本格的な調査が始まった。




