64.魔力覚醒
「二人ともひっどぉい!ボクらはどこへ行っても天使みたい♡って言われてるのに!」
「でもこーーーんなにカワイイボクらが来たからにはもう安心!手取り足取り魔法を教えてあげるネ、オネーサン?」
きゅるん、と両頬に指を当てて、わざとらしくステラを見上げるディオスとクロイス。
“手取り足取り”などと聞き捨てならない単語に肩を怒らせたセリウスは、さらにステラを背で覆い隠した。
「妻に妙な触れ方をすれば斬る」
聖女の寵愛を受けながら、城の侍女達にまで手を出した悪辣どもだ。無垢で可愛らしい容姿を利用して女の身体へ気安く触れる姿は日常茶飯事だった。こやつらはステラにも同じことをするに違いない。
「ボクらを斬ったら君は妻に触れられないケド?」
「それでもイイならお好きにドーゾ?」
にっこりと二人揃って笑みを向けられ、セリウスは「ぐっ」と唸って苦虫を噛み潰すような顔をした。このまま制御が効かなければ、彼女の指先にさえおちおち触れられない。
「イズラールも安心しなヨ!お子チャマには興味ナイからサ!」
「やっぱ出るトコ出てないとネ!」
相変わらず食えないオッサンどもめ。
イリーゼを庇っていたイズラールは、妹への危害が避けられたことでやれやれとため息をついた。
「ていうかアンタら、魔法公側の人間だったのかよ。セリウスが聖女様に歯向かうって知ったら、真っ先に止めてかかったくせにさ」
イズラールは聖騎士時代の二人を思い出して訝しむ。
セリウスが聖女へ“飾りの妻をあてがわれた感謝”を述べて宣戦布告を明確にしたあの日。
“さっきの態度なあに?ボクらの姫様を嘲ったノ?”
“立場が大事なら、あんまり調子に乗らない方が身のタメだヨ!”
“キミは聖騎士なんだから”
ファビアンが宥める中、ディオスとクロイスは聖女へ傾倒するレオニダス側に付き、強くセリウスへ反発したのだ。
すると双子は「ああ、ソレね」と振り向くなり、ケラケラと無邪気に笑った。
「そんなのウソウソ」
「仮にも隠密なのに、あの場でセリウスを応援できるワケないデショ?」
「牽制のフリくらいはしないとネ」
「ま、魔法公サマの邪魔になるなら消すつもりだったケド。結果オーライってコトで!」
二人は物騒な内容を世間話のように答えて見せる。
つまり、“可愛い子たち”と呼ばれて寵愛されていた双子は、聖女に微塵も懐いてなどいなかった。
「元より送り込まれた魔法宮の手だったということか...」
「まじかよ...。危なかったね、セリウス」
こう見えて彼らの魔力と剣の実力は本物だ。
その気になればいつでもこちらを始末出来たのだろう。セリウスとイズラールは血の気を引いた顔を見合わせた。
「ハイハイ!辛気臭い話は終わり!それより早速はじめるヨーっ!」
「魔法公サマは“迅速に”って仰ってたんだから!さっさと魔力覚醒ドンドンやっちゃお!」
双子は打って変わってパンパン!と手を叩き、「ほらほら列に並んでネーっ」と仕切り始める。
するとセリウスの後ろに隠されていたステラが「ようやくか!」とずいっと二人の前に進み出た。
「ステラ、」
慌てて呼び止めようとするセリウスに、彼女は母親の小言でも聞くように面倒そうな顔で振り返る。
「まったくお前の過保護は相変わらずだな。それより先を越されてこちとら不満だったんだ、一番乗りはあたしからだろう!」
ステラは意気揚々と双子の前に立つと、「やってくれ!」と豪快に笑う。その声に全く怯えはない。
すると双子はキョトンと目を丸くして彼女を見つめ、嬉しそうにぱあっと口元を上げた。
「思い切りが良いネ!とってもボク好み!」
「じゃ、早速胸元を開いてくれる?」
「おう、こうか」
「馬鹿か信じるな!!」
がばっと躊躇無く開かれかけたステラの胸元を、間に滑り込んだセリウスがぎゅっ!と閉じる。
「何故胸元を見せる必要がある!!」
「そりゃ心臓に魔力は宿るからネ?」
「覚醒には血を送り出す根幹に触れなくちゃネ?」
「なるほど」
「なるほどではない!魔法公は手を握っただけで魔力回路を開いただろうが!!」
頷くステラに怒鳴ったセリウスは、即座に双子を振り向き怒鳴り付けた。怒りと焦りを表すように、バチバチッ!!と周囲に青白い稲妻が炸裂する。
「「セリウスこわーい!」」
キャハ!と笑った双子は「バレちゃった」「ザーンネン」なんて舌を出して片目を瞑った。
「合法的にさわれるチャンスだったのにネ」
「こんなにあるんだからひと揉みくらいイイじゃんケチ!」
「うわぁ...」
全く悪びれない二人の下劣さに、イズラールを含めた騎士達が顔を引き攣らせる。
「見ておけステラ、この魔物以下の邪悪さを。一瞬たりともこやつらに気を許すな」
「お、おう...」
黒い怒気と雷光を纏ったセリウスに厳しく言い含められ、ステラは思わず後ずさった。
まったく、油断も隙もない。天使のような美少年の笑顔で悪魔のような行動を繰り出す双子は、鈍感なステラには最悪の相性と言えるだろう。
「あーあ、つまんナーイ」
「しょーがナイから普通にやろっかあ」
警戒するセリウスの目の前で、双子はけろりとステラに手を差し出す。
ステラが改めて双子の手を取れば、「いくよー」と軽い掛け声の後に、手の中へ血液が逆流するような感覚が流れ込んだ。
身体の中に未知の力が流れ込み、無理やり何かをこじ開けられる。指先が熱い。腕が、血管が、心臓が激しく脈打つ。
「ッ、うあ!?」
思わず声が漏れた瞬間、ぼわっ!と手の中から熱い炎が噴き出す。
側で見守っていたセリウスが目を見開き、周囲の騎士達が「おお!?」と声を上げて動揺した。
「イイね、とっても攻撃的な炎の魔力だ!」
「量も濃さも充分!実戦向きだネ!」
双子にウンウン!と笑顔を向けられ、ステラは自分の手をまじまじと見るなり、ぱあっと目を輝かせた。
「見たかセリウス!火が出たぞ!」
振り向いてぽん!とセリウスの胸を押すと、指先から火の粉がぶわっと彼の前に飛び散る。
「ッ!?、気をつけろ!」
「あはは!こりゃすごいな!」
同時に驚いたセリウスからも稲妻が散るが、ステラは楽しげに笑い声を上げた。
「笑い事か!過度に暴発したらどうする!」
「だってこんなの笑っちまうだろ!いきなりビックリ人間になっちまったんだぞ!」
「君は危機感と言うものが無いのか!」
「今は恐怖より面白いが勝つな!こんなもんで怯えてたのか、この臆病者め!」
「なんだと、俺が昨晩どんな気持ちで...!」
賑やかに交わす二人の間には、言葉を発する度に稲妻と炎が互いに飛び交う。
「卿と奥方様から雷と火が...」
「あんなに簡単に覚醒しちゃうんですねえ」
「しかし、火が出ても笑っておられるとは豪胆な...」
「流石の奥方様だよねえ」
現実とは思えない光景に、唖然とする騎士達とイリーゼ達。ディオスとクロイスは楽しげにくすくすと笑うと、「君たちもやるんだヨ」と手を広げた。
「ホラ、怖くナイ怖くナイ」
「レッツマジカル⭐︎」
余計に不安を煽る口調に、騎士達はじり...と尻込みするのだった。




